59 / 84
【本編】
55.激怒するツガイ
しおりを挟む
「なんなのよ?!あり得ないわ!」
俺が男達を倒したのを見てリリアン嬢が金切り声を上げる。
まさかこんなことになるとは思わなかったのだろう。
とは言えここでまた変な濡れ衣を着せられても困るから俺はそのまま部屋から飛び出した。
「待ちなさい!」
焦ったようにリリアン嬢が声を発するけど、待っても俺に利はない。
ドアの外に先程ドアを叩いた令嬢がいるかと思ったけど、そこには誰もいなくて不思議に思う。
あれは一体誰だったんだろう?
そう思いながら走る。
すると角を曲がったところで誰かにぶつかった。
「す、すみません!」
慌ててその相手の顔を見るとそこにいたのはディオンで、驚いた顔をした後俺を腕の中へと閉じ込めギュッと抱きしめてくる。
「ラスター。無事で良かった」
余程心配していたんだろうか?
どこか泣きそうな顔で俺を見つめてきて胸がギュッと締め付けられてしまう。
「何があった?」
優しく聞いてくるディオンに俺もわかる範囲で事情を説明しようと口を開こうとしたのだけど……。
「見つけたわよ?!」
息を荒げて必死に追いかけてきたリリアン嬢が来てしまった。
「リリアン侯爵令嬢?」
「ディオン様?!」
彼女はディオンの姿を確認した途端サッと居住まいを正してとても綺麗なカーテシーを披露する。
「ご無沙汰しております」
「……ラスターを追いかけてきたように見えたけど、どういうことか説明をしてもらっても?」
笑顔だし口調は優し気だけど、その目は全く笑っていない。
でも彼女はそれに気づいていないようだ。
ディオンの笑顔に明らかにホッとしたように胸を撫で下ろし、事実とは程遠い話をし始めた。
「その…マーガレット嬢にお願いしてラスター様に謝罪しようと呼び出したのは良いのですが、ちっとも謝罪を聞き入れていただけなくて、私、悔しくて、悲しくて、つい紅茶をかけてしまったのですわ。それで怒って出て行かれてしまったので慌てて追いかけてきたのです」
どうやら紅茶をかけたことは隠せないと思ったらしく、苦し紛れの言い訳を口にする。
「私、本当に反省していますの。ラスター様。申し訳ございません」
ポロポロと涙を流しながら謝罪してくるリリアン嬢。
凄いな。三秒で本当に泣けるなんて役者になれそうだ。
「……ラスター。本当?」
ディオンが疑わし気に聞いてくるけど本当のはずがない。
「えっと…殺されそうになって逃げてきたとしか…」
その言葉にディオンが纏う空気が変わる。
「殺されそうに?」
「ヴィクターさんが三人の男達を連れてきたんだけど、彼らが令嬢から依頼を受けたからと短剣で襲い掛かってきたんだ」
「ヴィクターが?!」
「あ、ヴィクターさんは多分知らないんじゃないかな?誰かに頼まれて部屋に案内しただけって感じですぐに退室したから」
「あいつ…っ!」
ディオンがギリッと歯噛みする中、リリアン嬢が泣きながら『誤解ですわ!』と叫んだ。
「酷い…。ラスター様、どうしてそんな嘘を仰るの?やっぱり以前のパーティーでワインをかけたことを怒ってらっしゃるのね?こんなに謝っているのに…うっ、ひど、酷いですわぁ…ぐすっ…」
そんなやり取りをしているとなんだなんだと人が集まってきた。
これはマズい気がする。
「私に貴方を殺すなんてこと、できるはずがありませんわ…っ!うぅっ…ぐすっ…。そんな恐ろしいことっ無理ですっ…ひっく…っ」
そんな彼女の姿を見て俺に非難の目が集まるのを感じる。
(やられた…)
女性の涙はある意味非常に強い。
それは前世でも痛感したことではある。
こうなっては何を言っても言い訳にしかならない。
何度リューンにシャーリーを泣かせるなと言われたことか。
そんなつもりはなかった、泣かせる気はなかったそう言っても無駄なのだ。
泣かせたのは事実だろうと言われたらそれまでだから。
だから俺は何も言い訳する気はなかった。
ここは甘んじて非難を受け入れようと思ったのだ。
でもそれを良しとしないのがディオンだった。
「泣けば済むと思うなよ?俺の大事なラスターが嘘を吐くはずがないだろう?ふざけてるのか?」
ヒヤリと冷たく響く声に含まれるのは本気の怒気。
「ディオン…様?」
これにはリリアン嬢も驚いて目を見開いている。
「ラスターは優しいからこの場でこれ以上何も言わないだろうけど、俺は絶対に許さない!見ろ、この服を!紅茶をぶっかけられてシミはできているし、逃げるために必死になって短剣を避けたせいで服も髪も乱れてよれよれになってる!これをどう見たら嘘だと言える?!どちらが本当のことを言っているかは一目瞭然だ!」
「ディオン…」
「ラスター。男達に襲われて怖かっただろう?守ってあげられなくてゴメン。実行犯を今すぐ殺しに行ってくるから場所を教えて?」
「「え?!」」
その言葉にリリアン嬢が真っ青になる。
俺もこれにはドン引きだ。
流石にそこまではしなくていい。
(そう言えば竜人ってツガイを愛せば愛するほど過激になるんだった)
前世では俺の方がリューンより強かったから平気だったけど、多分そうじゃなかったらとっくに殺されていた気がする。
こうなるとツガイが宥めないと歯止めが利かなくなるらしい。
「ディオン!俺は平気だから」
だから止めに入ったんだけど…全く聞こえてないな。
「ラスター…どこ?」
ニコリ。嗤う。
怖い。
でもこれに屈するわけにもいかない。
(仕方ないな)
「ディオン。二度、言わせないで?」
あんまりしたくはなかったけど、威圧スキルを使わせてもらう。
ちなみに魔法と違い、スキルは今世でも割と有効のようだ。
それは培ってきた経験から来るものだからなのかもしれない。
スタンピードの時に無意識に扇動スキルを使っていたのを思い出したから威圧スキルも使えるかもと思ったら案の定発動した。
勿論本気でやってしまうと全員跪かせてしまうから軽めに発動させたけど、ちゃんと効果はあるはず。
「うぅ…陛下…それは卑怯です…」
小声でそう呟き、渋々屈服するディオン。
「ゴメン。ディオン」
「……その代わりこの後はもう何を言われようと絶対に離れませんから」
ギュッと抱き込んでくるディオン。
どうやらそれで引いてくれるらしい。
(でも、言葉は戻してほしいな)
スキルのせいでまた戻ってしまったから何とかしたいところだ。
「ディオン。馬車で着替えてもいいかな?」
「勿論」
そう言ってエスコートしてくれる姿にホッとする。
そして俺達は呆然と立ち尽くすリリアン嬢に背を向けて馬車の方へと足を向けた。
俺が男達を倒したのを見てリリアン嬢が金切り声を上げる。
まさかこんなことになるとは思わなかったのだろう。
とは言えここでまた変な濡れ衣を着せられても困るから俺はそのまま部屋から飛び出した。
「待ちなさい!」
焦ったようにリリアン嬢が声を発するけど、待っても俺に利はない。
ドアの外に先程ドアを叩いた令嬢がいるかと思ったけど、そこには誰もいなくて不思議に思う。
あれは一体誰だったんだろう?
そう思いながら走る。
すると角を曲がったところで誰かにぶつかった。
「す、すみません!」
慌ててその相手の顔を見るとそこにいたのはディオンで、驚いた顔をした後俺を腕の中へと閉じ込めギュッと抱きしめてくる。
「ラスター。無事で良かった」
余程心配していたんだろうか?
どこか泣きそうな顔で俺を見つめてきて胸がギュッと締め付けられてしまう。
「何があった?」
優しく聞いてくるディオンに俺もわかる範囲で事情を説明しようと口を開こうとしたのだけど……。
「見つけたわよ?!」
息を荒げて必死に追いかけてきたリリアン嬢が来てしまった。
「リリアン侯爵令嬢?」
「ディオン様?!」
彼女はディオンの姿を確認した途端サッと居住まいを正してとても綺麗なカーテシーを披露する。
「ご無沙汰しております」
「……ラスターを追いかけてきたように見えたけど、どういうことか説明をしてもらっても?」
笑顔だし口調は優し気だけど、その目は全く笑っていない。
でも彼女はそれに気づいていないようだ。
ディオンの笑顔に明らかにホッとしたように胸を撫で下ろし、事実とは程遠い話をし始めた。
「その…マーガレット嬢にお願いしてラスター様に謝罪しようと呼び出したのは良いのですが、ちっとも謝罪を聞き入れていただけなくて、私、悔しくて、悲しくて、つい紅茶をかけてしまったのですわ。それで怒って出て行かれてしまったので慌てて追いかけてきたのです」
どうやら紅茶をかけたことは隠せないと思ったらしく、苦し紛れの言い訳を口にする。
「私、本当に反省していますの。ラスター様。申し訳ございません」
ポロポロと涙を流しながら謝罪してくるリリアン嬢。
凄いな。三秒で本当に泣けるなんて役者になれそうだ。
「……ラスター。本当?」
ディオンが疑わし気に聞いてくるけど本当のはずがない。
「えっと…殺されそうになって逃げてきたとしか…」
その言葉にディオンが纏う空気が変わる。
「殺されそうに?」
「ヴィクターさんが三人の男達を連れてきたんだけど、彼らが令嬢から依頼を受けたからと短剣で襲い掛かってきたんだ」
「ヴィクターが?!」
「あ、ヴィクターさんは多分知らないんじゃないかな?誰かに頼まれて部屋に案内しただけって感じですぐに退室したから」
「あいつ…っ!」
ディオンがギリッと歯噛みする中、リリアン嬢が泣きながら『誤解ですわ!』と叫んだ。
「酷い…。ラスター様、どうしてそんな嘘を仰るの?やっぱり以前のパーティーでワインをかけたことを怒ってらっしゃるのね?こんなに謝っているのに…うっ、ひど、酷いですわぁ…ぐすっ…」
そんなやり取りをしているとなんだなんだと人が集まってきた。
これはマズい気がする。
「私に貴方を殺すなんてこと、できるはずがありませんわ…っ!うぅっ…ぐすっ…。そんな恐ろしいことっ無理ですっ…ひっく…っ」
そんな彼女の姿を見て俺に非難の目が集まるのを感じる。
(やられた…)
女性の涙はある意味非常に強い。
それは前世でも痛感したことではある。
こうなっては何を言っても言い訳にしかならない。
何度リューンにシャーリーを泣かせるなと言われたことか。
そんなつもりはなかった、泣かせる気はなかったそう言っても無駄なのだ。
泣かせたのは事実だろうと言われたらそれまでだから。
だから俺は何も言い訳する気はなかった。
ここは甘んじて非難を受け入れようと思ったのだ。
でもそれを良しとしないのがディオンだった。
「泣けば済むと思うなよ?俺の大事なラスターが嘘を吐くはずがないだろう?ふざけてるのか?」
ヒヤリと冷たく響く声に含まれるのは本気の怒気。
「ディオン…様?」
これにはリリアン嬢も驚いて目を見開いている。
「ラスターは優しいからこの場でこれ以上何も言わないだろうけど、俺は絶対に許さない!見ろ、この服を!紅茶をぶっかけられてシミはできているし、逃げるために必死になって短剣を避けたせいで服も髪も乱れてよれよれになってる!これをどう見たら嘘だと言える?!どちらが本当のことを言っているかは一目瞭然だ!」
「ディオン…」
「ラスター。男達に襲われて怖かっただろう?守ってあげられなくてゴメン。実行犯を今すぐ殺しに行ってくるから場所を教えて?」
「「え?!」」
その言葉にリリアン嬢が真っ青になる。
俺もこれにはドン引きだ。
流石にそこまではしなくていい。
(そう言えば竜人ってツガイを愛せば愛するほど過激になるんだった)
前世では俺の方がリューンより強かったから平気だったけど、多分そうじゃなかったらとっくに殺されていた気がする。
こうなるとツガイが宥めないと歯止めが利かなくなるらしい。
「ディオン!俺は平気だから」
だから止めに入ったんだけど…全く聞こえてないな。
「ラスター…どこ?」
ニコリ。嗤う。
怖い。
でもこれに屈するわけにもいかない。
(仕方ないな)
「ディオン。二度、言わせないで?」
あんまりしたくはなかったけど、威圧スキルを使わせてもらう。
ちなみに魔法と違い、スキルは今世でも割と有効のようだ。
それは培ってきた経験から来るものだからなのかもしれない。
スタンピードの時に無意識に扇動スキルを使っていたのを思い出したから威圧スキルも使えるかもと思ったら案の定発動した。
勿論本気でやってしまうと全員跪かせてしまうから軽めに発動させたけど、ちゃんと効果はあるはず。
「うぅ…陛下…それは卑怯です…」
小声でそう呟き、渋々屈服するディオン。
「ゴメン。ディオン」
「……その代わりこの後はもう何を言われようと絶対に離れませんから」
ギュッと抱き込んでくるディオン。
どうやらそれで引いてくれるらしい。
(でも、言葉は戻してほしいな)
スキルのせいでまた戻ってしまったから何とかしたいところだ。
「ディオン。馬車で着替えてもいいかな?」
「勿論」
そう言ってエスコートしてくれる姿にホッとする。
そして俺達は呆然と立ち尽くすリリアン嬢に背を向けて馬車の方へと足を向けた。
11
あなたにおすすめの小説
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
【本編完結済】神子は二度、姿を現す
江多之折(エタノール)
BL
1/7外伝含め完結
ファンタジー世界で成人し、就職しに王城を訪れたところ異世界に転移した少年が転移先の世界で神子となり、壮絶な日々の末、自ら命を絶った前世を思い出した主人公。
死んでも戻りたかった元の世界には戻ることなく異世界で生まれ変わっていた事に絶望したが
神子が亡くなった後に取り残された王子の苦しみを知り、向き合う事を決めた。
戻れなかった事を恨み、死んだことを後悔し、傷付いた王子を助けたいと願う少年の葛藤。
王子様×元神子が転生した侍従の過去の苦しみに向き合い、悩みながら乗り越えるための物語。
※小説家になろうに掲載していた作品を改修して投稿しています。
描写はキスまでの全年齢BL
【完結】薄幸文官志望は嘘をつく
七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。
忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。
学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。
しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー…
認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。
全17話
2/28 番外編を更新しました
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
貴族軍人と聖夜の再会~ただ君の幸せだけを~
倉くらの
BL
「こんな姿であの人に会えるわけがない…」
大陸を2つに分けた戦争は終結した。
終戦間際に重症を負った軍人のルーカスは心から慕う上官のスノービル少佐と離れ離れになり、帝都の片隅で路上生活を送ることになる。
一方、少佐は屋敷の者の策略によってルーカスが死んだと知らされて…。
互いを思う2人が戦勝パレードが開催された聖夜祭の日に再会を果たす。
純愛のお話です。
主人公は顔の右半分に火傷を負っていて、右手が無いという状態です。
全3話完結。
【完結】選ばれない僕の生きる道
谷絵 ちぐり
BL
三度、婚約解消された僕。
選ばれない僕が幸せを選ぶ話。
※地名などは架空(と作者が思ってる)のものです
※設定は独自のものです
※Rシーンを追加した加筆修正版をムーンライトノベルズに掲載しています。
【8話完結】ざまぁされて廃嫡されたバカ王子とは俺のことです。
キノア9g
BL
王位継承権を剥奪され、婚約者にも婚約破棄された元王子カイル。
ショックで前世の記憶を思い出した彼は、平民として新たな人生を歩む決意をする。
心配して訪ねてきた旧友レオナードと深い絆が育まれ、カイルは自分の心に素直になる。
過去を乗り越え、共に歩む未来が描かれる物語。
全8話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる