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第一章 異世界で女子力について悩む
美香改めフローラ、爆誕する
しおりを挟む美香の喪女スキル、また一つ発覚
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・
ふんわりとしたストロベリーブロンドが、風をはらんで広がった。
やわらかな春の日射しの下、花畑で花を積む幼い少女は、まるで芸術家が描く絵画のよう。
漠然と皆が夢見る、現実味の薄い、完璧な美少女である。
彼女は、赤みがかって見える金の波打つ髪を束ねずに風さらしたまま、一心不乱に腕に下げている篭へ花を摘み入れていく。
そんな彼女は小さく歌を歌っていて、それがまた花を積むのをリズミカルにさせていた。
歌は……日本人なら分かるだろう、茶摘み歌だ。
ブロンド美少女が茶摘み歌。
この残念加減……彼女こそ、女神ヘラに女子力と加護をいただいて生まれ変わった、前世・橋爪美香こと、今世・フローリーチェ。
通称フローラである。
彼女の側には孔雀色の羽を持つ鳥がいる。
前世の世界での孔雀とは違って、きちんと羽ばたいて飛ぶことができるフォルムだ。
大きさも、孔雀ほど大型ではない。小鳥と鷹の中間くらいの大きさだ。
もちろん、この孔雀色の鳥は――ハネちゃんである。
この世にフローラと共に生まれ出でた彼は、今の名をハイネと言う。
単に幼すぎて滑舌の悪い幼女が「ハネちゃん」と彼を呼んでいたのを、周囲が聞き間違えた結果だ。
つまり彼の名前は、結局ハネちゃん。通称がハイネである。
神鳥に連なる彼にこの仕打ち。
フローラは、つまりテキトウな女だった。
感性が鈍いおかげだろう。図太いとも言う。
しかし、見る限りフローラは繊細そのものの美少女。
外見詐欺である。
彼女の意外な内面について、知っているのは暮らしている村の人々くらいだった。
今も彼女とハイネの少し離れた場所で、見守るように壮年の男性と少年がいる。
彼らにはフローラの茶摘み歌が聞こえている。
どことなく民謡チックな異国の歌は、フローラの持つ加護のおかげで、なんと異世界でもダイレクトに通じてしまっているのだ。
花も恥じらう少女の歌う茶摘み歌。しかも結構ガチで歌い込んでいる。
いや、それはそれで可愛らしいが、傍から見ていて、美少女が口ずさむのは軽やかなハミングとかであってほしいはず。
しかし彼らはフローラのギャップを知り尽くしているので、いつものこととして、あっさりと聞き流してしまうのだ。
酷いときなんて、アニソン(兄貴)を高らかに歌い、ハイネに合いの手を強要するのは当たり前。
フローラ八歳、前世では懐かしのアニソンをカラオケで熱唱する愛好家であった。
お気に入りはG7。
没年齢からいって、当然、アニメは見たことはないし、どんなアニメ画かすら知らない。
ただ、その内容だけは歌の歌詞で知っている。
小学生が社長でロボで戦うとか、前世の社会では児童虐待ですぐに問題視されるような内容だ。
しかし、その歌のサビを神鳥に一緒に歌えと強要するほうが酷い。
正確には神鳥の一部とはいえ、この世界では紛れもない瑞兆なのに。
その妙なる声で、アニソンのサビ(じ○せぶ○)。あと絶叫でZ。
――ハイネの心は空より広い。
そしてそれを生暖かく見守る村民。
実は口出しすると巻き込まれるので、遠巻きにしているだけである。
だって、意味がダイレクトで分かるのだ。そんな素っ頓狂な内容の歌、歌いたくない。
サビでだいたい変な名前を連呼する歌というばかりか、それが何かの技名とか何かの固有名詞だとわかっちゃうのだ。
ここは(きっと)心の広い瑞兆であるハイネさまに任せよう。ハイネさまはフローラの神鳥なのだから、と。村民は逃げをうった。
最近はハイネも諦めて付き合っている。
神鳥だけに歌は上手いのだ。
そのせいでさらにソロを強要されているという、無限地獄に入っている。
ハイネの犠牲に、草葉の陰で村人は泣いていることだろう。爆笑で(笑)。
そんな美少女と神鳥は、面白いから見守られているのではない。
フローラの生誕があまりに衝撃的だったし、生まれてから判明した加護の稀少さに、村中が感謝しているからである。
フローラ、サブタイトルどおりに爆誕したのだ。
実際に爆風はなかったが、それほどの衝撃だった。
彼女が生まれ落ちた瞬間、光の柱が立ち、周囲は薫香に包まれた。
そして光の柱が消えると、残っていたのは幼子と一羽の鳥。
前世で言う、孔雀色のその鳥は、この世界では女神ヘラの象徴と言われていた。
聖者が生まれたと、近隣大騒ぎになった。
そしてしばらくして、周囲は落ち着いた。生まれた女の子は可愛らしかったが、それだけである。
一度見れば可愛い子だね、と。それだけだ。
一緒にいる鳥も綺麗だが、それだけだ。
見るだけで明らかな神威などなかった。
あと、彼女らを実際に見に来たのは、純朴な田舎の村民ばかりだった。
可愛い子と綺麗な鳥だなぁ、ありがたやありがたや。拝んでみたし、ウチらもいいことあるかねぇ、くらいに受け止めた。
実はこのふたり、すぐにとんでもないご利益が発覚する。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・
次回、
ヘラ様、やりすぎです
です。
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