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第一章 異世界で女子力について悩む
領主さま、悶絶する
しおりを挟むフローラたんの残念被害者 二番目登場
(筆頭はハネちゃん)
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・
領軍に守られる村に、落とし子。
実はこれ、異常事態である。
今までの数少ない落とし子たちは、こんなに幼いうちからキラキラしいデビューなどせず、ある程度の年齢になってから加護に気づき、神殿やしかるべき所へ届け出たりするのがほとんどだった。
つまり、そのへんに落とし子はゴロゴロしていない。
みんなしかるべき場所にいて、一般人が会える存在ではない。
何故こんなことになったかといえば、やはりフローラのせいである。
生まれたときに目立ちすぎた。
こんな派手で目立つ加護を与えたヘラ様のせいともいえる。
で、領軍に守られてるし、もう安心! フローラ、この地で幸せに暮らしました~end~とはならなかった。
第二次(一次は生まれたとき)フローラフィーバーの後、まず領軍を差し向けた領主さまが、物凄く慌てて村にやって来た。
数名の供と護衛の兵士数名で、騎馬で駆けつけたのである。
この世界、中世ヨーロッパっぽい。しつこいが異世界テンプレである。
つまり、お貴族さまの移動は馬車が基本。
それなのに、騎馬で駆けられる供のみ連れて、領主さまが直でやってきた。
本来なら有り得ない事態である。
しかし、この世界で最も尊い神の落とし子がいるかもしれないのだ。
のんびり馬車の旅をしていられるほど、領主さまの神経は太くなかった。
実は馬車、出発するのに人も時間も用意もかかる。
そのため、権力や金のある者はいつでも馬車を用意しているから、急に「出かける」となってもサッと馬車が出てくるのだ。
これも、行く先が街なら通用する。
夜は街で宿泊なら、最低限の食事も水も馬車に積んで行ける。
夜休めるなら馭者も一人でいけるかもしれない。
馬の飼い葉も手に入れられるし、馬がへばっても領主ならば強権発動して交換できる。
しかし、これから向かうのはただの農村。しかも僻地。
着けば人も馬も食事には困らないだろうが、問題は着くまでの間だ。
この時点で、着くまでの間食べる馬の飼い葉と人間の食事、最低限の水の持ち込み決定。
荷物を積んだ馬車がいる。
つまり馬車が二台になる。
これにより、連れていく人間も馬も増える。
さらに問題なのが、フローラの生まれた村は領地の端の方で、村へ向かう間はただの野っ原が広がっていた。
その所々に農村が点在するだけの、完璧なド田舎。
つまり街道がない。
明確にある道は、農民が歩いて作った獣道に毛の生えたようなシロモノ。
馬車で駆けるには危険である。
というか無理だ。
そこそこの大きさの石があるだけで横転の可能性があるのだ。
パワーのある馬で、頑丈な馬車でも、安全確認した上でしか移動できない。
つまり時間がかかる。
地元の道に詳しい人間を連れてなら、まだ可能性があったが、その人間を連れてくるのに時間がかかる。
この場合、地域を巡る旅商人とかだ。
荷馬車で旅をする上で、道に長けているし、水場も知っている。
適任だ。
だがそれには彼らの行き先を特定し、依頼して案内を頼む……至極普通だが、ちょっ速を心がけたい今は都合が合わなかった。
道々案内を募集しながら進むのは、もう少し拓けた田舎だったら可能性があったかもしれない。
町との行き来に定期的に荷馬車などを使っているからだ。
馬車は高級品だ。ピンからキリまであるが、最低限の資金がないと持てないし、維持できない。
繋ぐ馬も高い。
維持するには金も人もいる。
馭者もいる。
この点、クリアできない田舎者は基本馬車に乗らないので、馬車の通れる道を知っているか不安だった。
そこで、領主さまは自身で自身の荷物を背負い、騎馬で駆けるのが最短じゃね?と、思い付いてしまったのだ。
希望のない現状にかなり追い詰められていた結果である。
もちろん、先立って道の安全確認のための兵士は先行させている。
騎馬で行くのなら、先に村へ向かわせた領軍の通った後を辿るのだ。確実性が上がる。
――いける! もうこれしかない!
そう思った領主さまは、落とし子自領に生誕の報に、かなり目が眩んでいた。
同様に目が眩んでいたものの、騎馬で直接領地の端まで駆けるのが体力的に無理な臣下は、供に落選したのを血の涙を流す勢いで悔しがっていた。
せっかく本物の落とし子(噂ではべらぼうに可愛い幼女)に会える機会だったのに、と。
その筆頭、前領主さまの代から仕えている爺やさんは、後に語った。
「このときほど、自分の年を恨んだことはない」と。
そうして領主さまは、比較的若い、行軍に耐えられる人数で、フローラのいる村に到着したのである。
ちなみにこの旅路、領主さまが考えていたよりずっと大変だったらしい。
それもそのはず。
領主さまのようなお貴族さまは、騎乗して遠乗りは楽しむが、基本的に騎乗したまま旅などしたことがないのだ。
しかも今回はなる早希望。
そして本物の軍隊の行軍は、もちろんこんな強行はしない。戦う前にへばっていたら職分を全うできないからである。
しかし、このボロボロになってまで急いで来た領主さまに、村人の好感度は高まった。
せめてもの幸いである。
そしてここまでして来た理由の幼女に、さっそく会った。
「ごりょーつたま? はじめまちて、フローラでしゅ」
(約・ご領主さま? はじめまして、フローラです)
フローラ、このとき二歳。年のわりに上出来である。
この幼女のたどたどしい挨拶に彼は身悶えしたかったが、必死で我慢して、彼女に名乗り返した。
「うむ。わたしはこの領地を治める、ディール・フレミアである」
しかし、口角が弛みまくっていた。
ボロボロの格好でにやけが止まらないご領主さまの威厳は全くなかったと、このとき同行した臣下は後に語った。
……まあ、その臣下もボロボロでにやけていたのだが。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・
次回、
領主さま、フローラに貢ぐ(金銭にあらず)
です。
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