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第一章 異世界で女子力について悩む

領主さま、再び(猛女付き)

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 たいへんご無沙汰しております。

 美少年との出会いが吹き飛ぶ、領主さま一行リターンです。


 これからまたぼちぼち更新いたしますので、よろしくお願い致します。


~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・


 ショックでまだぐったりしているハイネを抱えてがっくがっくと揺するフローラに、戦慄するオプシディアン。

 ーー花畑は緊張感に包まれていた。

 傍から見る大人にとっては、神鳥を抱いて楽しそうにする二人、みたいなほほえましい光景に見えているが。

 それもこれも、オプシディアンの一言が原因だ。

「そうだふたりとも! もうすぐお父様が来るぞ⁉ この浮いてるの消さないと!」

 お父様……貴族の子っぽいオプシディアン+名乗った姓がフレミア=ディールさま⁉

 目の前で慌てるきりっとした美少年の父がディールであるのも衝撃だが、領主さまがもうすぐ来るほうが差し迫ってヤバい。

 こうして、冒頭に戻る。


「しっかりしてよぉハネちゃん! ステータスってどうやって消すの? いつ消えるのよぉ⁉」

「ぐえっ! うえっ」

「やめろフローラ、お鳥さま死んじゃうぞ!」

 必死のオプシディアンの制止で無事強制揺すられの刑から脱したハイネは、吐き気をこらえつつやっと前向きなことを言った。

「うっ……ステータス、オープンしたんだからクローズ……ってぇ⁉」

 なんということでしょう。
 また新たなステータス画面が虚空に展開!

「うえぇええっ⁉」

「うわぁっ!」

 驚く子どもたちの叫びが花畑に響いたが、相変わらず変なフィルターがかかった大人たちは「子ども同士ではしゃいでるな~」と、のほほんとしめいた。


   *   *   *


 ハイネのステータス画面まで表示されて大わらわだった二人と一羽。
 とりあえずステータス確認は後回しにして、領主さまに対応するため画面を消して、オプシディアンと最低限の確認をはじめた。

 ちなみに、ステータス画面は「ステータスクローズ」で消えた。
 ハネちゃんナイス!


「じゃあ、僕はディアンで」

「私はフローラ」

「俺はハイネ」

 呼び名を確認し、二人と一羽は“花畑で楽しく遊んで仲良くなった”ことをアピールしよう、ということで落ち着いた。

 ふたりのペースにすっかり巻き込まれているディアンだが、さっき出会ったばっかりなのだ。
 本来ならこんな予想外のふたりの能力はしかるべき大人に報告するのが筋である。責任とれないし。
 が、目の前のふたりに完全に巻き込まれ、流れで「さんにんの秘密!」みたいになってしまった。

 この事を後にディアンは振り返り、乾いた笑みを浮かべつつ「……若かったんだ」と言った。

 見知ったばかりの相手も巻き込む残念さを発揮する、フローラの呪いであった。


 後ほどさんにんでステータスを確認すると決め、無邪気さを装って花畑を下りると、遠くのほうに数人の大人の姿が見えた。

 その中で、ひときわ目を引く御仁はーー癖ではねる黒髪を撫で付け、ひらいた額にはくっきりとした眉。眉間が狭い骨格から目の窪みが深く、遠目では真っ黒に落ち窪んで見える瞳は、実は透ける茶色。発達した顎にお髭を携えた、立派すぎる体格の偉丈夫ーー領主さまである。

 はっきり言おう。これのどこからディアンができたのか、不明なくらい生物としてかけ離れた威容である。

 しかし、親子の名乗りは間違いではなかったようだ。
 コワモテには初対面で絶対に向けない笑顔を見せ、ディアンがうれしそうに呼びかけた。

「お父様!」

 やはり実の親子らしい。世の中には、不思議なこともあるものよ……。

「おお、ディアン! フローラ、ハイネ殿!」

 領主さまはうれしそうに破願し、両手を広げてさんにんに向かい走った。

 護衛対象に走られると、ついて行かざるをえない護衛と領主さまのお付。
 それらを背後に従えて、猛然と走ってくる領主さまにフローラとディアンは抱え上げられた。

「久しいなフローラ! 元気であったか?」

「はい! お久しぶりです、領主さま!」

 子ども二人を抱えて、くるくる回る領主さま。とんでもない膂力である。

「ちょっ、やめてください父上! 僕はもう子どもじゃないんですから!」

 年下の女の子と一緒に抱き上げられてクルクルされたディアンは、照れ隠しで父の腕から抜け出そうとするが、当然領主さまの腕力には敵わなかった。

 じたばたする息子を無視して、でれっとした顔で女の子のほっぺたにスリスリする父親に、ディアンは恥ずかしさマックスである。

 お父さんとの抱擁につきものの、「おひげがいた~い」を済ませたフローラと領主さま。
 見守ってほっこりする一行に、歩いて追ってきていた人物からの一言が、空気を凍らせた。

「兄上……女の子を振り回すものではありませんよ。怪我でもしたらどうするのです」

 笑顔を張り付けた猛女、カーネリア登場。

 途端、ぎこちない空気になる男たち。

 しかし、フローラは男ではない。

「カーネさま!」

 喜色満面で彼女の名を呼び、薄情にも領主さまの腕の中で彼女へ手を差し出した。
 これ、反射である。
 以前は当たり前のように抱きかかえられていたので、自然とそうしてしまったのだ。

 抱っこをせがむ幼女を満面の笑みで引き取り、さらに高い高いをするときの格好で持ち上げるカーネリア。
 四歳を。

 ……とんでもない膂力である(二回目)。



 ひきつった笑みを張り付かせた男たちを尻目に、養女と再会したカーネリアはさっきまでの張り付いた笑顔ドコ?と言わんばかりの全開笑顔である。

「フローラ! 私のかわいい子! 元気だった?」

「うん! カーネさまは相変わらずきれいだね~! 美魔女!」

「まあ、ほほほ。この子ったら~」

 挙げ句クルクル回りだしたカーネリア。
 このあり得ないパワーは、実は魔法とスキルである。安心してほしい。

 ……さっきは自分が女の子抱えてクルクルすんなって言ったのに。
 しかし言い返すのが怖い男たち。


 盛り上がるフローラとカーネリアを淋しそうに見守る一行と領主さまに、空気を読んだディアンは、おとなしく抱き上げられたままでいた。



 次回、

 魔女の条件

 です。

 
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