幸せを知る異世界転移

Prologue

死

「アナタなんて、生まれなければよかったのに」
　ごめんなさい。
「アナタがいるから、私は…！」
　ごめんなさい。
「一族の恥ね、本当」
　ごめんなさい、母さん。




「お前の様な奴が息子だとはな」
　ごめんなさい。
「お前には失望した」
　ごめんなさい。
「私の息子だとは思わん、勝手に野垂れ死ね」
　ごめんなさい、父さん。




「悠馬ゆうま、あんたさぁ、もっと頑張れないの？」
　ごめんなさい。
「あんたみたいなのが弟だっていうこっちの身にもなってよね」
　ごめんなさい。
「ほら、血が流れてるわよ、もっと、流しなさい」
　ごめんなさい、姉さん。




「お前がいるから負けたんだぞ！」
　ごめんなさい。
「お前がいるせいでアイツが怪我したじゃねぇか！」
　ごめんなさい。
「お前みたいなやつ、家族でも何でもないね！」
　ごめんなさい、皆。




「お前のせいだ」

「お前のせいだ」

「お前のせいだ」

「お前のせいだ」

「お前のせいだ」






「お前みたいな奴、死んじまえ」










　僕は、星釣ほしづり悠馬ゆうま、『天下』とまで言われる星釣家の当主の息子であり、出来損ない…らしい。
　星釣家は全員が優秀、学門、武門、研究、探究、そうした多くの事柄において星釣の家名を持つ者は歴史に名を刻んできた。
　そんな中で、星釣家は考えた。
　星釣の者同士が契りを交わせば、より優秀な子供が生まれるのでは？と…。

　そして生まれたのが、僕だ。

　常識的に考えれば分かったはずだ。血縁者同士の間に生まれる子は血が濃過ぎる故の問題が起きる事がある。多聞に漏れず、僕は非常に身体が弱い子供として生まれた。

　頭が悪かったわけじゃない、むしろ、幼い頃から罵倒を聞き、怒鳴られ、一人でいる環境が多かった僕は読書を趣味としていて十歳ながらに知識だけなら父にも負けない程だった。

　しかし、それを発揮する機会は訪れない、僕の存在は公表されていない。
　与えられた部屋から出ることも許されず、僕はお風呂さえも布で身体を拭くだけで終わっていた。

　優しくしてくれた人はいた。その人はもう、死んでしまったけど。
　だから僕は誰にも優しくしてもらおうなど望まない、望んだらその人が死んでしまうから。

　外を見ると、雪が降っていた。


　寒い、本の中で、毛布にくるまって寝ると暖かいという文を見た事がある。

　布団って、何だろうか。ベッドって、何だろうか。僕は知らない、布団も、ベッドも、毛布も、僕に与えられているのは、段ボールだけだから。

　本棚だけが僕の友達、本だけが、僕を今の悲しさから救ってくれる。

　僕がこの部屋にいる。その事さえもあの人達には迷惑なことらしい、僕が存在している事が、不幸を招くのだと言われた。

　何かの商談に失敗したら僕の所為、何かの試合に負けたら僕の所為、誰かが怪我をしたら僕の所為、僕が居る所為、僕が生きている所為。

　
　生まれて、ごめんなさい。

　生きていて、ごめんなさい。

　寒さが僕の熱を奪っていく。



　それでも、思うんだ。



　生んでくれて、ありがとう。

　ここまで生かしてくれて、ありがとう。

　寒さが教えてくれる。僕は、ここで死ぬ。

　怒鳴りながらも、僕を構ってくれた家族に感謝をしている。

　恨みなど何処にも無い、ただ、これまでの生活に感謝を。



　これまでの人生に、感謝を。



　……………………
　………………
　…………
　……
　…
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