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第H章:何故倒された魔物はお金を落とすのか
生と死/2:その天才は物理学者の夢「超大統一理論」でノーベル賞を逃した
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「史上最年少でのノーベル賞、おめでとうございます! 今のお気持ちは?」
2024年12月10日。ストックホルムのコンサートホールにて、日本の若き天才がフラッシュに包まれていた。彼女の名は、綾崎シズカ。23歳という年齢は、それまで最年少記録を所持していた1915年受賞者、ローレンス・ブラッグの記録を2年更新する若さだ。受賞理由は、量子コンピューターの応用理論に関する論文。と、いうことになっている。
「ありがとうございます。光栄です。憧れの天才、アインシュタイン博士と同じ経緯の受賞は、とても名誉なことです」
列席者からざわめきが起こる。そこに小さいながらも、数多くの舌打ちが発せられていたのかもしれない。
「お前のお姉様は、嫌味も天才級だな」
「そうかな。多分、本人は嫌味と思っては言ってないと思うよ。まぁ私は、アインシュタイン嫌いだけど」
相対性理論で知られるアインシュタイン。しかし、彼がノーベル賞を受賞した論文は、既に発表されていた相対性理論のものではなく、光電効果を記した物だった。勿論、それが程度の低い研究結果だということはない。だが、現代物理学の基礎を築いた相対性理論に比べれば、その輝きは当然かすんでしまう。当時を持ってしても、相対性理論が革新的であることは既に周知の事実だった。にもかかわらず、受賞理由が光電効果に関する論文となった理由。それは、当時の科学者達には相対性理論がとても理解できないものだったからだ。それ程までに、相対性理論が革新的過ぎたのだ。それでも、アインシュタインにノーベル賞を、という気運に押され、まだ理解ができる範囲だった光電効果の論文が受賞理由となったのだった。
「物理学者の夢だった、超大統一理論。それを証明したなんて、まだ信じられないよ」
「私も。だって、この論文、まったく理解できないもの」
かつて、電気の力と磁石の力が実は同一の物だったと証明されて以後。この世界に存在するすべての力、すなわち、重力と、クィークとレプトンという素粒子にまつわる強い力と弱い力を加えた4つの力が、どれも根源的には同じものであるという予測は、ほぼすべての物理学者が信じて疑わない仮説だった。しかし、電磁気力と弱い力が同一であるという電弱統一理論こそ発見されたものの、それが強い力とも同一であるとする大統一理論、さらには、重力すらも同一のものであるとする超大統一理論は、ほぼ手付かずの状況だった。
その理論を、当時22歳の大学院生であったシズカが打ち立てた時、誰もが笑った。日本人はスタップ細胞の一件から何も成長していない、と。しかし、それから世界各所で行われた追従実験の結果、どうやらこの論文は正しいらしいという認識が広まり、同時に彼女の名は21世紀の大天才として誰もが知るものとなった。そんな彼女にノーベル賞を、という声があがるのは必然だったが、追従実験中の世界最高の頭脳達ですら、シズカの超大統一理論の完全な理解と追従証明にはまだ長くの時間がかかるとされ、その結果、副産物とも言うべき量子コンピューターの応用理論での受賞ということになった。
「つーか、何食えばこんなもの書けるようになるんだ?」
「同じ物を食べて育った家族の私が書けない時点で、食事との因果関係はないと思う。というか、生育環境でもなければ、遺伝でもないってのは、リク君がよくわかってるよね?」
馬喰リクはちらりと隣に目をやり、改めて、コンサートホールの壇上に目をやる。その目に写った姿は、瓜二つだった。ノーベル物理学賞を受賞した若き天才、綾崎シズカ。その双子の妹である綾崎シズクは、彼とは幼稚園からの幼馴染だ。
「ほんと、何なんだろうなぁ。お前のお姉様は、さ」
「わかんないよ。わかるわけないじゃん。お姉ちゃんもわからないって言ってたし」
ひとつ確実なことは、決してシズクが頭の悪い人間ではないということだ。事実、彼女はシズカと同じ大学、同じ研究室に所属しており、成績は不動の2位だった。もしもシズカが居なかったのなら、天才の名は彼女の物になっていたかもしれない。それは今より数十年先に与えられる称号だっただろうが。
「……こんなところで、今聞く話じゃないと思うけどさ。お前、羨ましくないのか?」
「羨ましい、か。どうなんだろう。わからないや」
「羨望じゃないなら、嫉妬か? あいつが居なければ、とか」
「それは考えたこともない。自慢のお姉ちゃんだもん。でも……」
言葉を区切り、一呼吸。
「ねぇ、聞きたいんだけど」
「ん?」
正面から視線を横に向けたリクが見た幼馴染の表情は、哀れみに感じられた。少しどきりとしつつ、その先の質問を身構える、が。
「ううん、なんでもない」
自らの言葉を打ち消し、再び壇上に目を戻したシズクに従い、リクも何も言わずに視線を戻した。彼女が何を言おうとしたのか、なんとなく理解できてしまったから。それは凡人である自分にはもちろん、シズクにすらとても理解できない感情なのだろう。もし、独りだけ何もかも理解できてしまっていたとしたら、それはきっと、絶対の孤独なのだろうから。
「まぁそれでも、俺はあのお姉様みたいになりたかったけどな。かっけぇし」
シズクは、何も答えなかった。リクも、振り返ることはなかった。
2024年12月10日。ストックホルムのコンサートホールにて、日本の若き天才がフラッシュに包まれていた。彼女の名は、綾崎シズカ。23歳という年齢は、それまで最年少記録を所持していた1915年受賞者、ローレンス・ブラッグの記録を2年更新する若さだ。受賞理由は、量子コンピューターの応用理論に関する論文。と、いうことになっている。
「ありがとうございます。光栄です。憧れの天才、アインシュタイン博士と同じ経緯の受賞は、とても名誉なことです」
列席者からざわめきが起こる。そこに小さいながらも、数多くの舌打ちが発せられていたのかもしれない。
「お前のお姉様は、嫌味も天才級だな」
「そうかな。多分、本人は嫌味と思っては言ってないと思うよ。まぁ私は、アインシュタイン嫌いだけど」
相対性理論で知られるアインシュタイン。しかし、彼がノーベル賞を受賞した論文は、既に発表されていた相対性理論のものではなく、光電効果を記した物だった。勿論、それが程度の低い研究結果だということはない。だが、現代物理学の基礎を築いた相対性理論に比べれば、その輝きは当然かすんでしまう。当時を持ってしても、相対性理論が革新的であることは既に周知の事実だった。にもかかわらず、受賞理由が光電効果に関する論文となった理由。それは、当時の科学者達には相対性理論がとても理解できないものだったからだ。それ程までに、相対性理論が革新的過ぎたのだ。それでも、アインシュタインにノーベル賞を、という気運に押され、まだ理解ができる範囲だった光電効果の論文が受賞理由となったのだった。
「物理学者の夢だった、超大統一理論。それを証明したなんて、まだ信じられないよ」
「私も。だって、この論文、まったく理解できないもの」
かつて、電気の力と磁石の力が実は同一の物だったと証明されて以後。この世界に存在するすべての力、すなわち、重力と、クィークとレプトンという素粒子にまつわる強い力と弱い力を加えた4つの力が、どれも根源的には同じものであるという予測は、ほぼすべての物理学者が信じて疑わない仮説だった。しかし、電磁気力と弱い力が同一であるという電弱統一理論こそ発見されたものの、それが強い力とも同一であるとする大統一理論、さらには、重力すらも同一のものであるとする超大統一理論は、ほぼ手付かずの状況だった。
その理論を、当時22歳の大学院生であったシズカが打ち立てた時、誰もが笑った。日本人はスタップ細胞の一件から何も成長していない、と。しかし、それから世界各所で行われた追従実験の結果、どうやらこの論文は正しいらしいという認識が広まり、同時に彼女の名は21世紀の大天才として誰もが知るものとなった。そんな彼女にノーベル賞を、という声があがるのは必然だったが、追従実験中の世界最高の頭脳達ですら、シズカの超大統一理論の完全な理解と追従証明にはまだ長くの時間がかかるとされ、その結果、副産物とも言うべき量子コンピューターの応用理論での受賞ということになった。
「つーか、何食えばこんなもの書けるようになるんだ?」
「同じ物を食べて育った家族の私が書けない時点で、食事との因果関係はないと思う。というか、生育環境でもなければ、遺伝でもないってのは、リク君がよくわかってるよね?」
馬喰リクはちらりと隣に目をやり、改めて、コンサートホールの壇上に目をやる。その目に写った姿は、瓜二つだった。ノーベル物理学賞を受賞した若き天才、綾崎シズカ。その双子の妹である綾崎シズクは、彼とは幼稚園からの幼馴染だ。
「ほんと、何なんだろうなぁ。お前のお姉様は、さ」
「わかんないよ。わかるわけないじゃん。お姉ちゃんもわからないって言ってたし」
ひとつ確実なことは、決してシズクが頭の悪い人間ではないということだ。事実、彼女はシズカと同じ大学、同じ研究室に所属しており、成績は不動の2位だった。もしもシズカが居なかったのなら、天才の名は彼女の物になっていたかもしれない。それは今より数十年先に与えられる称号だっただろうが。
「……こんなところで、今聞く話じゃないと思うけどさ。お前、羨ましくないのか?」
「羨ましい、か。どうなんだろう。わからないや」
「羨望じゃないなら、嫉妬か? あいつが居なければ、とか」
「それは考えたこともない。自慢のお姉ちゃんだもん。でも……」
言葉を区切り、一呼吸。
「ねぇ、聞きたいんだけど」
「ん?」
正面から視線を横に向けたリクが見た幼馴染の表情は、哀れみに感じられた。少しどきりとしつつ、その先の質問を身構える、が。
「ううん、なんでもない」
自らの言葉を打ち消し、再び壇上に目を戻したシズクに従い、リクも何も言わずに視線を戻した。彼女が何を言おうとしたのか、なんとなく理解できてしまったから。それは凡人である自分にはもちろん、シズクにすらとても理解できない感情なのだろう。もし、独りだけ何もかも理解できてしまっていたとしたら、それはきっと、絶対の孤独なのだろうから。
「まぁそれでも、俺はあのお姉様みたいになりたかったけどな。かっけぇし」
シズクは、何も答えなかった。リクも、振り返ることはなかった。
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