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第He章:人類根絶に最適な魔物とは何か
強い力と弱い力/1:この物語の主人公はそれほど強くならないと言ったのは誰だ
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うじ虫職人の朝は今日も早い。1日100万匹という驚異的な数の不妊虫を作り続けるシズクは、1日の内の15時間を中性子放射に使用している。これはニューパルマの街の人々、商業ギルドの経営陣と騎士団、荘園区画の農奴、そして、領主ブランら全員の協力あってのことであり、もはや科学者としての執念以上に、彼等の期待こそが彼女の原動力だった。
「ここがシズク殿の……むぅ! 臭い! なんという匂いだリク殿!」
「だーから言ったでしょ。行くようなとこじゃないですよって」
「あ、久しぶり、無能の人」
「その言い方やめろ!」
「だって、憧れの雷魔法も覚えられなかったじゃん」
「う……」
先日、領主ブランを颯爽と救出に向かう直前のこと。
「ほう、これが『たこ』であるか」
「うん。私の国では主に正月に、雷の中とか、高圧電線の近くでこれで遊ぶんだよ」
「いやいや! 嘘を教えるな嘘を! でんこちゃんマジギレ案件だぞ!」
「で、ここにライデン瓶をつけて、と。よし、さぁ、あげてみて」
「走ればいいのであるな。うぉぉぉ!」
すっかり狂人に騙されてしまったポッセスが走る中、同じ凧を押し付けられたリクは手元を見たまま固まっていた。
「どうしたの? うまくいけばリク君も、雷の魔法が覚えられるよ」
「いや、まぁ、それは実際すげぇ魅力的なんだが……雷に打たれれば人って普通に致命傷だよなぁって」
「ここにヒーラーが二人待機してるから」
「リクさん、頑張ってください」
「落雷事故に放射線治療は無意味なんだよなぁ! あと、デスヒールで回復するのお前だけな!」
「まぁ大丈夫だって。歴史的で伝統的な実験だし」
「確かにベンジャミン・フランクリンの実験は成功してるが、その後の追従実験で何人か感電死してなかったけかこれ!? ええい! やってやる! やってやるぞぉ!」
「しっかり足を踏み込んでいくんだよー」
結果的にこの後、二人共実験に成功。シズクも本でしか見たことのなかった雷によるライデン瓶の蓄電成功にはちょっとした感動を覚えた。いくつになっても科学実験は良いものだとしみじみ実感するばかりである。しかし、この場における真の目的を考えるに、実験は半分しか成功しなかった。そう、リクは雷の魔法を覚えられなかったのだ。
「つーか、元々磁力の魔法が使えたポッセスさんだったからの荒療治であって、普通にやったら自殺行為なんじゃないか?」
「そうかな。そうかも。なら、死ななくてよかったね」
「このサイコパス野郎!」
「はいはい私はサイコパスですよ。ともあれ、見学は黙ってしててよ。意外と集中力使うんだよ、これ」
そういって不妊虫の製作に戻るシズク。その手伝いとしてビオトープからフライモスキートの蛆幼体を採取するイルマは、ちらりと作業中のシズクを見てため息をついた。
(集中力を使うとか、そういう次元じゃないです。魔力のコントロールは魔法使いの才能。必要最低限の力で、ピンポイントの魔法行使。そうでもしない限り、1日に15時間も通して魔法が使えるわけがありません。私だって、小さいものの観察のために空間を歪める魔法を使い続けられるのはせいぜい1時間。魔力のコントロール能力と、そもそもの魔力量が、私とは桁違いなんですよ)
パルマの街を離れた時。空へと立ち上ったきのこ雲を、イルマは忘れていない。後にその理論を説明してもらい、高濃度に濃縮されたウラン235がなければ再現はできないと理解したが、それはあくまで行使できる魔力量が常識の内に収まっているという条件下でのみのこと。体内を巡る魔力の量は生まれついての才能。その量が桁違いであったシズクが、こうして数ヶ月もの間、その魔力を制御するという並の魔法使いが裸足で逃げ出すレベルのスパルタトレーニングを行ったともなれば、あくまで可能性の話でこそあるが、シズクは自身の力だけで小規模な核爆発を発生させられるかもしれない。もしもそれが可能になれば、シズクにはもう誰もかなわない。この世界最強の魔法使いとなるだろう。
「うむ。ともあれ、これがシズク殿にしかできぬ仕事。ならばリク殿、我々は、我々にしかできぬ仕事に向かうとしよう!」
「そうだな、ポッセスのおっさん」
「おっさんはやめてあげなよ。その人まだ20代なんだし。って、無能……ごほん。リク君達にしかできない仕事?」
また無能って言ったなこいつ、と眉間にシワを寄せつつも咳払いを1つ入れて。
「あぁ。今回の計画を動かしていただろう魔王軍七難が一体。本物のボスキャラの討伐だ」
そう宣言してトレントのダンジョンへと向かった二人の背中を見送るシズクに、イルマが声をかけた。
「今さっき、何をポッセスさんに渡されたんですか?」
「ちょっとね。そういえばイルマは、リク君がトレントのダンジョンから持ってきた手のひらサイズの宝箱、よく観察した?」
「いえ……あれが何か? 中身も砂でしたし」
「ううん。あの中身、砂じゃないよ」
「えっ?」
そういってその場にガチャポンの景品感覚で飾られていた手のひら宝箱を開き、己の魔法で100倍にまで拡大して砂を観察したイルマは、思わず感動の声をあげた。
「ここがシズク殿の……むぅ! 臭い! なんという匂いだリク殿!」
「だーから言ったでしょ。行くようなとこじゃないですよって」
「あ、久しぶり、無能の人」
「その言い方やめろ!」
「だって、憧れの雷魔法も覚えられなかったじゃん」
「う……」
先日、領主ブランを颯爽と救出に向かう直前のこと。
「ほう、これが『たこ』であるか」
「うん。私の国では主に正月に、雷の中とか、高圧電線の近くでこれで遊ぶんだよ」
「いやいや! 嘘を教えるな嘘を! でんこちゃんマジギレ案件だぞ!」
「で、ここにライデン瓶をつけて、と。よし、さぁ、あげてみて」
「走ればいいのであるな。うぉぉぉ!」
すっかり狂人に騙されてしまったポッセスが走る中、同じ凧を押し付けられたリクは手元を見たまま固まっていた。
「どうしたの? うまくいけばリク君も、雷の魔法が覚えられるよ」
「いや、まぁ、それは実際すげぇ魅力的なんだが……雷に打たれれば人って普通に致命傷だよなぁって」
「ここにヒーラーが二人待機してるから」
「リクさん、頑張ってください」
「落雷事故に放射線治療は無意味なんだよなぁ! あと、デスヒールで回復するのお前だけな!」
「まぁ大丈夫だって。歴史的で伝統的な実験だし」
「確かにベンジャミン・フランクリンの実験は成功してるが、その後の追従実験で何人か感電死してなかったけかこれ!? ええい! やってやる! やってやるぞぉ!」
「しっかり足を踏み込んでいくんだよー」
結果的にこの後、二人共実験に成功。シズクも本でしか見たことのなかった雷によるライデン瓶の蓄電成功にはちょっとした感動を覚えた。いくつになっても科学実験は良いものだとしみじみ実感するばかりである。しかし、この場における真の目的を考えるに、実験は半分しか成功しなかった。そう、リクは雷の魔法を覚えられなかったのだ。
「つーか、元々磁力の魔法が使えたポッセスさんだったからの荒療治であって、普通にやったら自殺行為なんじゃないか?」
「そうかな。そうかも。なら、死ななくてよかったね」
「このサイコパス野郎!」
「はいはい私はサイコパスですよ。ともあれ、見学は黙ってしててよ。意外と集中力使うんだよ、これ」
そういって不妊虫の製作に戻るシズク。その手伝いとしてビオトープからフライモスキートの蛆幼体を採取するイルマは、ちらりと作業中のシズクを見てため息をついた。
(集中力を使うとか、そういう次元じゃないです。魔力のコントロールは魔法使いの才能。必要最低限の力で、ピンポイントの魔法行使。そうでもしない限り、1日に15時間も通して魔法が使えるわけがありません。私だって、小さいものの観察のために空間を歪める魔法を使い続けられるのはせいぜい1時間。魔力のコントロール能力と、そもそもの魔力量が、私とは桁違いなんですよ)
パルマの街を離れた時。空へと立ち上ったきのこ雲を、イルマは忘れていない。後にその理論を説明してもらい、高濃度に濃縮されたウラン235がなければ再現はできないと理解したが、それはあくまで行使できる魔力量が常識の内に収まっているという条件下でのみのこと。体内を巡る魔力の量は生まれついての才能。その量が桁違いであったシズクが、こうして数ヶ月もの間、その魔力を制御するという並の魔法使いが裸足で逃げ出すレベルのスパルタトレーニングを行ったともなれば、あくまで可能性の話でこそあるが、シズクは自身の力だけで小規模な核爆発を発生させられるかもしれない。もしもそれが可能になれば、シズクにはもう誰もかなわない。この世界最強の魔法使いとなるだろう。
「うむ。ともあれ、これがシズク殿にしかできぬ仕事。ならばリク殿、我々は、我々にしかできぬ仕事に向かうとしよう!」
「そうだな、ポッセスのおっさん」
「おっさんはやめてあげなよ。その人まだ20代なんだし。って、無能……ごほん。リク君達にしかできない仕事?」
また無能って言ったなこいつ、と眉間にシワを寄せつつも咳払いを1つ入れて。
「あぁ。今回の計画を動かしていただろう魔王軍七難が一体。本物のボスキャラの討伐だ」
そう宣言してトレントのダンジョンへと向かった二人の背中を見送るシズクに、イルマが声をかけた。
「今さっき、何をポッセスさんに渡されたんですか?」
「ちょっとね。そういえばイルマは、リク君がトレントのダンジョンから持ってきた手のひらサイズの宝箱、よく観察した?」
「いえ……あれが何か? 中身も砂でしたし」
「ううん。あの中身、砂じゃないよ」
「えっ?」
そういってその場にガチャポンの景品感覚で飾られていた手のひら宝箱を開き、己の魔法で100倍にまで拡大して砂を観察したイルマは、思わず感動の声をあげた。
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