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第Li章:多くの美しい自然遺産を持つ異世界で何故観光産業が発展しないのか

Drift1:何故王様は蘇生するたび勇者に嫌味を言うのか

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(それなら不老不死! 不老不死チートをくれ!)
「えぇと……」

 人間の転生担当者は比較的メジャーな仕事である。目前に迫る18歳の誕生日までにバイクを買うためのアルバイトで転生担当を行うことになった彼は見習い研修期間中であり未だバイト代の80%しか支払われていない。チートスキルの付与計算式が頭に入っておらず、マニュアルを見ながらの作業なのだからそれも致し方ないだろう。

「すみません、不老不死パーフェクトセットはちょっと、スコアが足りません。オプションを1つ1つマニュアルで解除してもらう必要があります」
(なんだかスマフォの契約とかネット通販みたいだなぁ。どうせ勝手に余計なものがいろいろついてるんだろ? いらないものから消してくれ)
「はい、えっと……一番高くついてるのが、『安心! その場で速達ノータイム瞬間再生機能』ですね。お届けまでの時間を遅らせていいなら、だいぶお値段やすくなります。1ヶ月に3回までの制限プランもありますけど、これは後々課金変更できないのですぐに蘇生制限が来ちゃうって不人気で……」
(あー、なるほどなぁ。それなら、蘇生は日をまたいで翌日、再生場所も宿屋か王様の前ならどうだ?)
「そのプランならかなりお安く出来ます。王様の前で蘇生される場合、蘇生時に王様に嫌味を言われるのを許可してくれればさらに安くなりますよ。そこで30秒の広告を見てもらえるなら、もっと安く出来ます」
(流石に異世界に転生してまで広告は見たくない……死んでしまうとは情けないとか言われるくらいなら、まぁいいか……)

 子供の頃、自然と受け入れていたシステムの裏にそんな秘密があったとは。初代はファミコンカセットのメモリ容量の問題でかなりの削減をしていたと聞いたが、このようなところまでコストカットの余波が響いていたのだろう。

「それと、不老もだいぶ高いですね。こちらのボタンを押してもらって、2億年だけ無の空間で過ごしてもらう治験バイトプランに登録してもらえれば、助成金が出ますけど」
(それはマジで怖いからやめてくれ)
「そうですか? ちゃんと記憶は消してもらえるみたいで仲間内では人気のバイトなんですが……機械の体で星のネジになるのも多分嫌ですよね……えぇと、なら一気に短縮して、寿命1万くらいでどうですか?」
(それだけあれば十分だな)
「老化が進んで7000歳を超えたあたりから岩と同化して動けなくなりますが」
(あー、やっぱパス。とりあえず500年くらいにしてくれ)
「わかりました……いや、でもやっぱり高くてダメですね。長寿はだいぶコスト高いんですよ」
(らしいなぁ。仕方ない。いっそ不老も長寿も諦めて、死亡時の蘇生機能だけにするか。それでどうだ?)
「しばらくお待ち下さい」

 担当がマニュアルを見ながら計算を行う時間を待つ。こちらは何故か担当の声しか聞こえずまるで周りの様子が伺えないのだが、もしかするとここは区役所のロビーのような場所なのかもしれない。

「すみません、もうあと少し足りません。えぇと……明らかな致命傷である場合自動で生命活動を停止する機能と、人体の許容量を上回る痛覚に対する自動感覚遮断機能をカットすればかろうじて届きますけど……」
(さすがにそれはつけたままにしてくれよ)
「でも、お客様は日本人ですよね? 日本男子は誰でも腹が切れるんじゃないですか?」
(今どきいねぇよ! 日本人でも切腹できるやつ!)
「でも、僕がついこの前、あなた達の時間で50年ほど前に担当した方はできてましたよ。なんというか、僕の作業中ずっとスケベ過ぎる目でこちらを見てて、ようやく終わったと思ったらバイト後の観覧車デートに誘ってきた人なんですけど。ちゃんと東京都心の市ヶ谷で腹を切ったって」
(そんなわけがあるか! お前の勘違いか妄想だ!)
「でも僕、あの情熱的な目とむせるような汗の匂いが忘れられないんですけど……」

 と、わけのわからないことを言い出したかと思えば。

「ごめんなさいねぇ~、この子まだ見習いで全然慣れてなくて~」
「あ! 先輩!」
「不老不死はチートの中でも難しいんですよ~、とりあえず、こちらで適当に、イケメン化、ハーレム因子、最強魔法スキル、攻略情報閲覧機能の流行りの四点セットに加えて、必要そうなのまとめて付与しておきますから~、ではでは~」

 と、横からやってきただろう先輩が手慣れた様子で処理を済ませたのか、その少年は一瞬で転生処理を完了。晴れて憧れの異世界チートライフをはじめることになったのだが、さておき。

「もう~、ダメですよ~、不老不死関連のスキルは、おいそれと渡しちゃいけないんですよ~。間違っても常人に付与したりしちゃダメですからね~。人間は私達とは、時間の感覚や命の価値観が根本的に異なるんですから~」
「ご、ごめんなさい……まだ全然慣れなくて……」
「大丈夫よ~、みんなはじめはそんなだし、あなたもまだ研修期間なんだから~、あと900年の研修期間を終えれば、ちゃんとバイト代も満額出るようになるから、次の誕生日までにバイクを買うって目標も間に合うわ~」
「ありがとうございます先輩!」

 しょうがないわねと優しく微笑んで、先輩は言う。

「とにかく。人間に蘇生スキルを付与しちゃダメよ~。付与していのは、自分の命の価値をゼロだと思ってる人間もどきの欠陥個体だけって、覚えておきましょうね~」

 恒星の周りを7000年かけて一周する公転周期を持つその惑星において、今日も転生担当は忙しい毎日を送るのだった。
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