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第Li章:多くの美しい自然遺産を持つ異世界で何故観光産業が発展しないのか
剣と黒/4:アニメやゲーム由来の単語が学術用語になることは実際少なくない
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結果として、ワープポータルに纏わる実験は成功。この世界におけるワープの仕組みに一歩踏み込み、シズクの目指す異世界観光産業の発展に向けて大きな跳躍となった。しかし、ムーンシスコの街で調べたというイルマの話で、シズクの表情は険しくなる。
「それは……まずいね」
「はい。今、世界全体がとても良くない状況にあります」
「確かに。イルマの言う通りだ」
もしも、魔王による人類根絶の計画が目に見えるところで進行しており、それにより助けを求める人の声が届いたら。シズクは確実にこんなバカな寄り道をやめて、状況解決に挑むはず。イルマもリクもそう信じていたし、実際に、シズクもそうするだろう。しかし。
「計画の見直しだ。今以上に完璧なヨセタム観光計画を練り直す」
「何故ですか!?」
シズクは動かなかった。それどころか、さらにこの寄り道事業に力を入れると言い出したのだ。
「だって、その話によれば、今世界中で温泉地が開拓されているんでしょう? 温泉ブームは望ましい流れだけど、それだけ多くの街で温泉が湧いているなら、温泉はヨセタム観光の目玉にはならない。新しい魅力の発見が必要なのは当然だよ」
「そうじゃないですよ! こんな同時多発的、こんな短期間で本来人の行き来がなかったはずの地域で温泉が人気になるなんて、絶対おかしいです! これは絶対に……」
「ゴルゴムの仕業?」
「なんでまたトレントが関係するんですか!? 違いますよ! これは確実に、魔王による新しい計画、私達がまだ気付いていない、八苦のひとつに違いありません!」
立ち上がって激高するイルマにシズクは大きなため息をつく。
「イルマ。そうやって、観測された状態を都合よく解釈し、自分が広めたい危機的状況に無理矢理結びつけて人の扇動を行う行動のことをね、社会心理学用語でこう言うんだよ。ゴルゴムの仕業、と」
「いや嘘を教えるな嘘を」
「私は嘘をつかないよ。言うのは冗談だけ」
「相手が絶対に元ネタにたどり着けない冗談は冗談として成立しねぇよ」
イルマは絶望した。最低のクズでバカのリクさんに通じなかったのはまだしも、シズクさんまでもがそんな答えを返すなんて、と。
「嘘です……嘘ですそんなこと! 本当に私を裏切ったんですか!?」
「イルマちょっと落ち着いて。ちゃんと私にもわかるように言って」
「ふざけないでください! もういいです!」
かくして放たれた魔法がシズクを燃やし尽くし、イルマは泣きながら腕を片手に抱えて走り去った。
「……ねぇ、リク君。まさかイルマ、意図的に私に苦痛を与えようとした?」
「そんなわけないだろ。あの子はそういうことする子じゃない」
「だよね。あともう1つ。あの子、ほんとに私達の世界のこと知らないよね?」
そう真面目な顔でつぶやくイルマに、リクも即座に否定ができなかった。未知の概念の単語以外がすべて正しく翻訳されるチート効果を前にすれば、あの時イルマが正確にはどのような音を発していたのか、理解する術がなかったためである。
「ぐ……偶然だぞ?」
少し遅れてそう返され、シズクはため息をついた。
「そうだね。本当に、何かが起きなければいいんだけど」
後にシズクは語る。うまいことを言ったわけではなく、本当にそう思っていた。そしてここで何もしなかったことが、人生を歪める後悔に繋がってしまった、と。
「それは……まずいね」
「はい。今、世界全体がとても良くない状況にあります」
「確かに。イルマの言う通りだ」
もしも、魔王による人類根絶の計画が目に見えるところで進行しており、それにより助けを求める人の声が届いたら。シズクは確実にこんなバカな寄り道をやめて、状況解決に挑むはず。イルマもリクもそう信じていたし、実際に、シズクもそうするだろう。しかし。
「計画の見直しだ。今以上に完璧なヨセタム観光計画を練り直す」
「何故ですか!?」
シズクは動かなかった。それどころか、さらにこの寄り道事業に力を入れると言い出したのだ。
「だって、その話によれば、今世界中で温泉地が開拓されているんでしょう? 温泉ブームは望ましい流れだけど、それだけ多くの街で温泉が湧いているなら、温泉はヨセタム観光の目玉にはならない。新しい魅力の発見が必要なのは当然だよ」
「そうじゃないですよ! こんな同時多発的、こんな短期間で本来人の行き来がなかったはずの地域で温泉が人気になるなんて、絶対おかしいです! これは絶対に……」
「ゴルゴムの仕業?」
「なんでまたトレントが関係するんですか!? 違いますよ! これは確実に、魔王による新しい計画、私達がまだ気付いていない、八苦のひとつに違いありません!」
立ち上がって激高するイルマにシズクは大きなため息をつく。
「イルマ。そうやって、観測された状態を都合よく解釈し、自分が広めたい危機的状況に無理矢理結びつけて人の扇動を行う行動のことをね、社会心理学用語でこう言うんだよ。ゴルゴムの仕業、と」
「いや嘘を教えるな嘘を」
「私は嘘をつかないよ。言うのは冗談だけ」
「相手が絶対に元ネタにたどり着けない冗談は冗談として成立しねぇよ」
イルマは絶望した。最低のクズでバカのリクさんに通じなかったのはまだしも、シズクさんまでもがそんな答えを返すなんて、と。
「嘘です……嘘ですそんなこと! 本当に私を裏切ったんですか!?」
「イルマちょっと落ち着いて。ちゃんと私にもわかるように言って」
「ふざけないでください! もういいです!」
かくして放たれた魔法がシズクを燃やし尽くし、イルマは泣きながら腕を片手に抱えて走り去った。
「……ねぇ、リク君。まさかイルマ、意図的に私に苦痛を与えようとした?」
「そんなわけないだろ。あの子はそういうことする子じゃない」
「だよね。あともう1つ。あの子、ほんとに私達の世界のこと知らないよね?」
そう真面目な顔でつぶやくイルマに、リクも即座に否定ができなかった。未知の概念の単語以外がすべて正しく翻訳されるチート効果を前にすれば、あの時イルマが正確にはどのような音を発していたのか、理解する術がなかったためである。
「ぐ……偶然だぞ?」
少し遅れてそう返され、シズクはため息をついた。
「そうだね。本当に、何かが起きなければいいんだけど」
後にシズクは語る。うまいことを言ったわけではなく、本当にそう思っていた。そしてここで何もしなかったことが、人生を歪める後悔に繋がってしまった、と。
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