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第Li章:多くの美しい自然遺産を持つ異世界で何故観光産業が発展しないのか
アリストテレスとメンデレーエフ/3:歴史上最初の写真家はニエプスか、それともフェルメールか
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「大歓迎! 大滝と湖と温泉のヨセタム村へ、ようこそ!」
この日、ワープポータルを利用したこの世界初の観光ツアーがヨセタム村に到着した。予約と同時に髪の毛を受け取ることで、今現れた105名の観光者達は本来まだ足を踏み入れたこともなかったヨセタム村へ、瞬時に移動を行うことができたのである。その手には、3色刷りの活版印刷による観光ガイドが握られており、彼等はそれまで3色でしか見られなかった大滝にかかる5色の虹に感動する。はじめて絵で見た時、世界にはこんな素晴らしい景色があるのかと心が震えたのだが、それでも五感すべてをもって感じる本物はまさに別格だった。
「ちらしの写真を見た段階でもすげぇ驚いてたから予測はできてたが、大成功だな!」
「うん。うまく色塗ってくれたリク君のおかげでもあるんだよ」
銀メッキを施した銅板にヨウ化銀膜を作る形での原始的なカメラ。それで撮影した白黒の写真を、3色刷りにあわせて活版用配色を施したのがリクだった。そのちらしを見た人々の驚きは確かに雄大な大滝の景色もあったのだろうが、それ以上に、今まで見たこともなかった本物そっくりの絵への衝撃が大きかった。
ワイバーンのいなくなった大滝は最高の観光スポットとなっており、希望者はそこでしっかりとしたザイルで体を繋いだ上でのロッククライミング体験を楽しむこともできた。本当に来て良かった、観光旅行最高と叫ぶ人々の笑顔でシズクもつられて笑顔になり、木造新築の観光ホテルのロビーで終始彼女は幸せを実感していた。
「やっぱさ、自分の推しを広めたいって思う感情は絶対叶えるべき願いだったんだ。異世界、さいっこぉー」
「シズクさん!」
しみじみと異世界の素晴らしさを噛みしめるシズクの元に、全身泥だらけのイルマが駆け寄った。
「えっ? イルマ? どうしたの、全身汚して」
「もう少し! もう少しで、ヨセタム湖の水源が特定できるんです! 手伝ってください!」
「ヨセタム湖の水源? そういえば考えたこともなかったな。確かに不思議だよね。こんな高い場所にあれだけの湖。降水量も多くない土地なのに、一体どれだけの湧き水が出てるんだろう」
「村の長老さんに話を聞いたんです。あの湖は、いつの間にか姿を現していたと。これは絶対に魔王による……」
「あー、はいはい。なら魔王に感謝しないといけないね。忘れがちだけど、地球の水資源って無尽蔵じゃないんだよ。そんな水をあれだけ用意してくれた魔王は、まさに人類のためを思って……」
「っ……もういいです!」
「あぁ、待ってよイルマ! お客さんの案内、手伝っ……ああ、もう」
日はとうに沈み、月明かりのみとなった山道をひとり、イルマは走った。その涙を拭うこともせず、泥だらけのまま走り続けた。甲高い音と共にコウモリの魔物がイルマを襲おうとしたが、動く影は一瞬視界に入ったが最後、光の魔法に貫かれて小銭に変わった。日増しに高まったイルマの魔力は、月明かりのみからこの火力を攻撃転用可能となっていたのである。日中も歩きっぱなしであったイルマの疲労は限界だったにも関わらず、不甲斐ないシズクへの怒りの感情は脳内に吹き出るアドレナリンに変化し、そのか細い四肢を限界すらこえて突き動かした。宵の明星が地平線に沈み、夜空にシズクが慣れ親しんだ形とはまるで違う星座が輝いても、イルマは走り続けた。そして、時間は深夜3時。イルマはついに、それを見つけた。
「やっぱり……だから言ったじゃないですか……魔王の仕業だって」
そこでは、空中に浮かんだ水球からこうこうと水が現れては小川の流れへと変わる異常が自然の中に違和感として漂っていた。精霊魔法によって作られた水。それこそが、ヨセタム湖の水源。自分たちが今までただの水だと思っていたものこそ、魔物カリュブディスそのものだったのだ。
この日、ワープポータルを利用したこの世界初の観光ツアーがヨセタム村に到着した。予約と同時に髪の毛を受け取ることで、今現れた105名の観光者達は本来まだ足を踏み入れたこともなかったヨセタム村へ、瞬時に移動を行うことができたのである。その手には、3色刷りの活版印刷による観光ガイドが握られており、彼等はそれまで3色でしか見られなかった大滝にかかる5色の虹に感動する。はじめて絵で見た時、世界にはこんな素晴らしい景色があるのかと心が震えたのだが、それでも五感すべてをもって感じる本物はまさに別格だった。
「ちらしの写真を見た段階でもすげぇ驚いてたから予測はできてたが、大成功だな!」
「うん。うまく色塗ってくれたリク君のおかげでもあるんだよ」
銀メッキを施した銅板にヨウ化銀膜を作る形での原始的なカメラ。それで撮影した白黒の写真を、3色刷りにあわせて活版用配色を施したのがリクだった。そのちらしを見た人々の驚きは確かに雄大な大滝の景色もあったのだろうが、それ以上に、今まで見たこともなかった本物そっくりの絵への衝撃が大きかった。
ワイバーンのいなくなった大滝は最高の観光スポットとなっており、希望者はそこでしっかりとしたザイルで体を繋いだ上でのロッククライミング体験を楽しむこともできた。本当に来て良かった、観光旅行最高と叫ぶ人々の笑顔でシズクもつられて笑顔になり、木造新築の観光ホテルのロビーで終始彼女は幸せを実感していた。
「やっぱさ、自分の推しを広めたいって思う感情は絶対叶えるべき願いだったんだ。異世界、さいっこぉー」
「シズクさん!」
しみじみと異世界の素晴らしさを噛みしめるシズクの元に、全身泥だらけのイルマが駆け寄った。
「えっ? イルマ? どうしたの、全身汚して」
「もう少し! もう少しで、ヨセタム湖の水源が特定できるんです! 手伝ってください!」
「ヨセタム湖の水源? そういえば考えたこともなかったな。確かに不思議だよね。こんな高い場所にあれだけの湖。降水量も多くない土地なのに、一体どれだけの湧き水が出てるんだろう」
「村の長老さんに話を聞いたんです。あの湖は、いつの間にか姿を現していたと。これは絶対に魔王による……」
「あー、はいはい。なら魔王に感謝しないといけないね。忘れがちだけど、地球の水資源って無尽蔵じゃないんだよ。そんな水をあれだけ用意してくれた魔王は、まさに人類のためを思って……」
「っ……もういいです!」
「あぁ、待ってよイルマ! お客さんの案内、手伝っ……ああ、もう」
日はとうに沈み、月明かりのみとなった山道をひとり、イルマは走った。その涙を拭うこともせず、泥だらけのまま走り続けた。甲高い音と共にコウモリの魔物がイルマを襲おうとしたが、動く影は一瞬視界に入ったが最後、光の魔法に貫かれて小銭に変わった。日増しに高まったイルマの魔力は、月明かりのみからこの火力を攻撃転用可能となっていたのである。日中も歩きっぱなしであったイルマの疲労は限界だったにも関わらず、不甲斐ないシズクへの怒りの感情は脳内に吹き出るアドレナリンに変化し、そのか細い四肢を限界すらこえて突き動かした。宵の明星が地平線に沈み、夜空にシズクが慣れ親しんだ形とはまるで違う星座が輝いても、イルマは走り続けた。そして、時間は深夜3時。イルマはついに、それを見つけた。
「やっぱり……だから言ったじゃないですか……魔王の仕業だって」
そこでは、空中に浮かんだ水球からこうこうと水が現れては小川の流れへと変わる異常が自然の中に違和感として漂っていた。精霊魔法によって作られた水。それこそが、ヨセタム湖の水源。自分たちが今までただの水だと思っていたものこそ、魔物カリュブディスそのものだったのだ。
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