理系転生 ~人類を根絶する目的で世界平和を目指す魔王と自身の好奇心を満たす目的で世界を破滅させる勇者の物語~

卜部猫好

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第Be章:幻の古代超科学文明都市アトランティスの都は何故滅びたのか

推論と観測結果/3:山の天気の変わりやすさは山の神が女性故だが、そんな山の神に助けてもらいたい時は立ちションをするといいらしい

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 早朝。アトランティスメインストリートにて。

「これはひどいな」
「ここまでの物は珍しいな。親父に伝えるべきかな」
「そうだな。とりあえず、埋葬はしよう。こんなのも、元は人間だ」

 かくして二人のヤクザは、今日も日課のボランティア作業を終えた。

◇◇◇◇◇

 シズクは不機嫌だった。その怒りは専らリンネにのみ向けられている。完全にシズクの自業自得の八つ当たりなのだが、リンネはリンネで自業自得である。

「そろそろ機嫌直してくださいまし、シズク先生」
「うるさい変態」
「あぁ……! ありがとうございますわぁ!」
(この人無敵なの……?)

 開いてはいけない扉を開いてしまったリンネと共に目指すのは件のアイスクリーム屋である。恋バナを理解しないシズクもスイーツは好む。普段は大納言あずきを嗜むシズクであるが、元々この店は1ヶ月31日を毎日別々のフレーバーを楽しむことができるようラインナップを揃えてみせるというコンセプトで経営されている。たまに行くなら毎回大納言あずきで構わないのだが、これからおそらく毎日通うわけで、それなら普段食べないフレーバーも悪くないななどと考えながらであったが。

「休業……店のコンセプト崩壊してるし出鼻をくじかれたね」
「よくあることですわ」
「なんかむかつくから軽く蹴ってもいい?」
「もちろんでございますわ! 今の私は人間発電機でしてよ!」
「開き直った人間って怖いなぁ」

 アトランティスには通貨が存在しない。ではこの街で何故あえて店のようなものを営むのかといえば、それは「ごっこ遊び」である。子供っぽいと思うかもしれないが、これは意外と重要なことかもしれない。普通の人間は仕事と聞くと金を稼ぐためにしょうがなく取り組むものと考えがちであるが、実際に働かずにごろごろし続けるというのはそれはそれでストレスである。むしろ、適度になにかそこそこに苦痛ではない仕事をした方が、日々のクオリティ・オブ・ライフというものは上昇する。そういった意味で、アイスクリーム屋さんというものは子供がよく憧れる職業であり、ごっこ遊びには最適であると言える。この街でこのような商いを営むものは、この街で精神的に健康なまま生きるうまい生き方を見つけられていた者であると言えよう。それができない者が、薬と性と惰眠に溺れスラムに落ちるのだ。なお、人数比で言うと健康な人間とスラム居住者は3:7であるが、スラム居住者はスラムに固まってくらしそこから動かないため、アトランティスの街の中で彼らが生活する場所の面積比で言うとこの比は逆転する。

「まぁそれでも、ごっこ遊びだし働かないといけないわけじゃないからね。そりゃ休む日もあって当然か」
「そうですわね。こういう細かいところまで見て人間の行動を観察するとやはり面白い実験であることがわかりますわ」
「突然まともなこと言われるのも温度差がなぁ」

 かくして二人はぶらぶらと無意味に歩いているように見えて、しっかりと観察記録を続けていた。

「それで、どうしますの?」
「うーん……そういえば、だいぶ髪が伸びてるんだよね。切ってもらおうかな」
「床屋さんですわね。お供しますわ。確か第2区画で青赤白のサインポールを見かけましたかと……」
「それじゃ行こうか。リンネも切ってもらう?」
「私は大丈夫ですわ」
「そう? そんなに髪長いのに、手入れがしっかりできていて凄いなぁ」
「そうでございましょう? 自慢の髪ですのよ」

 そう言って自慢げに笑うリンネには、どこか既視感があった。

 一方、リクは日課の訓練だと嘘をついてレーヌを連れ立ってのランニングに向かう。嘘というのは、そもそも彼の肉体はすべてチートによって作られ維持されているため、訓練など必要ないし日課にもしていないということであり、しかしレーヌにはチートなるものの意味がわからないため訓練だと言われればそれは当然だと騙されてしまうという図式である。

 レーヌは生真面目な性格であり、騎士団の隊長だった頃から訓練の厳しさで知られた人物だった。一般人からすれば常軌を逸する厳しさの訓練を自らに課す姿は、リンネとは違う健康的マゾヒストであるとも言える。彼女はそんな自分の訓練が厳しすぎることを理解しており、隊長時代の部下には自分のメニューからかなりの量を減らしたものを指示していたのだが、常軌を逸したものはかなりの量を減らしてなお常軌を逸していた。そんな彼女の肉体を鍛えることへの執着と、一方で彼女が非常に他人思いの優しさを持ち、かつ、美しい容姿であったことから「世界一美しいゴリラ」という二つ名が影で囁かれるに至った事情がある。

 さて。そうしてほいほいとついてきてしまったレーヌであるが、リクは何故そういって彼女を騙したかというと、彼は未だにオリハルコンが諦めきれていなかったためである。目的地はあの地下迷宮。しかし、あんな恐ろしい思いをした場所に1人で行くなどとても考えられず、かといって誰を誘ってもついてくるわけがない故、このような手段を使ったという卑怯さであった。

「しかしリク殿。よりによってここに来ることはないのではないか?」
「いや、俺は普段から強力なモンスター狩りを日課のレベル上げにしている。この街の近くで強敵とエンカウントするなら間違いなくここだ!」
「そもそもあれはモンスターなのか? モンスターであっても、倒せるのか?」
「未知の強敵との戦いこそ厳しい修行だぞレーヌ! いざという時は騎士として前衛任せたからな!」
「あぁ……そうだな! 任せてくれ!」
(ちょろい……)

 この脳筋は、筋肉に関することと、騎士としてという前置詞をつけると簡単に操れる。そんな悪いことに気付いてしまうリクは相変わらず最低な男であった。

「しかし……なかなか見つからないな」
「そうだな、このあいだはあんな大勢居たのに」

 なお、ここでリクが指すのはオリハルコン鉱石であり、レーヌが指すのは白いくねくねした化け物である。

「もう少し深くまで降りてみるか……というかここ、本当に上の街がそのまま埋まってるんだな。なんだっけな、こうやって同じ構造の街が同じ構造で地下に何段も埋まってる遺跡の名前を昔シズクから聞いたな。ええと……カッパドッキリヤ?」
「その名は知っているぞ。リンネが頭のハゲた新種のヴォジャノーイにつけた名前だ」
「多分そいつじゃないな。そういえば、リンネちゃんってレーヌの妹なんだろ? いや、でもリンネちゃんは転生者で……あれ?」
「あぁ。確かにリンネと私の間に血の繋がりはない。しかし! 私とリンネは魂で繋がっているのだ! この世界に来たばかりの彼女と森で出会った時、私はそう直感した! 騎士でありながら、それまでずっと仕えるべき主を見つけられなかった私が、命を賭けて生涯仕えると決めた相手、私が心の底からイエス・ユア・マジェスティと跪ける存在、それこそが私だけのマジェスティ、いや、私だけのリトルシスター、リンネなのだ!」
「そ、そっか……い、いやぁ、良い主にめぐりあえて良かったなぁ」

 リクは、ここまでの行動でレーヌに世界美しいゴリラという二つ名がついてしまった残念な理由を理解したつもりだった。だが、その認識はここで改められる。この女はこの女でやばい。というか、今このパーティ、バカでマッドのシズク、サイコパス殺人狂のイルマ、独自世界観を持つ変態のリンネ、妹狂いで脳筋のレーヌと物の見事に性格に問題のあるやつしかいない。まともなのは自分とカイだけだ。あんなにも鬱陶しく感じた優男のカイをこんなにも頼もしく思うなんて。あれも普通のパーティにおいてはナルシストの変態であるはずなのに、それが相対的に一番まともで頼れる存在に思えてしまうこの状況、やはりカイはカイで「勇者」として何か持っているのだろう。

「しかし、そのリンネちゃんにうちのシズクがあんな変態行為を教えちゃうなんて……ほんと申し訳ないなぁ……というか、シズクもあんな性癖があったなんてな、人は見かけによらないな。いや、むしろ見かけ通りなのか? 昨日帰った時イルマまじ泣きしてたもんなぁ。せめてもう少し、年齢とか法律とか考えて欲しいんだが……そういえばリンネちゃん、いくつなんだ?」
「本人曰く11歳らしい」
「そりゃ犯罪だよ。12進法を使っても犯罪だよ。ていうか、昔はもっと小さかったんだよな。リンネちゃんに出会ったのは何年前なんだ?」
「5年前だ。しかし、あの時からリンネは11歳だ」
「……ん? それって、見た目がまったく変わってないってことか?」
「そのとおりだ。背はまったく伸びておらず、髪も伸びていない。故にリンネは万人共通の妹なのだ。しかし! リンネの最初の姉は私だ! 私こそがリンネの最初で最大の姉なのだ! そうだな!? そうであろう!」
「あぁ、うん。そうだねー」

 なるほど。リンネのあの見た目はチートによるものなのか。自分が最初から剣術最強で、どれだけのんべりとだらけても肉体が衰えずに最強であり続けるように、リンネは仮にどれだけ不摂生をしてシズクのように風呂にしばらく入らなかったとしても、あのきれいな髪もほのかな匂いも不変なのか。うーむ……

「やっぱりチートって、いいな」

 そう再認識して地下迷宮を潜り進めるリクだったが、結局この日、オリハルコン鉱石は発見できず、また、幸いにもあの白いくねくねにも出会わずに済んだのだった。

◇◇◇◇◇

 リクが手ぶらで宿に戻った時、そのリビングでは先に戻っていたシズクが一人せんべいをかじりつつ本を読んでいた。

「あ、おかえり。オリハルコン見つかったの?」
「いや、見てのとおりの成果なし。白いのもいなかった。本当に特定の日にしか出ないんだな」
「そっか。それも不思議だけど、私は民俗学的なオカルト方面はあんまり詳しくないし、何よりそこまで興味もないからなぁ。いや、あるにはあるんだけど、優先順位っていうか。怖いわけじゃないよ?」
「はいはい」
「ところで、リク君。何か気付かない?」

 そう言ってこちらを見つめる幼馴染。あ、知ってる。これめんどくさいやつだ。

「え? ううん……そうだな……あぁ、お前また今日も風呂入らないつもりだろ。ちゃんと入れよ。お前はリンネちゃんと違って、すぐ臭くなるからな」
「ばか。うるさい。最低。デリカシーなし」

 リクは知っている。こういう時に無意味に頑張って当てようとすると、外した時に逆にキレられる。そのためこのようにまるで考えない適当なことを言った方が、受けるダメージの期待値が少なくて済む。これはこれで彼なりの最低な合理的判断である。と、その時、ドアが開いてイルマが帰って来る。

「あ……イルマ……」

 シズクが乞うような視線をイルマに向けるが、すぐにそっぽを向かれる。そりゃそうである。いくら女性の機嫌が山の天気だといっても、あの後の一朝一夕では直るはずもない。しゅんとするシズクを無視して寝室のドアを開き、背中から声をかける。

「髪切ったなら、今日はちゃんとお風呂に入ってください」

 怒りのアピールだとばかりにわざと大きな音をたてて戸を締めるイルマの背中を、シズクはとてもうれしそうな笑顔で見送った。
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