理系転生 ~人類を根絶する目的で世界平和を目指す魔王と自身の好奇心を満たす目的で世界を破滅させる勇者の物語~

卜部猫好

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第B章:何故異世界飯はうまそうに見えるのか

チート主人公と一般もやし:江戸時代に清水の舞台から飛び降りた人数は記録上234人で生存率は85%

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 神に与えられし食材としてトウモロコシとトマトを手に入れたシズク。しかし、これで終わりかと言えばそうではない。これを使って料理を行い食神決戦で優勝しなければならない、という先の話はもちろんそうなのだが、今この瞬間においてはさらに優先度の高いタスクがある。それは、帰ることである。

「こういうダンジョンって現実的に考えればありえない、ゲームの中だけのものだと思うんだけどさ。一番奥にある宝を手に入れるなりボスを倒すなりした後で帰るのって物凄く大変だしゲームユーザー的にストレスなんじゃないの?」
「そりゃそうだ。そのストレスや難易度を逆手に取ったゲームってのももちろんあるんだが、基本的には一瞬で街に帰れるアイテムが用意されてるな」
「持ってる?」
「残念ながら。そもそもこの世界で見たことがない」

 ちらりとこの中で一番世界に詳しそうなレーヌを見るが、ふるふると首を振られる。

「やっぱいかにゲームっぽくてもそういう厳しさは現実なんだねぇ。そもそも一瞬で街に帰れる携帯アイテムとか超技術がすぎるよ。それを戦闘に転用できればどんなボスでも倒せそう。相手を高度1万メートルに転移させたり、天文学的な距離が開いた先に送還したり、壁の中に埋め込んだり」
「そういう発想力だけは典型的なチート異世界転生主人公なんだけどなぁ」

 発想力だけで言えばそうなのだが、無駄に律儀だし、そもそも楽を望んでいない節があるのがこいつだ。旅行に行くとだいたいすぐ迷子になるのだが、こいつの場合意図的に迷子になっていた。一度スマフォのGPS情報を外部から確認できるようにする形で対策を行ったのだが、いざ起動すると宿から置き忘れたスマフォが発見されたあたり間違いなく確信犯だ。まぁ、そういう面倒事を楽しむことができるメンタリティこそが常人にはない天才性であることは間違いないのだが。

「でもそんな便利アイテムって、切らせて買い忘れてたりすることあるんじゃないの?」
「もちろんある。迷宮の中でリスに盗まれたり」
「なんでリスなの」
「リスは迷宮にて最強最悪だぞ。さておき、最奥にはだいたい都合よくワープポータルがあったりするから困ることは滅多にないな」
「あぁ、ワープポータルね。でもここにはなさそうだね」
「それ以外だと、最奥から一方通行のショートカットルートがあったりする」
「板橋区じゃないんだし、一方通行なんて異世界に存在しないでしょ」
「地図を持たずに望んで迷子になるお前もカーナビだけは無いと絶望するもんな」
「太陽やランドマークを頼りに進もうにも複雑な一方通行制限はどうしようもないからね。特に主要道路から一本ずれた板橋区はやばい。悪意があるか、設定した人がどうしようもないバカかのどちらかだよ」

 明らかな実体験のこもった恨み節である。

「で、ゲーム世界の一方通行ってどういうこと。まさか公僕がダンジョン内をパトロールしてるなんてことないだろうし、無視しちゃえばいいじゃん」
「基本的には段差だな。もしくは回転ドアとか動く床とか」
「ドアは百歩譲るにして、段差程度ならロープ使えば登れるはずだし、そもそも動く床って動力なんなの」
「流砂とか氷とか?」
「言い訳が苦しい」
「そこはゲームなんだから諦めろよ。ダンジョンの仕掛けも諦められたみたいだしさ」
「なんか、クリアされるたびに元に戻してるダンジョンのボスの苦労を考えたら涙でてきてさ」

 なんだか一時期流行った中間管理職的な魔王っぽくて面白い。

「でも段差は乗り越えられるって。人間が飛び降りて問題がおきない高さなんてせいぜい10mでしょ。そのくらい登れるよ」
「そうだな。ところで、アレクサンドリアの大灯台ってどのくらいの高さだったんだ?」
「150mプラマイ30mくらいでいろんな説がある。それが何か?」
「他に単純に縦方向に高い古代建築っていうとなんかあるかな」
「うーん。アフガニスタンのゴール朝時代の遺跡であるジャームのミナレットとか? こっちは65mだね。あとはそうだなぁ。マウソロス霊廟が43m。太平天国の乱で破壊された中国南京の陶塔が80m。ピサの斜塔が57m。ここから一気に現代近くに飛んで、エッフェル塔で300mだね。そう考えるとやっぱ大灯台はすごいね。ちなみに、古代出雲神社は48m。ここまでのラインナップに比べると低く思えるけど、これが木造だからすごいよね。明らかに歴史上最も高い木造建築だったと思うよ」
「だな。柱の痕跡が見つかったってニュースはびびったよ。でな、ゲームだとそういう古代の建築物を思わせるようなダンジョンがよくあって、その一番上にボスが待ち構えてることが多いんだが」
「うん。うん? いや待って、まさか」
「ゲームの勇者は平然と飛び降りて街に戻る」
「そんなことして平気な人が魔物の攻撃程度でダメージを受ける姿が想像できないんだけど」
「そうは言うが、神話の怪物って平気で山を砕くだろ?」
「……耐えられそうだね」

 どうやら改めて考えるとゲームのキャラは酒場でスカウトできる遊び人であっても相当のチート能力を持っているようだ。

「でもそっか。確かにそういう手段はあるね。ようは、いつもどおり。リスポーン位置を予測した上で身投げすればいいんだ」

 しれっとそう発言するシズクをイルマが慌てて制する。

「いや! 待ってください! それシズクさん死にますよね!?」
「死ぬけど、いつも通り蘇生するでしょ。この世界の誰よりも私を殺したイルマが何言ってるの?」
「それはそうなんですけど! とにかく嫌な予感がするので思いとどまって大人しく歩いてください!」
「最悪リク君におんぶしてもらうとして」
「最悪だよ」
「それでも、ここまで通った部屋をもう一度通るのが嫌なんだよね。ねぇ聞きたいんだけど、イルマは嫌な思いした場所に戻るのって平気なの?」
「それはできれば嫌ですけど!」
「……あれ?」

 と、このやり取りでシズクはふと違和感を覚える。少し腕を組んで悩んで、一人ひとりに質問を行っていく。

「ねぇ聞きたいんだけど。リク君ってチートで剣術のスキルは最強なんだよね?」
「そのはずだが」
「ねぇ聞きたいんだけど。イルマって光の魔法しか使えないよね?」
「そうですね」
「ねぇ聞きたいんだけど。レーヌさんって騎士としてはかなりの強さだったんだよね?」
「そう自負している」
「ねぇ聞きたいんだけど。リンネ先生って変態だよね?」
「私だけ質問の雰囲気が違いませんこと!? そんなことありませんわ!」

 一通りの質問を終えて、シズクはあちゃーと頭を抱える。

「多分だけど、チート全部もってかれてるっぽい」

 困ったなぁ程度の顔で言うが、当然聞いた一同の衝撃は極めて大きい。つまるところ、今のシズクは手からラーメンも出ないし、極めて不便な事象確認も行えないし、そして何より、蘇生能力もない、ただの理系もやしだということだった。
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