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第B章:何故異世界飯はうまそうに見えるのか
科学と化学/1:マッドサイエンティストはビーカーでコーヒーを飲む
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発明王は街を去った。それは彼なりのケジメだったのかもしれない。食神決戦への参加表明に際して彼が預けた大金はそのままループの物となるが、これは前述の通り問題なかった。ともあれシズクとしては、労せず強敵が一人減ったのだからありがたい話ではあるのだが、それでも未だテスタメントが残ることは事実である。さらに、街は食神決戦までロックダウンとなり、一切の外出ができなくなる。部屋の中に持ち込んだ食料はそれほど多くなく、料理の練習や新しいメニュー開発を行うには不十分。もちろん新しい食材を探したり、なにか他の勝利の鍵を探すこともできないという状況は、流石に厳しいと言わざるをえない。
「思えばここまでいろいろあったねぇ」
唐突にそんなことを語りだす幼馴染。こいつはいつも唐突で脈絡がないのだが。
「過去を思い出すのは悪いことじゃないが、今はやめた方がいいんじゃないか?」
「どうして?」
「なんだかセルフ走馬灯みたいじゃないか。チート能力を持っていかれて魔物に従うことになるなんて、死ぬようなもんだ。少なくともお前は、まだ諦めてないだろ?」
うーん、と唸る。即答できないのは重症かもしれない。
「そういえば昔もこんなことがあったな。研究室に居た時にさ……」
「それもセルフ走馬灯じゃないの?」
「いやまぁ、そう、なんだが……ともあれその時には、頭をリセットしようってことでコーヒーを淹れたな、と」
「あぁ。研究室のビーカーで飲むコーヒーは美味しかったね」
「ある意味理系のお約束だよな。間違いなく普通のコーヒーなのに、絵面が完全に科学実験なんだよな」
「慣れてない人はなんか嫌がるよねあれ。確かに日頃いろんな薬品で実験してるものなんだけど、ちゃんと洗ってるからただのコップと変わらないって」
「それはほら、穢れの理屈じゃないか? 目の前で小便を注いだコップを丁寧に洗って、その後でコーヒーを注いで出してもなかなか飲みにくいっていう」
「そういうもんだろうね。それなら私達は、硫酸やアンモニア水に穢れを感じてないってことになるのかな。まぁ理系らしいっちゃ理系らしいのかな」
そういって部屋の中からビーカーに似たガラス容器を手に取る。
「料理なんて実験と同じようなもの。そう思ってたけど、実際のところ少し、いや、だいぶ違ったね。慣れないことはするものじゃない」
「そうかもなぁ。実験なら俺達もまともにやれるんだけどな。相手さんは実験とかせず全部脳内で完結させるタイプだし」
「顕微鏡のピントをあわせるのがやたら早いの、リク君が自慢できる数少ないことのひとつだったもんね。さておき、そうだね。久々にコーヒー飲みたいな」
「そうは言っても残念ながらコーヒー豆がない」
「ならそれっぽい味を実験で作ってみる? まずは化学式を書いてみるところからはじめてさ。そういう行程含めて、いい気晴らしにはなると思うけど」
そんな場合じゃないことは確かである。発明王の言葉に従うなら、それは99%の努力とは無関係な現実逃避だ。だがそれでも。
「ま、そうだな。悪くない」
そういってリクはシズクにインクとペンを手渡した。
「結局元を正せばただの理系。こうやって数式を書いて、薬品を調合してるときが一番落ち着く。なんだか原点に還った気がするなぁ。なんか元の世界でやり残した実験とかなかったかな」
シズクが過去を思い出しつつ、ふと顔を前に上げた時。そこには大量に積まれた先日収穫したばかりのトウモロコシとトマトがあった。
「思えばここまでいろいろあったねぇ」
唐突にそんなことを語りだす幼馴染。こいつはいつも唐突で脈絡がないのだが。
「過去を思い出すのは悪いことじゃないが、今はやめた方がいいんじゃないか?」
「どうして?」
「なんだかセルフ走馬灯みたいじゃないか。チート能力を持っていかれて魔物に従うことになるなんて、死ぬようなもんだ。少なくともお前は、まだ諦めてないだろ?」
うーん、と唸る。即答できないのは重症かもしれない。
「そういえば昔もこんなことがあったな。研究室に居た時にさ……」
「それもセルフ走馬灯じゃないの?」
「いやまぁ、そう、なんだが……ともあれその時には、頭をリセットしようってことでコーヒーを淹れたな、と」
「あぁ。研究室のビーカーで飲むコーヒーは美味しかったね」
「ある意味理系のお約束だよな。間違いなく普通のコーヒーなのに、絵面が完全に科学実験なんだよな」
「慣れてない人はなんか嫌がるよねあれ。確かに日頃いろんな薬品で実験してるものなんだけど、ちゃんと洗ってるからただのコップと変わらないって」
「それはほら、穢れの理屈じゃないか? 目の前で小便を注いだコップを丁寧に洗って、その後でコーヒーを注いで出してもなかなか飲みにくいっていう」
「そういうもんだろうね。それなら私達は、硫酸やアンモニア水に穢れを感じてないってことになるのかな。まぁ理系らしいっちゃ理系らしいのかな」
そういって部屋の中からビーカーに似たガラス容器を手に取る。
「料理なんて実験と同じようなもの。そう思ってたけど、実際のところ少し、いや、だいぶ違ったね。慣れないことはするものじゃない」
「そうかもなぁ。実験なら俺達もまともにやれるんだけどな。相手さんは実験とかせず全部脳内で完結させるタイプだし」
「顕微鏡のピントをあわせるのがやたら早いの、リク君が自慢できる数少ないことのひとつだったもんね。さておき、そうだね。久々にコーヒー飲みたいな」
「そうは言っても残念ながらコーヒー豆がない」
「ならそれっぽい味を実験で作ってみる? まずは化学式を書いてみるところからはじめてさ。そういう行程含めて、いい気晴らしにはなると思うけど」
そんな場合じゃないことは確かである。発明王の言葉に従うなら、それは99%の努力とは無関係な現実逃避だ。だがそれでも。
「ま、そうだな。悪くない」
そういってリクはシズクにインクとペンを手渡した。
「結局元を正せばただの理系。こうやって数式を書いて、薬品を調合してるときが一番落ち着く。なんだか原点に還った気がするなぁ。なんか元の世界でやり残した実験とかなかったかな」
シズクが過去を思い出しつつ、ふと顔を前に上げた時。そこには大量に積まれた先日収穫したばかりのトウモロコシとトマトがあった。
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