理系転生 ~人類を根絶する目的で世界平和を目指す魔王と自身の好奇心を満たす目的で世界を破滅させる勇者の物語~

卜部猫好

文字の大きさ
177 / 178
第B章:何故異世界飯はうまそうに見えるのか

出荷/1:親の言いなりでする見合い結婚が意外にも円満な家庭を作ってきた歴史はおそらく男女格差以外の理由がある

しおりを挟む
 主催であるループと、観客たちの思うところはさておき、当のテスタメント本人が結果を否定する発言をしなかった以上、やり直しは否定された。かくして大会は終了し、表彰式に移る。例年ではここでループにより優勝者に賞品が渡されることになっている。壇上で待つループの表情は空虚である。これが本当の「明日にはお肉屋さんに並ぶことになる養豚場の豚の顔」というものなのだろう。

「そういえば、今回の優勝者は何を望んだんだ?」

 それを含めて観客たちはこの表彰式も含めて食神決戦という祭りを楽しみにしている。改めて壇上に呼ばれたシズクと仲間たちはループの顔を見てにこりと微笑んだ後に、会場の一同に向けて言葉を放つ。

「私が要求したのは、この大会の主催者、豚玉ループの命だよ」

 数秒の静寂。それはすぐにざわめきに変わる。

「そ、それって、ループ様がここで殺されるって……」
「そんな! ループ様は何もされていないのに、かわいそうだろう!」
「それなら次の食神決戦はどうなる!?」

 このまま行けば観客が暴徒となってなだれ込むようなムードが昂る中、シズクは改めてその理由を語る。

「魔王が世界を滅ぼそうとする存在であることは常識。なのに、今の魔王はそれを忘れているかのように思える。でも、実のところ人間の流通を掌握するというやり方は、直接軍を率いる以上に効率的に人類を滅ぼす方法に繋がっている。実際問題、人間はもう食料や資源の生産を放棄しつつある。これから数百年もすればその方法は忘れられる。その頃になって魔王がはしごを外せば、確実に大量の人間が死ぬ。そうしたら後は残りを軽く捻ってやればいい。軍や騎士団もどんどん解体されていっているご時世だしね。でも、この話を聞いてこう思う人もいるはず。悠長すぎるのではないか。そもそも、その過程で人間の社会が発展してしまうのではないか、と。そう思ったのは魔王配下の力を持った魔物たちも同じだった。そして彼らは、独自の方法で人類を根絶しようと動き出す。それらは一見すると平和を目指すように見えたり、そもそも直接的に人間に攻撃しているようには見えないもの。だけど最終的にはどれも人類の根絶に繋がっている。ループもそんな目論見で動いていた。彼が目指したものは、新型ウィルスの蔓延によるパンデミックだね。食文化を奨励し、人間が新しい動物や魔物を狩るように仕向ける。そして人間にとって致命的なウィルスを媒介している存在を、人間自らの手で探せようとしたということ」

 その言葉はすべてが嘘には思えない。なにせ昨日まで自分たちの街はロックダウンにあったのだ。その苦痛はすぐには忘れられない。

「勘違いしてはいけない。確かに人間の生活は便利で豊かになっている。それでも、この世界の魔王が、ずっと人間を滅ぼそうとしてきたことは事実。その行動理念は、感情由来でもなければ、何か目的を伴った理知的なものでもない。ただ、『そういうもの』なんだよね。だからこそ、魔物を、魔王を信頼してはいけない。結局のところ、彼らは人類の敵であり、滅ぼさなければならない存在であることは忘れてはいけない。だから私はループの命を求めた。人間世界救う勇者として、魔物を、そして、魔王を滅ぼす旅におけるひとつのクエストとして」

 確かに、確かにそうなのだろう。ただそれでも、感情はそう簡単な納得を拒絶する。

「そうかもしれない……そうかもしれないけど、ループ様は!」
「そうだ! ループ様は優しく、かわいらしく、そして素晴らしい方だ!」

 その声にシズクが冷徹な目で返す。

「それが、演技、作られた仮面だとしても?」

 その迫力は一瞬だけ言葉を消す。しかし観客達は続ける。「それでも」と。ざわめく大観衆を前に、シズクはため息を挟んでから続ける。

「そうだね。でもね、仮に私の言う通り彼の行動がすべて演技であったとしても、だから彼が今も悪党なのかと言うことには私も疑問を覚える」

 ぴくりとイルマの肩が動き、一歩前に足を踏み込む。そこで横から伸びた手が彼女を抑えた。きっ、とバカの顔を睨みつけるも、彼は顎をくいっとシズクに振る。

「何かをはじめる時、形から入るというのは悪くない。その状況にふさわしい衣装、ふさわしい振る舞い、ふさわしい言葉は、いずれ人を本物に変える。こんな話もあるらしいね。結婚相手は誰でもいい。とりあえず好きだと言ってラブラブになっておけば、そのうち本当にラブラブになれる。むしろそういう付き合いの方が、恋が燃え上がった後の結婚よりも長続きする、みたいな。見合い結婚って悪くない文化なのかな。さておき。彼が人間にとって優しい行動を取り続け、ただのグルメな豚を演じ続けてきたことは、結果としてそれを本物にしてしまったんじゃないかな、と。その証拠に、成功仕掛けた新型ウィルスによるパンデミックを、彼は自身の手で鎮圧した。その理由が、美味しいご飯を食べることと、今日の大会であったことは彼自身の口から私も聞いた。つまりね、私はループを殺すためにここに居るんだけど……ループ、もう死んでるっぽいんだよね」
「それはっ!」

 思わず叫ぶイルマをリクが羽交い締めにする光景を笑って流し、改めてシズクはループに振り返って宣言する。

「欲しいものはもうない。次回以降の大会も楽しみにしてるよ」
「シズクさんっ!」

 羽交い締めにされながらも放たれた魔法が、シズクを焼き尽くし、片腕一本を残して消滅した。直後、何事もなかったかのように現れたシズクがその片腕を拾い上げ、ぽんとイルマの頭に手をおいてから片腕を差し出した。

「……待つブー……いや、待ってくださいブー!」

 膨れるイルマをなだめつつ壇上を去ろうとするシズクをループが呼び止める。

「みんな……ごめんブー! 執事!」
「はい、ループ様」
「最後の命令ブー! 群れ、任せたブー!」
「かしこまりました」

 そうしてあっさりと権力の継承は完了し。

「ブーもついてくブー! ブーも、魔王を倒すブー!」

 改めて、豚玉ループは予定通り出荷されたのだった、が。

「え? そんなこと言われても普通に困るけど」
「そんなー!」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...