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第3章 広がる内面世界
183 昼休みも受験勉強
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藤城皐月が図書室から教室に戻ると、前の席の栗林真理が皐月の席に座って勉強をしていた。真理が自分の席以外で勉強しているのを、皐月は真理と同じクラスになってから初めて見た。
皐月は仕方なく真理の席に座って、後ろの席に身体を向けた。真理にちょっかいを出してやろうと思ったが、真剣に漢字の問題集を解いている姿を見ると、遠慮のない相手とはいえさすがに気が引ける。だが、離しかけずにはいられない。
「なんで俺の席で勉強してんだよ?」
真理は書きかけている漢字を書き終わると、手を止めて顔を上げた。あいかわらず真理は涼しげな整った顔をしている。真理にはさっきまで図書室で会っていた入屋千智とは違う、クールな魅力がある。
「ごめんね、場所借りちゃって。さっきまで絵梨花ちゃんたちと『るるぶ』見てたんだけど、自分の席に戻るのがちょっと面倒になっちゃって」
「そうか」
「絵梨花ちゃんの隣だと勉強がはかどるんだよね。なんか落ち着くっていうか」
「俺のいない時なら、この席を好きに使っていいよ」
皐月と真理が話し始めたので、隣の席の二橋絵梨花も勉強の手を止めた。絵梨花も中学受験をするので、昼休みはいつも勉強をしている。教室のような騒がしい環境では受験生同士で固まって勉強する方が集中できるのだろう。これからは昼休みに席を開けておいた方がいいかなと思った。
「二橋さん、ごめんね。勉強の邪魔しちゃった?」
「いいよ、もうすぐ授業が始まるから。それに学校にいる時は受験勉強よりも学校生活を大切にしたいの」
「なんか照れるな。俺ってそんなに大切にされてるんだ」
「バカっ、あんたは学校生活か。これから皐月のこと、学校生活って呼ぶよ」
席が近くなったからだろうか、最近皐月は真理によく罵倒されるようになった。皐月は慣れていて何とも思わないが、傍から見ると真理の皐月への態度がキツく見えるようで、真理はクラスメイトから怖がられているらしい。
皐月はいつも自分の席から後ろを振り向く真理を見ているが、今日は自分が振り向いて真理を見ている。この距離とこの角度だと、普段とは見える情報量が全然違うし、かすかに真理の吐息もかかる。このままでは真理とキスしたくなりそうだ。
「漢字ドリルか。これなら俺でもできそうだな」
皐月は勉強全般で真理や絵梨花には敵わないが、漢字だけは負けたことがない。ただし一度も勝ったことがない。
「じゃあ、皐月にやってもらえばよかった。これ、面倒で嫌いなのよね」
真理は図々しく、塾の宿題を押し付けるつもりのようだ。皐月に夏休みの宿題をやってもらったことに味を占めたらしい。
「満点が取れないならやる価値あるんじゃないの? 知識の抜けてるのが何かチェックできるし」
「まあそうなんだけどさぁ……コスパ悪いでしょ。何千と漢字を覚えても、試験に出るのなんて数個だし」
「そうだよな。そこで間違えると差がつくわけだから選抜試験って嫌だな。漢検みたいに到達度を測るテストなら、そんなに神経質にならなくてもすむのに」
「ホント、うんざり。でもやればできる問題だから、やらないわけにはいかないし……。どうせ漢字の勉強するなら、皐月みたいに漢検のレベル上げした方が楽しいんだろうね」
真理が思うほど漢検の勉強も楽しくないのにと思ったが、確かに99%を100%にする勉強よりはマシだ。皐月だって漢検で満点を目指していたが、本気で全問正解するつもりはなかった。受験勉強では完璧を目指さなければならないのなら、真理がうんざりするのも無理はない。
「そういや俺、2級取ってから漢検の勉強やってないや」
「どうせ私があげたテキストもやってないでしょ?」
「少しはやってるって。この前、祐希に勉強しているところ見られて『凄いこと勉強してるね』って言われたし。真理ならこんな問題全部解けるって代わりに自慢しておいてやったら、驚いてたぞ」
「余計なこと言わないでくれる? 私が全部解けるわけないじゃん」
皐月は真理のことを心底凄いと思っているが、真理は本気で自分のことを大したことないと思っている。
皐月は仕方なく真理の席に座って、後ろの席に身体を向けた。真理にちょっかいを出してやろうと思ったが、真剣に漢字の問題集を解いている姿を見ると、遠慮のない相手とはいえさすがに気が引ける。だが、離しかけずにはいられない。
「なんで俺の席で勉強してんだよ?」
真理は書きかけている漢字を書き終わると、手を止めて顔を上げた。あいかわらず真理は涼しげな整った顔をしている。真理にはさっきまで図書室で会っていた入屋千智とは違う、クールな魅力がある。
「ごめんね、場所借りちゃって。さっきまで絵梨花ちゃんたちと『るるぶ』見てたんだけど、自分の席に戻るのがちょっと面倒になっちゃって」
「そうか」
「絵梨花ちゃんの隣だと勉強がはかどるんだよね。なんか落ち着くっていうか」
「俺のいない時なら、この席を好きに使っていいよ」
皐月と真理が話し始めたので、隣の席の二橋絵梨花も勉強の手を止めた。絵梨花も中学受験をするので、昼休みはいつも勉強をしている。教室のような騒がしい環境では受験生同士で固まって勉強する方が集中できるのだろう。これからは昼休みに席を開けておいた方がいいかなと思った。
「二橋さん、ごめんね。勉強の邪魔しちゃった?」
「いいよ、もうすぐ授業が始まるから。それに学校にいる時は受験勉強よりも学校生活を大切にしたいの」
「なんか照れるな。俺ってそんなに大切にされてるんだ」
「バカっ、あんたは学校生活か。これから皐月のこと、学校生活って呼ぶよ」
席が近くなったからだろうか、最近皐月は真理によく罵倒されるようになった。皐月は慣れていて何とも思わないが、傍から見ると真理の皐月への態度がキツく見えるようで、真理はクラスメイトから怖がられているらしい。
皐月はいつも自分の席から後ろを振り向く真理を見ているが、今日は自分が振り向いて真理を見ている。この距離とこの角度だと、普段とは見える情報量が全然違うし、かすかに真理の吐息もかかる。このままでは真理とキスしたくなりそうだ。
「漢字ドリルか。これなら俺でもできそうだな」
皐月は勉強全般で真理や絵梨花には敵わないが、漢字だけは負けたことがない。ただし一度も勝ったことがない。
「じゃあ、皐月にやってもらえばよかった。これ、面倒で嫌いなのよね」
真理は図々しく、塾の宿題を押し付けるつもりのようだ。皐月に夏休みの宿題をやってもらったことに味を占めたらしい。
「満点が取れないならやる価値あるんじゃないの? 知識の抜けてるのが何かチェックできるし」
「まあそうなんだけどさぁ……コスパ悪いでしょ。何千と漢字を覚えても、試験に出るのなんて数個だし」
「そうだよな。そこで間違えると差がつくわけだから選抜試験って嫌だな。漢検みたいに到達度を測るテストなら、そんなに神経質にならなくてもすむのに」
「ホント、うんざり。でもやればできる問題だから、やらないわけにはいかないし……。どうせ漢字の勉強するなら、皐月みたいに漢検のレベル上げした方が楽しいんだろうね」
真理が思うほど漢検の勉強も楽しくないのにと思ったが、確かに99%を100%にする勉強よりはマシだ。皐月だって漢検で満点を目指していたが、本気で全問正解するつもりはなかった。受験勉強では完璧を目指さなければならないのなら、真理がうんざりするのも無理はない。
「そういや俺、2級取ってから漢検の勉強やってないや」
「どうせ私があげたテキストもやってないでしょ?」
「少しはやってるって。この前、祐希に勉強しているところ見られて『凄いこと勉強してるね』って言われたし。真理ならこんな問題全部解けるって代わりに自慢しておいてやったら、驚いてたぞ」
「余計なこと言わないでくれる? 私が全部解けるわけないじゃん」
皐月は真理のことを心底凄いと思っているが、真理は本気で自分のことを大したことないと思っている。
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