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第4章 深まる季節
218 短すぎる学校の帰り道
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藤城皐月が昇降口で靴に履き替えていた時、背後から二橋絵梨花に声をかけられた。
「藤城さん、今帰り?」
不意を突かれて、びっくりした。小さくてニコニコしている絵梨花はとてもかわいい。
「今日は用事があったから、今から帰るところ。それより二橋さん、どうしたの? 学校に残ってるなんて珍しいね」
「今日は塾がお休みだから、図書室に寄ったり、音楽室で遊んだりしていたの。藤城さんは委員会?」
「うん、今日は早く終わった。そういえばさっき委員会をやっていた時に音楽室からピアノの演奏が聞こえてきたんだけど、あれってもしかして二橋さんが弾いてたの?」
「そうだよ。そっか……藤城さんに聞こえてたんだね。音楽室の前を通ったらピアノの屋根と鍵盤蓋が開いていたんで、つい弾きたくなっちゃったの」
「ああ~。わかるわ、そういうの。ボールが落ちていたら、つい投げたくなっちゃうような感じだよね」
「そうそう。やっぱり遊びたくなっちゃうよね」
対象が高尚なだけで、絵梨花も自分と同じ感性を持っているんだな、と皐月は絵梨花に親しみを感じた。
「美しい曲だなって、思わず聞き入っちゃった」
「……恥ずかしいな。あまり上手く弾けなかったから、途中で弾くのやめちゃったのに」
「そうなの? 俺には細かいテクニックみたいなのはよくわかんないや。さっきの曲って誰の?」
「ショパンの『エチュード』。今、練習中の曲なの。上手に弾けるようになったら、その時はぜひ聴いてね」
「えっ? 本当? 俺、聴かせてもらえるの?」
「うん。卒業までには弾けるようにしたいなって思ってるから、楽しみにしていてね」
絵梨花はクラスの行事でピアノを担当している。きっと卒業前にクラスのみんなに披露してくれるのだろう、と皐月は予想した。
この時、ちょうど二人とも一人だったので、皐月は途中まで一緒に帰ろうと誘ってみた。絵梨花に対してこんな大胆なことをするのは初めてだ。言った後で少し緊張したが、絵梨花はあっさり聞き入れてくれた。
「二橋さん家って何町?」
「豊川町の伊呂通だけど、わかるかな?」
「ん……姫街道のところ?」
「そう。よく知ってるね」
「うん、友達の家があるから。でもなぁ……帰る方向が全然違うな……」
自分の家とまるで方角が違うので、どうやって理由をつけようかと頭をフル回転させたが、全然いい考えが浮かばなかった。
「踏切の手前まで一緒に帰ろうかな」
「藤城さんはどこに住んでいるの?」
「栄町。駅前だよ」
「じゃあ全然方角が違うじゃない。すごく遠回りになっちゃうよ?」
「大したことないって。修学旅行はもっと歩くことになるんだよ」
「あっ、そっか。そういえばそうだったね」
皐月はこの話の流れで帰り道を遠回りすることを正当化できた気がした。だが、ここで話を合わせてもらえたのも不思議な気がする。自分のひねり出した屁理屈があまりにも滅茶苦茶だからだ。それでも、絵梨花と一緒に帰れるならなんでもいいや、と素直に喜んだ。
修学旅行のことで話したいことはいくらでもある。修学旅行の話なんかしなくても、雑談ならいつまでもできる。そう考えると、帰り道なんて短すぎるくらいだ。皐月は絵梨花との二人の時間を一秒でも長く過ごしたいと思い始めていた。
「藤城さん、今帰り?」
不意を突かれて、びっくりした。小さくてニコニコしている絵梨花はとてもかわいい。
「今日は用事があったから、今から帰るところ。それより二橋さん、どうしたの? 学校に残ってるなんて珍しいね」
「今日は塾がお休みだから、図書室に寄ったり、音楽室で遊んだりしていたの。藤城さんは委員会?」
「うん、今日は早く終わった。そういえばさっき委員会をやっていた時に音楽室からピアノの演奏が聞こえてきたんだけど、あれってもしかして二橋さんが弾いてたの?」
「そうだよ。そっか……藤城さんに聞こえてたんだね。音楽室の前を通ったらピアノの屋根と鍵盤蓋が開いていたんで、つい弾きたくなっちゃったの」
「ああ~。わかるわ、そういうの。ボールが落ちていたら、つい投げたくなっちゃうような感じだよね」
「そうそう。やっぱり遊びたくなっちゃうよね」
対象が高尚なだけで、絵梨花も自分と同じ感性を持っているんだな、と皐月は絵梨花に親しみを感じた。
「美しい曲だなって、思わず聞き入っちゃった」
「……恥ずかしいな。あまり上手く弾けなかったから、途中で弾くのやめちゃったのに」
「そうなの? 俺には細かいテクニックみたいなのはよくわかんないや。さっきの曲って誰の?」
「ショパンの『エチュード』。今、練習中の曲なの。上手に弾けるようになったら、その時はぜひ聴いてね」
「えっ? 本当? 俺、聴かせてもらえるの?」
「うん。卒業までには弾けるようにしたいなって思ってるから、楽しみにしていてね」
絵梨花はクラスの行事でピアノを担当している。きっと卒業前にクラスのみんなに披露してくれるのだろう、と皐月は予想した。
この時、ちょうど二人とも一人だったので、皐月は途中まで一緒に帰ろうと誘ってみた。絵梨花に対してこんな大胆なことをするのは初めてだ。言った後で少し緊張したが、絵梨花はあっさり聞き入れてくれた。
「二橋さん家って何町?」
「豊川町の伊呂通だけど、わかるかな?」
「ん……姫街道のところ?」
「そう。よく知ってるね」
「うん、友達の家があるから。でもなぁ……帰る方向が全然違うな……」
自分の家とまるで方角が違うので、どうやって理由をつけようかと頭をフル回転させたが、全然いい考えが浮かばなかった。
「踏切の手前まで一緒に帰ろうかな」
「藤城さんはどこに住んでいるの?」
「栄町。駅前だよ」
「じゃあ全然方角が違うじゃない。すごく遠回りになっちゃうよ?」
「大したことないって。修学旅行はもっと歩くことになるんだよ」
「あっ、そっか。そういえばそうだったね」
皐月はこの話の流れで帰り道を遠回りすることを正当化できた気がした。だが、ここで話を合わせてもらえたのも不思議な気がする。自分のひねり出した屁理屈があまりにも滅茶苦茶だからだ。それでも、絵梨花と一緒に帰れるならなんでもいいや、と素直に喜んだ。
修学旅行のことで話したいことはいくらでもある。修学旅行の話なんかしなくても、雑談ならいつまでもできる。そう考えると、帰り道なんて短すぎるくらいだ。皐月は絵梨花との二人の時間を一秒でも長く過ごしたいと思い始めていた。
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