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第7章 大人との恋
292 デートの報告
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藤城皐月は風呂に入り、2階の自室に戻った。ベッドに横になってスマホでメッセージの返信をしようとしていると、及川祐希が部屋を仕切る襖をノックした。
「皐月、今いい?」
「いいよ」
皐月が襖を開けると、目の前に祐希が膝立ちして待っていた。部屋はすでに布団が敷かれていて、祐希はパジャマに着替え終わっていた。この時の祐希の笑顔はかわいかったが、皐月は微かな引っ掛かりを感じた。
「ねえ、今日の話、聞いてもいい?」
「別にいいけど……」
皐月は祐希が何を思っているのか気になった。明日美と服を買いに行ったことを入屋千智に知らせるつもりなのかもしれない。
皐月はベッドから下りて祐希の部屋に入り、祐希から少し離れた畳の上に座った。
「服ってどこで買ったの?」
「豊橋。水上ビルってわかるかな?」
「うん、知ってる。行ったことあるよ」
「へえ~、意外。昔の祐希ん家からだと、結構遠いよね?」
「そう、遠いの。でもお母さんの実家が豊橋だったから、昔からよく行ってたよ。友達同士で遊びに行くのは豊橋が限度かな。それより遠くに行くと旅行になっちゃう」
祐希は新城市の奥にある、愛知県民の森の近くの旧鳳来町に住んでいた。祐希は自然の豊かな所で幼少期を過ごした。
「水上ビルにあるカフェに行ったことがあるよ。そういえば最近、全然カフェ巡りしていないな……」
「彼氏に連れてってもらえばいいじゃん」
「皐月が連れてってよ、この辺りのカフェに」
「俺が? そんなことしたら千智に怒られちゃうぞ?」
「千智ちゃんには内緒にしておけばいいでしょ?」
皐月は祐希の言葉がちょっと信じられなかった。あれほど自分と千智の仲を取り持つようなことをしてきたのに、今は密会を持ち掛けてくる。
「じゃあ、千智とデートに行く前に下見をするつもりで行ってみようか。祐希も彼氏と豊川でデートする時の参考にすればいいじゃん」
「そうそう。蓮君とデートする時のために下調べをしておかないとね」
皐月は祐希の恋人が蓮という名前なのをこの時初めて聞かされた。知りたくもない情報だ。
「で、夕食は何を食べたの?」
「カレー。インド料理屋に行ってきた」
「インド料理! 私、食べたことな~い。それってスパイスがいっぱい入った辛いカレーだよね? やっぱり家で食べるカレーとは違うの?」
「全然違う。もう別物って感じ。本格的なインドカレーって初めて食べたんだけど、すっげー美味かった。日本人向けの味付けになってるのかな、そんなに辛くなかったよ」
「辛くなくても美味しいんだ。いいな~、私も食べてみたい」
食いしん坊の祐希はカレーが大好きだ。家では過去3回カレーが出たが、いつも皐月よりもたくさん食べていた。皐月がバターチキンカレーを食べた時、これは絶対に祐希も好きな味だと思った。
「そのレストランのカレーって、スーパーでも売ってるんだって。俺が食べたバターチキンカレーもあるみたいだよ。そのスーパーは自転車ですぐに行けるところにあるから、今度買ってくるよ」
「私も一緒に行く。自分で見て、選びたいな」
『フィール』というスーパーなら自転車で簡単に行けるので、一度祐希を連れて行ってもいいかなと思った。『フィール』だけでなく、『サンヨネ』というスーパーにも行ってみたい。
少し家から離れたところにあるせいか、どっちのスーパーも藤城家とは無縁の存在だった。皐月は頼子にフィールとサンヨネを教えて、買い物を今まで以上に楽しんでもらいたいと思った。
「祐希は晩飯、『五十鈴川』で焼肉を食べたんだよね?」
「うん。すっごく美味しかった。お店は小さくて年季が入っているけど、レトロな感じで雰囲気が良かったよ。お肉もタレもすごく美味しかった」
「だよね~。あそこ、美味いよね。店はボロいけど。……俺も五十鈴川に行きたくなっちゃったな。ここ何カ月も行っていないんだよな~」
「またみんなで行こうよ」
「いいけどさ……お金がかかるから、そんなにしょっちゅうは行けないよ」
二人で外食するよりも四人で外食したら倍のお金がかかる。皐月は家の経済のことが心配になり、祐希の言葉に否定的なことを言ってしまった。適当に相槌でも打っておけばよかった。
「皐月が行ったインド料理のお店ってどこにあるの?」
「豊川だよ」
「豊橋じゃないんだ。豊川駅から近い?」
「いや、駅から離れた住宅街の中。明日美の車で行ったんだ」
「へぇ~、明日美さんって車の運転できるんだ」
「そりゃ大人だし、車くらい乗るだろ」
祐希の母の頼子は豊川に引っ越してくる時に、維持費の負担を考えて車を手放した。鳳来に住んでいた頃はどこに行くのも車だったと聞いている。だから祐希も車で行動することに慣れていたのだろう。こっちに来てからは車でどこかに出かけることがなくなった。
「じゃあ、豊橋にも車で行ってきたの?」
「そうだよ」
「いいな……ドライブか。私も鳳来に住んでいたら、高校在学中に免許を取るつもりだったんだ」
皐月は高校生が自動車の運転免許を取るなんて考えたことがなかった。あれは大人になってから取るものだと思っていた。
「祐希は免許、取らないんだ。そう言えば祐希、東京に出るって言ってたよね。東京に住むなら、交通網が発達しているから、車なんていらないね」
「それはそうだけど……。今はお母さんに反対されているから、東京に行けるかどうかわからないし……」
おかしいなと思った。豊川に残るなら運転免許は必須なのに、今の口ぶりだと免許は取らなさそうだ。ということは、祐希は頼子の反対を押し切ってでも東京に出るつもりだ。だが、今の祐希にはそこまでして東京に行きたいような意志を感じない。
「皐月、今いい?」
「いいよ」
皐月が襖を開けると、目の前に祐希が膝立ちして待っていた。部屋はすでに布団が敷かれていて、祐希はパジャマに着替え終わっていた。この時の祐希の笑顔はかわいかったが、皐月は微かな引っ掛かりを感じた。
「ねえ、今日の話、聞いてもいい?」
「別にいいけど……」
皐月は祐希が何を思っているのか気になった。明日美と服を買いに行ったことを入屋千智に知らせるつもりなのかもしれない。
皐月はベッドから下りて祐希の部屋に入り、祐希から少し離れた畳の上に座った。
「服ってどこで買ったの?」
「豊橋。水上ビルってわかるかな?」
「うん、知ってる。行ったことあるよ」
「へえ~、意外。昔の祐希ん家からだと、結構遠いよね?」
「そう、遠いの。でもお母さんの実家が豊橋だったから、昔からよく行ってたよ。友達同士で遊びに行くのは豊橋が限度かな。それより遠くに行くと旅行になっちゃう」
祐希は新城市の奥にある、愛知県民の森の近くの旧鳳来町に住んでいた。祐希は自然の豊かな所で幼少期を過ごした。
「水上ビルにあるカフェに行ったことがあるよ。そういえば最近、全然カフェ巡りしていないな……」
「彼氏に連れてってもらえばいいじゃん」
「皐月が連れてってよ、この辺りのカフェに」
「俺が? そんなことしたら千智に怒られちゃうぞ?」
「千智ちゃんには内緒にしておけばいいでしょ?」
皐月は祐希の言葉がちょっと信じられなかった。あれほど自分と千智の仲を取り持つようなことをしてきたのに、今は密会を持ち掛けてくる。
「じゃあ、千智とデートに行く前に下見をするつもりで行ってみようか。祐希も彼氏と豊川でデートする時の参考にすればいいじゃん」
「そうそう。蓮君とデートする時のために下調べをしておかないとね」
皐月は祐希の恋人が蓮という名前なのをこの時初めて聞かされた。知りたくもない情報だ。
「で、夕食は何を食べたの?」
「カレー。インド料理屋に行ってきた」
「インド料理! 私、食べたことな~い。それってスパイスがいっぱい入った辛いカレーだよね? やっぱり家で食べるカレーとは違うの?」
「全然違う。もう別物って感じ。本格的なインドカレーって初めて食べたんだけど、すっげー美味かった。日本人向けの味付けになってるのかな、そんなに辛くなかったよ」
「辛くなくても美味しいんだ。いいな~、私も食べてみたい」
食いしん坊の祐希はカレーが大好きだ。家では過去3回カレーが出たが、いつも皐月よりもたくさん食べていた。皐月がバターチキンカレーを食べた時、これは絶対に祐希も好きな味だと思った。
「そのレストランのカレーって、スーパーでも売ってるんだって。俺が食べたバターチキンカレーもあるみたいだよ。そのスーパーは自転車ですぐに行けるところにあるから、今度買ってくるよ」
「私も一緒に行く。自分で見て、選びたいな」
『フィール』というスーパーなら自転車で簡単に行けるので、一度祐希を連れて行ってもいいかなと思った。『フィール』だけでなく、『サンヨネ』というスーパーにも行ってみたい。
少し家から離れたところにあるせいか、どっちのスーパーも藤城家とは無縁の存在だった。皐月は頼子にフィールとサンヨネを教えて、買い物を今まで以上に楽しんでもらいたいと思った。
「祐希は晩飯、『五十鈴川』で焼肉を食べたんだよね?」
「うん。すっごく美味しかった。お店は小さくて年季が入っているけど、レトロな感じで雰囲気が良かったよ。お肉もタレもすごく美味しかった」
「だよね~。あそこ、美味いよね。店はボロいけど。……俺も五十鈴川に行きたくなっちゃったな。ここ何カ月も行っていないんだよな~」
「またみんなで行こうよ」
「いいけどさ……お金がかかるから、そんなにしょっちゅうは行けないよ」
二人で外食するよりも四人で外食したら倍のお金がかかる。皐月は家の経済のことが心配になり、祐希の言葉に否定的なことを言ってしまった。適当に相槌でも打っておけばよかった。
「皐月が行ったインド料理のお店ってどこにあるの?」
「豊川だよ」
「豊橋じゃないんだ。豊川駅から近い?」
「いや、駅から離れた住宅街の中。明日美の車で行ったんだ」
「へぇ~、明日美さんって車の運転できるんだ」
「そりゃ大人だし、車くらい乗るだろ」
祐希の母の頼子は豊川に引っ越してくる時に、維持費の負担を考えて車を手放した。鳳来に住んでいた頃はどこに行くのも車だったと聞いている。だから祐希も車で行動することに慣れていたのだろう。こっちに来てからは車でどこかに出かけることがなくなった。
「じゃあ、豊橋にも車で行ってきたの?」
「そうだよ」
「いいな……ドライブか。私も鳳来に住んでいたら、高校在学中に免許を取るつもりだったんだ」
皐月は高校生が自動車の運転免許を取るなんて考えたことがなかった。あれは大人になってから取るものだと思っていた。
「祐希は免許、取らないんだ。そう言えば祐希、東京に出るって言ってたよね。東京に住むなら、交通網が発達しているから、車なんていらないね」
「それはそうだけど……。今はお母さんに反対されているから、東京に行けるかどうかわからないし……」
おかしいなと思った。豊川に残るなら運転免許は必須なのに、今の口ぶりだと免許は取らなさそうだ。ということは、祐希は頼子の反対を押し切ってでも東京に出るつもりだ。だが、今の祐希にはそこまでして東京に行きたいような意志を感じない。
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