生死のサカイ

柴王

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5、藍色の後悔

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「5年前、私は息子と無理心中を図った。息子の名前は紫音しおん

「! 無理心中……それって…………」

「ええ。私は罪を犯そうとした。親として、人として絶対にしてはいけない罪を」



 藍さんは、ひと言ひと言を噛みしめるように言葉を紡いでいく。



「そんな…………どうして……!」

「あのとき、私は疲れ切っていた…………。赤子の紫音を育てながら、酒癖が悪い夫の暴力に耐え続ける日々。そこから逃げ出して、夫の家族とは縁を切り、自分だけで紫音を育てていたけど、生きていくにはお金も心も限界だった……」

「…………」

「でも、いざ無理心中を行動に移そうとしても、紫音の顔を見たら殺すことなんてできなかった。どんなに苦しくなっても、自分の子どもだけは殺せなかったの…………」



 藍さんの目には涙が溜まっている。



「そして私は、自分一人だけ死ぬことを決意したの。きっと誰かが、哀れに思った誰かが、紫音を幸せにしてくれるんじゃないかって、そう信じて」



 ……抑えきれなかった。親子一緒に生きていけるのに、それを自分で放棄してしまうなんて……! わたしは咄嗟に藍さんの肩を掴み、激しく揺さぶる。



「それは……それは間違ってるよ! 紫音くんに必要だったのはお母さんである藍さんでしょ!? 藍さんがいれば、きっとそれだけで良かったんだ……! 藍さんだって、殺せないくらい紫音くんを愛してたんでしょ!?」

「落ち着くんだ、アカネ。アイは後悔をしている。だからこうして幽霊としてこの世にとどまっているんだ」



 アオイがわたしと藍さんの間に割って入る。

 藍さんは下を向いたまま表情を変えない。



「そう。あなたの言う通り、私は最低の人間。きっと地獄に行くんでしょう……。それでも、私は罪を償う前に一度でいいから息子の姿を見てみたいの…………。今、紫音が一体どうしてるのか、知りたいの…………」

「それが、キミの未練なんだね、アイ」



 藍さんは無言で頷く。



「了解した。ボクたちがシオンを見つけ出してキミに会わせよう。ボクたちが、キミの未練を断ち切……」

「わたしは、やらない」

「アカネ?」



 藍さんが罪を償うというなら、それは地獄へ行くことなんかじゃない。愛した息子と二度と会えないこと。それがきっと罰なのではないか。



「わたしは、やらないから」



 わたしは二人に背を向けて、振り返らず走り去った。



 ***



 …………つい、勢いで逃げてしまった。家に一人帰ったわたしは落ち着くとともにすでに後悔していた。

 わたしは小学生の時、両親とお別れすることになった。一言も話すこともできずに…………。だから、「一緒にいられる権利」を放棄した藍さんにイラっとしてしまったんだ。



 でも、それはわたしのやつあたり。

 藍さんはきっと死後、激しく後悔したんだろう。枯れ果てるまで涙を流しただろう。5年間、何度も何度も紫音くんに謝り続けただろう。

 そうして、愛する息子に、もう話すこともできない息子にひと目会いたいと、わたしたちを頼ってきたんだ。



「…………」



 それに、昨日まさに自殺をしようとしていたわたしが藍さんを非難する資格なんてない。

 わたしはこの世を檻だと言い、そこから解放されるために死を選んだ、はずだった。

 でも、もしかしたら、それはただの現実逃避だったのかもしれない。わたしの弱さがむき出しになっただけなのかもしれない。

 わたしは、絶望に耐えながらも希望を見出す努力をしていなかったから。



 昨日の夜を思い出す。わたしは、アオイのおかげで今死なずに生きている。わたしは自力で生き残ったんじゃない。アオイの手をとって生きることを選んだんだ。

 わたしたちは、仕事仲間で、友達…………。

 進む道が正しいかなんて進んだあとにしかわからない。わたしは、わたしがそうあるべきと思う道を進まなきゃいけないんだ。



「…………やってやる」



 唇からこぼれた声は、少し震えていた。



 ***



 まさか二日連続、この場所に来るとは思わなかった。

 昨日と同じ、学校の屋上。生徒や先生はすでに帰った、夜闇に包まれた静寂。

 ここに来ればアオイに会える。そんな気がした。



「キミは一体何をしているんだい? そんなところから落ちたら死んでしまうよ?」

「……アオイ!」

「なんてね。アカネ。ここに来たってことは、ボクに会いに来たってことだろう? ボクに会いに来たってことは、アイの未練を断ち切る手伝いをする決心がついたってことじゃないか?」

「うん。わたし、昼間藍さんにひどいこと言った。藍さんはきっと後悔して、悩んで悩んで悩みまくったんだ。」

「だからわたしが藍さんにするべきことは非難じゃない。依頼を引き受けること。それだけなんだよ」

「そうか。まあ、ボクはアカネがどう言おうが協力してもらうはずだったんだけどね。だってボクたちは」



「「友達」」



 声が重なったことにアオイは少し驚いたような顔をしながらも、続ける。



「だろ?」

「うん!」



 静寂の中、二人の声だけが屋上に響いていた。



「あ、ちなみにわたしがアオイに会おうと思ったのはそれだけじゃないよ。」

「? なんだい?」

「アオイ、どうせまだ夜ご飯食べてないんでしょ? それに泊まるとこだってないでしょ? まったく、昨日はどこで過ごしたのか知らないけど、アオイみたいなちっちゃい女の子が夜中に外出歩いたらだめなんだからね! これからはうちに泊まってもらいます!」

「いや、ボクは一人でも大丈夫…………ちっちゃいって言うな!」

「ぐだぐだ言わない! ほら行くよ!」

「わかった! 行くから抱き上げるのはやめてくれ、自分で歩くから!」



 二人の初仕事が、本格的にスタートした。
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