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23、朱色の家族
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そして翌日、わたしたちは秋津くんの家の前に来ていた。
「なんか、自分の家なのに他人ひとの家に入るみたいな緊張感があるな……」
秋津くんはごくり、と唾をのむ。
「わたしも緊張してきた……全然慣れないなあ」
「何を立ち止まっているんだい? さっさと入ろうじゃないか」
そう言うと同時にアオイはインターホンを押していた。
「ああっ、アオイ! まだ心の準備が……」
『はい』
すぐにインターホン越しに女の人の声が聴こえる。
「あ、あの……秋津朱也くんのお母さんでしょうか?」
『…………はい、そうですが』
「わたしたち、秋津く……朱也くんのことでお話があって来たんです」
『朱也のことで? どちら様でしょうか?』
「えっと、わたしたちは……」
「ボクたちは魂清請負人といって、死して幽霊となった人間の未練を断ち切り、成仏させる仕事をしている。シュウヤはボクたちの依頼人だ」
『ソウル……? あの、いたずらなら帰ってください…………私たち、もう朱也のことは…………』
「あ……待ってください! 秋津く……朱也くんは、ご両親に謝りたがっています! わたしたちは、朱也くんの気持ちを伝えに来ただけなんです! 話を、聴いていただけないでしょうか……?」
『……………………』
インターホンの向こうでなにか言い合っている声が聴こえる。
『……朱也の父です。さっきのやりとりは聞かせてもらっていたが、君達は本当に、朱也のために、朱也の気持ちを伝えるためだけに来た、ということでいいのかな?』
「はい」
『どうして朱也のためにそこまで頑張るんだ?』
「秋津くんの…………強い想いに打たれたから。ただ、それだけです」
『…………わかった。中に入ってくれ』
「! …………ありがとうございます!」
後ろにいる秋津くんに振り返る。
「ありがとう、二人とも。ここからは俺が頑張る番だ」
***
家に入れてもらったわたしたちは、テーブルをはさんで秋津くんのお父さんとお母さんと向かい合って座っていた。
「改めて、伏見茜です。突然お邪魔してすいません。よろしくお願いします」
ペコリ、と頭を下げる。
「アオイだ。よろしく」
「お願いします!」
アオイの頭を掴んでぐいー、っと頭を下げさせる。
「朱也の父と母です。…………よろしく」
「……それで、さっき言っていたことについて、詳しく聞かせてもらいたいんだが……」
秋津くんのお父さんは神妙な面持ちでこちらを見る。
「はい。これは、信じていただくしかないんですが…………この世に未練を残して亡くなった人間は、その後も幽霊として現世に留まり続けます。そしてわたしたちは、現世に留まった幽霊と話し、触れることができます。そんな幽霊たちの未練を断ち切る手伝いをして、幽霊たちを成仏させるのがわたしたちの仕事です」
「それで…………君達が今、その手伝いをしているのが、朱也ということか?」
「はい。秋津くんからはいろいろ伺いました…………亡くなった時のことも含めて」
「秋津くんはお二人と当時のチームメイトに未練があってこの世に留まっています。それで、わたしたちは秋津くんの気持ちを仲介して伝えるために、ここにいます」
「にわかには、信じがたい話だが……」
二人は顔を見合わせる。
「すぐに信じることが難しいのはわかっています。でも、わたしは秋津くんの想いを、お二人に届けたい! その気持ちでここに来ています。どうか、お話を聴いていただけないでしょうか……?」
少しの沈黙の後、お母さんが口を開く。
「伏見さん……でしたっけ? その、朱也はここにいるの?」
「! はい、秋津くんはわたしたちの傍にいます!」
「だったら、家族にしかわからない質問にも答えられるはず。そうよね? それに答えられたら、あなたの言うことを信じましょう。あなたもそれでいいわよね?」
「ああ、そうだな。そうしよう」
わたしは秋津くんの方を見る。秋津くんはうなずく。
「わかりました。……質問してください」
「ええ、それじゃあ、朱也。あなたが高校に入って初めてスタメンで試合に出た日に私が作った夕食、覚えてる?」
「どう? 秋津くん」
わたしは再度、秋津くんの方を見る。
「よ、よし。ちょっと待て。初めてスタメンで出た日だよな。うーん、何食べたんだっけな…………」
「ちょっと! しっかりしてよ! 答えられなかったら信じてもらえないじゃん!」
わたしは小声で秋津くんを急かす。
「う……ちょっと待てって、そうだな、唐揚げ……とかかな、多分」
「か、唐揚げ……ですか?」
わたしはお母さんに向かって答える。
「違うわね」
「ええ! ちょっと、違うじゃん!」
「うーん…………わかった、カレーだ!」
「……カレー、ですか?」
「違うわね」
「ええ! す、すいません! でも、ここに秋津くんがいるのは本当で…………」
「ええ、信じるわ」
「もう一問、チャンスをください! …………え?」
「だから、信じるわ……ふふっ、朱也がそんなこと覚えてるはずないもの。野球のことしか頭にない子だったから」
「?…………はあ?」
「だから、それが正解。もしあなたがピタッと正解を当てようものなら、それこそ信じられなかったわ」
「な……なるほど」
「それに、伏見さん……あなたの雰囲気から何となく伝わったわ。朱也と話している人は、楽しくて明るい雰囲気になるから…………これは親バカかもしれないけどね」
そういってお母さんは笑う。
「まあ、そうだな。俺も信じよう」
お父さんも微笑む。
さっきまで緊張していた空気が緩む。わたしと秋津くんは、ほっとしてため息をついた。
「なんか、自分の家なのに他人ひとの家に入るみたいな緊張感があるな……」
秋津くんはごくり、と唾をのむ。
「わたしも緊張してきた……全然慣れないなあ」
「何を立ち止まっているんだい? さっさと入ろうじゃないか」
そう言うと同時にアオイはインターホンを押していた。
「ああっ、アオイ! まだ心の準備が……」
『はい』
すぐにインターホン越しに女の人の声が聴こえる。
「あ、あの……秋津朱也くんのお母さんでしょうか?」
『…………はい、そうですが』
「わたしたち、秋津く……朱也くんのことでお話があって来たんです」
『朱也のことで? どちら様でしょうか?』
「えっと、わたしたちは……」
「ボクたちは魂清請負人といって、死して幽霊となった人間の未練を断ち切り、成仏させる仕事をしている。シュウヤはボクたちの依頼人だ」
『ソウル……? あの、いたずらなら帰ってください…………私たち、もう朱也のことは…………』
「あ……待ってください! 秋津く……朱也くんは、ご両親に謝りたがっています! わたしたちは、朱也くんの気持ちを伝えに来ただけなんです! 話を、聴いていただけないでしょうか……?」
『……………………』
インターホンの向こうでなにか言い合っている声が聴こえる。
『……朱也の父です。さっきのやりとりは聞かせてもらっていたが、君達は本当に、朱也のために、朱也の気持ちを伝えるためだけに来た、ということでいいのかな?』
「はい」
『どうして朱也のためにそこまで頑張るんだ?』
「秋津くんの…………強い想いに打たれたから。ただ、それだけです」
『…………わかった。中に入ってくれ』
「! …………ありがとうございます!」
後ろにいる秋津くんに振り返る。
「ありがとう、二人とも。ここからは俺が頑張る番だ」
***
家に入れてもらったわたしたちは、テーブルをはさんで秋津くんのお父さんとお母さんと向かい合って座っていた。
「改めて、伏見茜です。突然お邪魔してすいません。よろしくお願いします」
ペコリ、と頭を下げる。
「アオイだ。よろしく」
「お願いします!」
アオイの頭を掴んでぐいー、っと頭を下げさせる。
「朱也の父と母です。…………よろしく」
「……それで、さっき言っていたことについて、詳しく聞かせてもらいたいんだが……」
秋津くんのお父さんは神妙な面持ちでこちらを見る。
「はい。これは、信じていただくしかないんですが…………この世に未練を残して亡くなった人間は、その後も幽霊として現世に留まり続けます。そしてわたしたちは、現世に留まった幽霊と話し、触れることができます。そんな幽霊たちの未練を断ち切る手伝いをして、幽霊たちを成仏させるのがわたしたちの仕事です」
「それで…………君達が今、その手伝いをしているのが、朱也ということか?」
「はい。秋津くんからはいろいろ伺いました…………亡くなった時のことも含めて」
「秋津くんはお二人と当時のチームメイトに未練があってこの世に留まっています。それで、わたしたちは秋津くんの気持ちを仲介して伝えるために、ここにいます」
「にわかには、信じがたい話だが……」
二人は顔を見合わせる。
「すぐに信じることが難しいのはわかっています。でも、わたしは秋津くんの想いを、お二人に届けたい! その気持ちでここに来ています。どうか、お話を聴いていただけないでしょうか……?」
少しの沈黙の後、お母さんが口を開く。
「伏見さん……でしたっけ? その、朱也はここにいるの?」
「! はい、秋津くんはわたしたちの傍にいます!」
「だったら、家族にしかわからない質問にも答えられるはず。そうよね? それに答えられたら、あなたの言うことを信じましょう。あなたもそれでいいわよね?」
「ああ、そうだな。そうしよう」
わたしは秋津くんの方を見る。秋津くんはうなずく。
「わかりました。……質問してください」
「ええ、それじゃあ、朱也。あなたが高校に入って初めてスタメンで試合に出た日に私が作った夕食、覚えてる?」
「どう? 秋津くん」
わたしは再度、秋津くんの方を見る。
「よ、よし。ちょっと待て。初めてスタメンで出た日だよな。うーん、何食べたんだっけな…………」
「ちょっと! しっかりしてよ! 答えられなかったら信じてもらえないじゃん!」
わたしは小声で秋津くんを急かす。
「う……ちょっと待てって、そうだな、唐揚げ……とかかな、多分」
「か、唐揚げ……ですか?」
わたしはお母さんに向かって答える。
「違うわね」
「ええ! ちょっと、違うじゃん!」
「うーん…………わかった、カレーだ!」
「……カレー、ですか?」
「違うわね」
「ええ! す、すいません! でも、ここに秋津くんがいるのは本当で…………」
「ええ、信じるわ」
「もう一問、チャンスをください! …………え?」
「だから、信じるわ……ふふっ、朱也がそんなこと覚えてるはずないもの。野球のことしか頭にない子だったから」
「?…………はあ?」
「だから、それが正解。もしあなたがピタッと正解を当てようものなら、それこそ信じられなかったわ」
「な……なるほど」
「それに、伏見さん……あなたの雰囲気から何となく伝わったわ。朱也と話している人は、楽しくて明るい雰囲気になるから…………これは親バカかもしれないけどね」
そういってお母さんは笑う。
「まあ、そうだな。俺も信じよう」
お父さんも微笑む。
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