生死のサカイ

柴王

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49、杏から碧へ

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『僕が、魂浄請負人に…………?』



『そう、後悔を抱える人たちを救ってあげるの。そうすることがきっと、あなたの未練をもやがて断ち切ることに繋がる』

『僕は器用じゃないんだ。そんなの、できないよ』

『最初は難しくても、そのうちきっとできるようになる。これを見て、碧』

『! どうしたんだ?それ…………』



 彼女の体からはわずかな光が満ちていた。



『これはもうすぐあの世に行くことの証。私、実はもう、自分の未練を断ち切ったの。どちらにしろ、長くはここに留まれない。だから碧、私を継いで、あなたがみんなを救ってほしいの…………大丈夫、あなたならきっとできる』



『そんな…………』



 不安だ。ボクにうまくできるだろうか。また、辛いことが起きないだろうか。…………でも、ボクは知りたい。ボクが死んだことは正しかったのか、間違いだったのか。そして叶うなら、一度だけでも、心のつながりを…………。



『…………わかった、引き受けるよ、杏』



『そう言ってくれると思ったわ。あなたに力を託す前に、約束してほしいことがいくつかあるの』



 杏は柔らかで、それでいて真剣な表情でボクを見据えた。



『まず、生前のあなたを知っている人間には素性を隠しなさい。…………だから、あなたはお母さんと会うことはできない。ごめんなさい。死んだはずの人間が生き返った、なんてことになったら大ニュース。そうなったら、あなたを狙ってくる輩もいるでしょう。とりあえず、姿を隠すために私が羽織っているローブをあなたに渡します』



『そうか…………』



 当然だ。もとよりボクは死んでいるのだ。ボクだけが、死んでなお家族と向かい合って話せる、なんて都合が良すぎる。



『それから、魂浄請負人は近くにいる幽霊の居場所が直観で把握できる。できるだけ、多くの幽霊と話なさい。それがひいては、あなたの未練を断ち切ることに繋がる』
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