生死のサカイ

柴王

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53、星色の涙と別れ

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「えっと…………つまり、別に未練ができちゃったから、そのせいでアオイはまだ現世に留まってるってこと?」



 わたしはまだ寝そべっているアオイに手を差し伸べつつ自分の理解を確認する。



「そういうことだ」



 アオイはわたしの手を掴んで起き上がる。



「で、その未練とは一体…………?」

「それは、その…………」



 アオイは言葉を詰まらせる。難しいことなんだろうか。



「その?」

「キミ…………だよ」



「え?」



「だから、アカネと離れたくない…………いっしょにいたい気持ちが強すぎてそれが新しい未練になったんだよ!」



 アオイの言葉を理解した瞬間、わたしは思わず笑顔と涙がこぼれそうになって、ぐっとこらえる。



「…………へえ、ふーん。アオイはそんなにわたしと離れ離れになるのが嫌なんだー。この世に留まっちゃうくらいにねえ、ふーん。」



 わたしはニヤニヤしながらアオイに近づく。これはわたしの照れ隠し。



「からかうな!」

「痛っ!」



 頭にチョップを食らってわたしは地面に這いつくばる。



「…………わたしも」



 だめだ。こらえることなんてできないよ。



「…………アカネ?」



「わたしも、アオイとお別れしたくないよう…………!」



 流れる涙は頬を伝って、床に落ちて跳ねる。



「アカネ…………」



 わたしの目から零れたものじゃない水滴が、同じように床に落ちて跳ねる。

 見上げると、アオイが泣いていた。わたしはそれを見て、涙を拭う。アオイはその存在が消えるか消えないかの瀬戸際にいるんだ。それも、わたしを救ったことが原因で。だったら…………。



「アオイ」



 わたしは泣き続けるアオイをぎゅっと抱きしめる。

 だったら今度は、わたしがアオイを助ける番だ。



「きっとこれは、本当のお別れじゃない。わたしはいつか、アオイに会いに行くから。未練も困難も、何だって乗り越えて、絶対に会いに行くから」



「アカネ…………。絶対だ、絶対だぞ。ボクはいつまででも、キミを待ち続けるから……!」



 アオイは右手の小指を突き出す。



「うん。絶対。約束だよ!」



 わたしは自分も小指を出して、アオイの小指をきゅっと握る。



 これは一時のお別れにすぎない。絶対に会える。今は、そう信じるしかできない。



「…………どうやら、キミのおかげで、ボクはちゃんとあの世に行けそうだ」



 アオイの体から光が満ち始める。



「そっか。良かった…………」



 わたしたちは笑顔になってお互いを見つめ合う。



「まだ少し、時間はあるでしょ? 座って話そうよ」

「ああ。最後まで、とことん付き合ってもらうよ」



 星の光に照らされながら、わたしたちはたわいのない話をし始めた。



 ちゃんとしたお別れの挨拶なんかいらない。いつか絶対、会えるから。だから話の続きはその時にすればいい。今はひたすら、話し続けよう。



 そしてわたしたちは、他愛ない話をほんの少しだけ続けた。二人の思い出。好きな食べ物。空を覆う、星の話。



「ねえ、アオイ」



 そして、振り向いた先には、誰もいなかった。残ったのは、さっきまでが嘘のような静寂だけ。



 さっきまでのやりとりが、いや、アオイと出会ったことそれ自体が、ともすれば夢だったんじゃないかと錯覚するほど、アオイは突然いなくなった。



 わたしは財布を取り出し、さらにそこからプリクラを取り出す。そこには自分とアオイの姿が、しっかりと写されていた。



「夢じゃ、なかったんだよね」



 プリクラの上にポタッと水滴が落ちる。唇が震える。



「…………アオイ、うわああああああん! あああああああああああああ!」



 ぎりぎりでこらえていたものが、溢れだした。

 悲しくないわけがない、苦しくないわけがない。笑ってやり過ごせるほど、わたしは強くない。アオイの顔。いっしょに過ごした思い出。アオイに関係するものすべてが何度も何度も頭の中を駆け回る。



 わたしは泣いて、叫んで喚いた。枯れ果てるまで、すべてを出し切って。



 その日わたしは、1ヵ月足らずの短い、そしてとっても大事な思い出を、心にしっかりと縫い付けた。
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