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第四部 サムスピジャポン編
52 暗黒のモヤ
しおりを挟む森の中を1時間程歩いた先にある平原。
ロゼッタの呪いを解呪することに決めた俺達は、何かあった時素早く対応できるように、障害物の少ない場所に移動していた。
この場所はイモコを待つまでの間に見つけた場所であり、理由はわからないが、森の中で唯一木が生えていない不思議な場所である。
そこに今、目を閉じたイモコとロゼッタが向かい合っており、二人の間にはシルクがサイトウから渡された玉が置かれていた。
俺達は、そんな二人を少し離れた位置で見守っているのだが、その表情は険しい。
この後に何が起こるのか予想がつかないのだから、誰もが警戒するのは当然だろう。
――特にシルクは……。
「そんな心配すんなよ、シルク。大丈夫だ。イモコを……仲間を信頼してやれ。」
「……このお面もカリーの前では心までは隠せないでがんすな。」
「お前の今の様子を見れば、誰だって気付くだろ。とりあえず俺達は、何かあった時にすぐ動けるようにすればいい。」
「そうでがんすな。」
誰もが沈黙している中、二人の会話は全員に聞こえている。
二人の会話の通り、俺達がやれる事は二人を信じる事と不測の事態に備えることだけだ。
「イモコ、こっちはオッケーだ。ロゼッタちゃんは大丈夫か?」
「はい。いつでもお願いします。」
俺の呼びかけにロゼッタが答える。
声の感じからして、少しだけ緊張しているようだが心の準備はできているようだ。
「なら始めてくれ、イモコ。」
「御意。いくでござるよ!」
イモコはそう言うと、鞘に収まっている刀の柄を握りしめる。
その姿は、初めてイモコと出会った時にイモコが使った居合斬りの構えだった。
しかし、以前とは全く漂わせる雰囲気が違う。
詳しい事はわからないが、なんというか、昔と違って全く隙が感じられない。
その所作を見ただけでも、その技がこれまでとは比べ物にならないほど精錬されていることがわかった。
緊張の一瞬。
全員が固唾を呑んでそれを見守る。
――そして次の瞬間
イモコから放たれた目にも止まらぬ抜刀により、刀が空を斬った。
その剣筋は、あわやロゼッタを斬り裂いたかのようにも見えたが、イモコが斬ったのはそこにあるのであろう、見えない呪いの鎖のみ。
当然、イモコの刃はロゼッタの体にはかすりもしていない。
……にもかかわらず
「……う、あぁぁぁぁぁ!!」
突然ロゼッタがその場にしゃがみ込むと、声にならない叫び声をあげた。
そしてロゼッタの体……そして、イモコとの間に置かれた玉からは、真っ黒いモヤが凄い勢いで上空へ舞い上がっていく。
「ロゼッタ!!」
シルクがその様子を見て真っ先に駆け出すと、俺達もまた、直ぐに二人に駆け寄った。
「大丈夫か、ロゼッタ! しっかりするっち!」
シルクはロゼッタを抱き寄せて状態を確認するも、既に意識が失われている事を知る。
そしてロゼッタの体から発せられる黒いモヤは消え、代わりに玉から出るモヤの量が激しくなっていた。
「退いてくださいシルクさん! ロゼッタちゃん、今助けますからね! セルサーチ。」
シルクに追いついたシロマは、すぐにロゼッタの状態を確認した。
「……体に異常はありません。呪いの残滓も消えています。安心してください、今は呪いが体から出る負荷で気を失っているだけです。」
その言葉にシルクはもとより、そこにいた全員が胸を撫で下ろすも、今度はセイメイが突然上空を指差して叫んだ。
「サクセス様! あれを見て下さい!」
その声に空を見上げた俺は、只ならぬ異変を目にする。
さっきまでの雲一つない晴天の空が、なんと半分ほどドス黒い雲に覆われ始めていた。
発生源は間違いなく、この玉だろう。
玉から発せられるモヤの勢いはとどまる事を知らず、ひたすら青を黒く塗りつぶしていく。
さながらそれは、この世界から光を奪う暗黒といったところだろうか。
それはどう考えても異常事態である。
俺は全員に避難の指示を出そうとするも、その瞬間、何かが砕ける音が聞こえた。
見ると、例の黒い玉が砕け散っている。
それと同時に玉から上がる黒いモヤが消えたのだが
……今度は、突然上空から真っ黒な雨が激しく降り注ぎ始めた。
「みんな! 森へ逃げてくれ。」
俺はそう叫ぶと、真っ先にシルクがロゼッタを抱き上げて駆け出す。
「ロゼッタは俺っちに任せるでがんす!」
「頼んだ! みんなも早く!」
俺がそう叫んだ瞬間、今度は突然上空から3つの大きな黒い球体が隕石のように落下してきた。
鳴り響く爆音……それと同時に、大地が大きく揺れる。
その巨大な玉は地面と衝突すると、玉の外殻がはじけ飛び、中から巨大な魔獣が現れた。
「……あれは、まさか!?」
俺は現れた魔獣を見て、直ぐにそれが何か思い当たる。
それらの姿は、下尾で聞いた三匹の巨大魔獣と似ていた。
二足歩行のライオン型の魔獣
三つの頭を持ったハエのような姿の魔獣
巨大な亀のような魔獣。
どうやら下尾を壊滅させた巨大魔獣は、やはりあの玉が原因で間違いなかったらしい。
巨大魔獣達は、大地に顕現するや否や、産声を上げるかのように大きな遠吠えをあげた。
その声に耳を塞ぐ俺達。
なんらかの特殊攻撃かとも思料したが、特に体に異常はない。
ただあまりの声の大きさに、耳がキンキンしているが。
「サクセス! あれをやるぞ。」
遠吠えが終わると、直ぐにカリーが告げた。
「某も戦うでござる。」
それに続くイモコ。
確かにこのままこいつらをここに放置するわけにはいかない。
ならやるしかないだろう。
「わかった! シロマ、セイメイ! 二人はシルクと一緒にこの場から離れてくれ。カリーとイモコ、そしてゲロゲロはあいつらを迎え撃つ!」
俺がそう指示を出すと、セイメイはそれに従って直ぐにシルクを追ったが、シロマは動かない。
「待ってください、サクセスさん! 私もここに残って戦います。」
「ダメだ。シロマは俺に言ったよな? ロゼッタは自分が守ると。だから、今は行ってくれ。遠くに俺がライトプリズンを張る。そこで待機するんだ。」
その言葉に少しだけ黙り込むシロマ。
多分、俺の言葉を聞いて冷静な判断を計算しているのだろう。
当然、シロマがここでサポートしてくれる方が俺としてもありがたい。
回復できる後衛がいるといないでは、かなり戦況が変わるだろう。
しかし現状、シルクがどの程度戦えるのかわからないし、気絶しているロゼッタは戦いの余波で傷つくかもしれない。
この状況であれば、今シロマが一番必要な場所はここではなかった。
当然それはシロマも理解しているだろう。
そしてシロマが口を開いた。
「……わかりました。ですが、何かあれば直ぐに駆け付けますから……無茶だけはしないでください。」
「わかってる。その時は直ぐに助けてくれ。」
シロマの言葉に笑みを浮かべて答える。
離れていても、シロマにはゲートがあるため、いざという時は助けを期待しているのも本音だ。
その想いが伝わったのか、シロマの表情は少しだけ柔らかくなった。
同時に、俺は少し離れた森に向かってライトプリズンを展開する。
この魔法は本当に有用で、知力が高いのもあるのだろうが、結構離れた場所にも使う事が出来た。
唯一弱点なのは、一回展開するとそれが消えるまで二つ目は出せないというところ。
だが問題はない。
今はシルクとロゼッタが安全ならそれでいいのだ。
森に走るシルクやセイメイも気づいたようで、ライトプリズンを展開した場所に向かい始めると、シロマもそれに続く。
それを確認した俺は、再び巨大魔獣に向き直った。
「ゲロゲロ、あの空を飛んでいるハエを頼めるか?」
「ゲロ!(任せて!)」
ゲロゲロは頼もしくそう答えると、直ぐに戦闘形態の古龍狼に変身する。
「カリーとイモコはあのライオンを抑えてくれ。任せられるか?」
「あぁ、任せておけ。腕が鳴るぜ。」
「某も微力ながら援護させてもらうでござる。」
二人とも怯えはなさそうだ。
まぁこの二人ならば問題ないだろう。
といっても、油断は禁物だが。
「頼んだ。俺はあの亀をやる。二人とも、油断はすんなよ。作戦はいのちだいじにだ。」
俺がそう告げると、二人は力強く頷く。
「よし! みんな、行くぞ!」
こうして俺達と下尾を壊滅させた巨大魔獣との戦いが始めるのであった。
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