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第一章
10 強い拒絶と熱い思い
しおりを挟むカリーは走った!
かつてここまで本気で走った事が無いくらい無我夢中で冒険者ギルドを目指して走った!
胸に宿った熱い想い……
それが爆発したが如く、周りに目もくれず一直線に駆け抜ける。
そしてやがて見えて来る冒険者ギルド
そこに行けばフェイルに会える。
そこに行けばフェイルと共に旅に出れる。
そこに行けば、俺はもっと強くなれる!
カリーは勢いよくギルドの扉を開けると、周りを見渡す……が、目的の人物は見当たらない。
ここにきて、初めて焦りの表情を浮かべるカリー。
「……いない。おっちゃん! ゆう……フェイルさんがどこにいるか知らないか!?」
思わず勇者と言いそうになるカリー。
しかしなんとかそれを押し込むと、誤魔化しながらもギルドマスターに尋ねた。
ギルドマスターは、その鬼気迫る様子に驚きながらも落ち着いた様子で答える。
「おいおい、そんな焦ってどうしたんだよ? お前にしては珍しいな。フェイルさんなら、今しがたワシんところに別れの挨拶をして出て……」
「わかった! サンキュー!」
ギルドマスターの言葉を最後まで聞く事なく、ギルドを飛び出すカリー。
中途半端に話を断ち切られたギルドマスターは、なんともモヤモヤした気持ちでカリーの後ろ姿を見てつぶやいた。
「……なんだったんだ、あいつ。」
カリーは街の出入口に向かって再び走り出す。
そしてしばらくすると、街の門を出ようと歩くフェイルが目に入った。
「いたっ!!」
更に加速するカリー。
そしてフェイルに追いつくと、フェイルも振り返ってカリーに気づいた。
「はぁはぁはぁはぁ……。」
「おいおい、弟君じゃないか。どうしたんだよ、そんなに息を切らせて。」
「あ、あの。昨日はすみませんでした! あと、それと……。」
カリーは激しい息遣いをなんとか抑え込みながら、フェイルに言葉を返す。
しかし、いざフェイルを目の前にすると続く言葉が中々出てこない。
フェイルは、カリーの様子を見て、カリーが何を言おうとしているか察した。
そしてそれに対する答えを先に口にする。
「駄目だ。お前を連れて行く事はできない。」
!?
その言葉にカリーは驚くと同時に焦った。
まだ何も口にしていないにも関わらず、自分の胸の内を見透かされた答え。
だがそれで諦める事なんてできない。
「な、なんでだよ! 俺、何でもするから、頼む! いえ、お願いします! 俺を……俺に強さを教えてくれ……ください!」
カリーの鬼気迫る勢いの願い出に、困った表情を浮かべるフェイル。
本心から言えば、カリーの才能を引き出してあげたい気持ちもある。
できるならばこの町でカリーをみっちり戦士として鍛え上げ、その上で仲間に出来るならば心強いとも思う。
でも駄目だ。今の俺にそんな時間はない。
この時間にも、魔族に襲われて悲しい思いをしている人が数多くいる。
それに自分が進むは修羅の道。生きていられる保証はない。
もしもカリーに何かあれば、バンバーラから大切な家族を奪うことになるだろう。
そんな思いを優しい彼女にはさせたくない。そんな思いをするのは俺一人で十分だ。
そう考えたフェイルは、厳しい言葉でカリーを突き放す事に決めた。
「無理だ。お前の力では直ぐに死ぬ。悪いが今のお前じゃ力不足なんだ。もう少し強くなったら俺を訪ねてくればいい。」
「嫌だ! 大体どこにいるか分からないだろ! それに足手纏いなら、一緒に旅をしながら強くなる! だからお願いします。」
カリーは必死だった。
今までこんな風に誰かに頭を下げた事などない。
しかし、それでも……。
「いい加減にしろ! お前が守るべき相手は外の世界にはいない。お前が守るべき相手はこの国にいるじゃないか! お前がいなくなったらバンバーラはどうする? お前が死んだら、バンバーラはどう思う? それも分からないで簡単について来るなんて言うんじゃねぇ!!」
「俺は絶対死なねぇ! 絶対に何があっても生きる! そして強くなって、大切な者達を守れる自分になるんだ! その為には、あんたと一緒に旅をする必要がある! 今のままじゃあんたが言う通り、俺はいつか大切な者を失っちまうかもしれねぇ! だから頼む! いえ、お願いします! アニキ!!」
フェイルの厳しい拒絶にも一歩として引くことがないカリー。
流石にその気迫に押されたフェイルは、もう連れて行っちまおうかと心が揺れたが、それを直ぐに思い直す。
やはり、バンバーラに悲しい思いをさせる訳にはいかなかった。
そして再度断る事を決めたフェイルであったが、その言葉を出す前に意外な人物が二人の前に現れる。
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