La Vie en Rose【カリー編】

キミちゃん

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第二章

15 ピンチに現れる勇者(ヒーロー)

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【シルク視点】


「クソ……次から次へと……この建物のどこかにいるはずなんだ。ゼン、ここは任せていいか?」

「いけませぬ!! 今、単独行動は危険過ぎます。どうか私から離れる事のないようにお願いします!」


 前方には、盗賊10人、後方に5人、左右に10人。
 シルク達は、完全に盗賊達に包囲されていた。
 このままではローズがどこか違う場所に移動してしまうかもしれない、そう思ったシルクは焦っていた。
 しかし、状況は25対2……そう簡単にはこの場を切り抜けることはできない。


「だが、このままじゃ……。味方の援軍は期待できないし……。」

「大丈夫です、王子。必ずやこの窮地を乗り越えて、姫様を救出しましょうぞ!」


 一人、また一人とゼンは盗賊達を打倒していく。
 シルクもまた盗賊達に引けを取ることはなく、ゼン程ではないにせよ連携しながら敵の数を減らしていった。

 それでも敵の数は圧倒的に多く、倒しても倒しても次々に建物から新しい盗賊が現れ攻撃してくる。
 アジトの中央まで来るまでにシルク達は100人は倒したが、シルクもゼンも既に疲労が限界に来ていた。


ーーそして遂に


「ぐあぁぁ!!」


 シルクの腕に1本の矢が刺さり、血が噴き出してくる。
 矢が刺さった場所は剣を持っていた手であった事から、シルクは持っていた剣を地面に落とした。
 乾いた金属音がその場に響く。


「王子!!」


 その隙を見て、盗賊が3人掛かりでシルクに襲い掛かってきた。
 ゼンは周りの盗賊に阻まれてシルクに近づくことができない。
 まさに絶体絶命のピンチ


「もらったぜぇぇぇぇ!! おらぁぁぁぁ!!」


 盗賊は勝ちを確信し、邪悪な笑みを浮かべながらその剣をシルクの首に振り落とす。


ーーその瞬間だった


 突然辺りが気温がグッと下がったかと思うと、シルクを囲んでいた盗賊3人が一瞬で全員氷漬けとなる。
 そして、後方からは見知らぬ男の声が聞こえた。


「よくやったバーラ。大丈夫か? シルク王子。」


 そこに現れたのは、光の勇者フェイルと賢者バンバーラ。
 ダークマドウを追いかけていたフェイル達は、偶然にも殺されそうになっていたシルクを発見し助けに入った。

 一瞬何が起こったのかわからなかったシルク。
 しかし目の前にいる光輝く者を見て、すぐに直感する。


 勇者が助けにきた……と。


「勇者……様?」

「あぁそうだ。俺はフェイル。だが話は後だ。バーラ、王子を回復してやってくれ。俺はその間に周りの盗賊を一掃する。」

「わかったわ! 気を付けてね、フェイル。では王子様、回復しますので動かないで下さい。【ハイヒーリング】」


 これだけの盗賊に囲まれて尚、勇者は全く問題ないといった様子。
 シルクは、勇者が一瞬でその場から走り去るのを見てぼ~っとしていると、バーラが回復魔法を唱えた。


 すると、貫かれた腕の穴がみるみる塞がっていく。
 それどころか、さっきまであった疲弊感すらも和らいでいくのを感じた。


(温かい……そして痛みが引いて行く。これも並みの回復魔法ではないな。流石は勇者パーティということか。)


「すまない、恩に着る。しかし、なぜ勇者様達がこんなところに?」

「その説明は後よ。ローズ姫は私達が助けるわ。王子様達は逃げて下さい。」

「何だとっ!? どういうことだ?」

「そのままの意味ですわ、王子様。フェイルが戻ってきたら城に帰ってください。」

 
 バーラの言葉に驚くシルク。

 勇者たちがなぜローズの事を知っているのかわからないが、それであればこれ以上に心強い味方はいない。
 噂に聞く、世界を救って回る最強の勇者パーティ。
 敵の数がいくら多いといえど、勇者パーティの前では赤子同然なはずだ。

 そう考えると、目の前の女性が言うようにここは任せていいのかもしれない。
 王子という立場の自分がいることは、勇者パーティにとって足枷以外の何物でもない事はわかっている。
 だがそれでも、これだけは譲れなかった。
 たった一人の妹だ、例え勇者であっても任せきる事などできるわけもない。


「すまない。無理を承知で頼む! 俺は……妹を助けたい! その為に俺はここでやれるだけの事をしたいんだ! 足手まといにはならないようにする!! だから……だから頼む! 俺を一緒に戦わせてくれ!!」


 王子の必死な様子にバンバーラは困った顔になった。

 こういう時、フェイルならなんというだろうか……。
 多分、フェイルなら最悪の事態を考えて、シルクを拒否するだろう。
 しかし、もしもこれが自分の立場ならどう思うか。
 もしもカリーが敵に囚われていて、自分が近くにいるにもかかわらず逃げろと言われたら……。

 多分、自分は逃げないだろう。
 足手まといと分かっていても、必ずカリーを自分の手で助けようとするはずだ。

 そう思うと、シルクに対してこれ以上に逃げろとは言えない。
 そしてバンバーラは決めた。


「わかりました。しかし、私から離れることだけはしないで下さい。あなたが死んだらこの国は終わります。」

「ありがとう……。わかった、約束しよう。では、残りの盗賊を……。」


 シルクがそう言った瞬間、剣を肩に担いだフェイルがゆっくりとシルクに近づいてきた。


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