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さて、翌日のこと。
アリシアは久しぶりに、平民らしい簡素な服装に身を包んで、川辺を歩いていた。

苦しいコルセットも、重いドレスも脱ぎ捨ててしまえば、本当に身軽だ。
すっかりご機嫌なアリシアは、まるで跳ねるようにして進んでいたのだったが、不意に表情を曇らせて足を止めた。

「……本当にいる」

橋のたもとに立つ1人の青年に目をとめた途端、浮かれ気分はすっかり吹き飛んでしまった。

彼の服装は決して煌びやかではない。
いかにも村人が着ていて、おかしくない物ではある。

しかし、スラリと背が高く、艶のある髪をなびかせているその様子は、村にはまるで似つかわしくなかった。

輝くような白い肌に整った容姿も相まって、彼は黙って立っているだけだというのに、明らかに目立っていた。
付近に人気が無いのが、せめてもの救いだ。

そしてそれは、もちろんリアンだったのである。

あまりにもジロジロと見ていたからだろうか。
リアンは不意に振り向くと、アリシアに気がつくなり、笑顔を浮かべて大きく手を振ってきた。

「来た来た!待ってたよ」
「お待たせして、すみません。
それにしても、本当にそんな格好でいらっしゃるとは……」
「ええ?だって、これで来るって言ったじゃない。
なかなか似合ってるだろ?」
「ええ、まあ……」

アリシアの言葉はどうしても歯切れが悪くなる。
するとリアンは点検するように、自分の服装を見下ろした。

「え?村の人らしくない?」
「あ、いえ。服装は、間違ってないと思いますよ」

……目立ってますけどね。
とは口に出さずに、心の内で呟くだけにとどめた。

しかしリアンは素直にアリシアの言葉を受け止めたらしい。

「そうだろう?」

と、得意げに微笑むと

「さあ。じゃあ、行こうか」

と先に立って歩き始めた。

「どちらに行かれるんですか?」
「うーん、とりあえず店でも見て回ろうかと思ってさ。
ここに来るまでの間にも、あっちこっちの店から、良い匂いがしてきていたし……是非中を覗いて見たいんだ。
恥ずかしながら、村の店は見たことがないからね」
「お、お店ですか?
いや、それは……」

こんな格好だとしても、リアンが注目を集めないはずがない。
それだけは絶対阻止しなければと、アリシアは手を大きく振った。

「あ、いや……それも楽しそうですけど!
今日は天気も良いですし、川沿いを散歩してみませんか?
もともとリアン様は、川辺で寝転がってみたいって言ってたじゃないですか」
「それはそうだけど……他にも見たい物や行きたい所がたくさんあるんだ」
「そ、そうなんですか……」

まずい。
まずい、まずい、まずい……。

アリシアはなんとか彼を思いとどまらせるべく頭を巡らせていたが、ふと思いついてニッコリと笑った。

「そうだ!少し暑いくらいですし、川に足を浸してみるのはどうですか?
冷たくて気持ちがいいですよ、きっと」

その言葉はストンと胸に突き刺さったらしい。
分かりやすくリアンの顔が輝いた。

「それは良いな!そうしよう!」
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