孤島の丘

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気持ちよさを通り越して、怖い快感の波が打ち寄せる

「んぅ…はぁ…ぁ!考えてな…ぁい…いかせ…てお願…いぃ…くる…」

息継ぎに顔を離した瞬間に、駿隆の逞しい肩に縋りつけば、あっさりと戒めを外された

ビクンビクンと快楽にのたうつ綾継に駿隆はそっと触れるだけのキスを送った

「……信じてあげる」

呟く声はどこか苦渋に満ちていて、駿隆の顔は泣きそうだった

綾継は何か声をかけようと思ったが、深い闇に引き摺られるように眠りに落ちた




あんな事があってどんな顔をすればいいのか

しかも男同士で

このような緊急時にはありうることなのか

綾継は悶々として昼を迎えたが、駿隆はいたって自然に振る舞い、ごく自然に海に魚をとりに出かけた

残された綾継が拍子抜けするほど

拍子抜けついでに今は花音の為に果物をとりにきたのだが

「はぁあ、何を考えてるんだろう」

本当に駿隆は何を考えているのか解らない

こけ桃をもいでいると、甘い香りが鼻に付く

その香りを楽しんでいると、背後に物音が聞こえた

ゆっくりと振り替えると、向こうも驚いた顔をしている

3人の若者が、目を丸くして、綾継を見ていた

花音を追いかけていた集団だろう

まずいものに出会ってしまった

「………こんにちは」

気まずく思いながらも、綾継が微笑みながら挨拶をすると、戸惑ったように3人は顔を見合せていた

茶髪と金髪と黒髪、若者らしいファッションに身を包んだ彼らは、整った顔なのだろう

しかし、駿隆を見慣れた駿隆の美的感覚は最近おかしくなっていた

ふつうに見える

「おい、八幡《はちまん》、違ぜ」

八幡というらしい茶髪が金髪に不満そうに言えば、金髪も唇を尖らす

「おれのせいかよ。不二《ふじ》が物音がするって言うから」 

「まあまあ、東雲《しののめ》、落ち着いて」

3人のやりとりに耳を傾ける

金髪が八幡で黒髪が不二、茶髪が東雲

「大八木はどこいった?おーい大八木!」

大八木と呼ばれて、草をかきわけながら現れたのは、駿隆とはまた違った美形だった

傷んだ銀髪に鋭い瞳は若さ故だろう

爛々としている

こけ桃を持ったまま、綾継が惚けていると、大八木が横柄な態度で綾継を睨んだ

ギロリと上から下まで舐めるように観察されて、綾継は戦々恐々だった

「……………女は?」

大八木が不機嫌そうに、ぎらぎらとした言葉を吐き捨てるように言うと、周りの3人が縮こまるようにして俯く

どうやら、彼がリーダー格らしい

黙る3人に身長が高い大八木はチッと舌打ちすると、綾継をのぞきこむように屈む

もしからしたら、身長は駿隆と同じくらいかもしれない

じろじろ眺められるのも不快で、綾継は引きつった笑みを浮かべて大八木を見返した

すると大八木は少し神妙に唸った

「お前、現地の子供か?」

言うに事欠いて子供とは

確かに、綾継は童顔であるが

「違う。遭難した」

話すのも億劫で、そういえば、四人はこそこそ話をしている

こけ桃をかばんにしまいながら、バレやしないかと綾継は内心びくびくしていた

「女、見なかったか?髪の長い」

慎重に言葉を選んでいるのだろう

大八木の鋭い目には、なにも見逃すまいという光があった

「………見てない」

綾継が短く答えると、男たちはまた何事か囁きあっている

「お前ひとりか?」

八幡がききにくそうに聞いてくるので、綾継は首を振った

もし1人ならどうなるのか?

大八木達の視線は決して穏やかではない

綾継が黙ったままなので不二が不機嫌そうに短く舌打ちをする

それは密林に響き気味の悪い鳥の鳴き声まできこえてくる

「隠してる可能性もあるぜ。こいつの連れを見ねえと納得できねぇ」

そう言う東雲の目はぎらつく獣のようだ

辺りは密林で、綾継1人どうとでもなる

4人がそう考えているのが手に取るようにわかった

『関わりたくない』

はじめて駿隆の、はじめに言ってた言葉に納得できた

たしかに、なにをするか解らない相手と遭遇するのはいやだ

「おい、連れはどこにいる?」

まるで、獲物をいたぶるかのように大八木は横柄な態度できく

多分、連れも綾継と似たような奴か女だとでも思っているのだろう

綾継は、しぶしぶと海岸を指差した

「今なら、魚とってる」

綾継の言葉に男たちは、さっさと海岸に降りていく

「おい、早く来いよ」

咄嗟で反応できなかったが、
いつの間にか綾継は大八木に肩を組まれ抱き込むように体を寄せられている。

「ほら、足元気をつけな」

気を使っているように見せかけて大八木は綾継を逃がさないようにしているだけなのだろう。

抜け目ない男である

抱かれた肩に何故だか得体のしれない悪寒が走ったが、綾継は駿隆のいる海岸へと急いだ。

諦めの心境とは裏腹に駿隆に会えばどうにかなるだろう

諦念の想いに似た気持ちになりながら、相反する感情を込めて海岸を見下ろした。
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