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しおりを挟む相変わらず離れた所にあるアンダーシアンの離宮は、以前来た時より、なんとなく寂れている感じがした
落ち葉や雑草が生い茂り、蔦植物が離宮を覆い枯れている植木も、そのままになっている
ユーリに嫌がらせをされているバルジアンは、なんだかんだで宮廷が近いから目につきやすいせいか手入れだけは行き届いているのだ
この離宮の雰囲気からだけでも、アンダーシアンの現在の扱いが解る
道中、モンちゃんに何度も話しかけたが、あんまり喋らないよう言われているのか口数が少ない
メイド服にもほつれが見えたりするので、モンちゃんもあんまり良い扱いじゃないんだろう、数年前の方が毎日、新品のような服に身を包んでいたのに
前回、通された応接室に行くと、テーブルには埃が積もっており、あんなにいた使用人にもおらず静かだ
「すぐに参りますので」
モンちゃんは頭を下げると、お茶を注いで去って行ってしまった
あの時、アンダーシアンが俺に何の用だったのかも気になっていたのだ
カップに口をつけると、アンダーシアンが入ってきた
異様な雰囲気を纏って
落ち窪んだ眼は生気がなくがりがりに痩せている姿は、数ヶ月話をした時とかけ離れている
なにがあったのか知らないが、見た目が怖い
見事な衣装なのに裾もほつれて、お風呂にちゃんと入っていなさそうな臭いまでする
脂っぽくなった髪に、目だけがぎょろぎょろと忙しく動いて気持ち悪い
「あ…お久しぶりです…」
申し訳程度に頭を下げて、なんとなく目を合わせてはいけないような気がした
「ブルー…ブルーのウォータームーンをどこにっ!どこにやったんだ!!?お前ならっお前なら知ってるはずだ!!」
いきなり掴みかかられて、驚いて後ろに逃げようとしたが、押し倒され、アンダーシアンは唾を飛ばしなら俺の肩を揺さぶる
「あれが…あれがないと、私は…私は…」
アンダーシアンの手が、俺の首にかかる
恐怖のあまり身動きできないと、みしっという音と、ぐっと器官が閉まっていく音がする
「あっ…ぐっ…あ、やめ…!!」
生理的な涙を流しながら、もがいていると、ふっと手の力が抜ける
「早く言え。どこにある!!どこにあるんだぁ!!」
首にぶら下げていた蒼い宝石の首飾りをぶちぶちと力任せに引きちぎられ、悲鳴を上げる
首から血が出てるかもしれない
首を押さえながら、アンダーシアンの下から這い出ると、アンダーシアンは首飾りに向かってぶつぶつと呟いている
「ほ、ほんものか…今度こそ、ほ……」
「先程の悲鳴は!?お話しだけのはずでは!?」
先程の悲鳴をききつけたのか、モンちゃんが慌てて室内に入ってくる
アンダーシアンはぎょろりとモンちゃんを睨む
モンちゃんは庇うと約束したせいだろう、俺の前に立ちはだかり、アンダーシアンを見つめる
妙な沈黙の後、アンダーシアンがふらりと立ち上がった
そして、モンちゃんを張り飛ばす
「役立たずの出来損ないがっ!今度、今度こそ本物なんだろうなっ!?」
叫ぶアンダーシアンに、ユーリの言うことを聞いていればと後悔しかない
今のアンダーシアンは正気ではない
張り飛ばされたモンちゃんに駆け寄ると、アンダーシアンが掌にバチバチと稲妻が走る球を生成しはじめた
モンちゃんを庇い、覆い被さっていると、再び扉が開く
「ふん、下賤の女の子供がやることは、やはり下賤だ」
さらりとした白髪を流し、夢のように美しい蒼い瞳は、ブルーウォーターと呼ばれる宝石のように眩い
白いドレープのきいたシャツに、黒いパンツにブーツを履いた長い脚を乱暴にアンダーシアンに蹴りを入れながら、その人は現れた
「バ…バルジアンさまぁ…!」
泣きそうになりながら、バルジアンを呼ぶと、モンちゃんに抱きついている姿を見て目を眇めたので慌ててバルジアンに抱きつく
途端に満足気になったバルジアンの後ろに回り、アンダーシアンを見ると、アンダーシアンは空を見つめながら、ぶつぶつと何事か呟いている
さながら狂人だ
アンダーシアンはバルジアンを見た瞬間、にたぁと嫌な笑いを浮かべた
「アビスへ堕ちるがいい」
アンダーシアンの言葉と共に光の球がバルジアンと俺を包む
足下がぽっかりと開き、奈落のように深い穴がうねりをあげて襲いくる
「死ね……」
アンダーシアンの呟きと共に、落とし穴のような穴にバルジアンと一緒にどこまでも落ちて行った
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