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しおりを挟む次の日、一条は腫れ物を触るかのような扱いで皆が一条の機嫌を伺っていた
病院送りになったクラスメイトたちが休んでいるので席もまばらだ
あんなことがあった後だからか陽に強引には近づけないようにもみえた
陽は徹底的に一条を避けた
何か言いたそうな視線は感じるが、一条が陽に近づこうとするたび賛が来て邪魔をして2人にならないように気をつけているようだった
だから、一条を陽が避けなくとも会えてはいない
あれから比嘉とは何ともなってないが、何度か遊んだり会ったりはしていた
まだ一条に苦いものは感じるが、仕方ないだろう
何であんなふうに甘やかしてくれたんだろう
なんであんなに幸せそうに笑い合ってたのにこんな事になるんだろうか
でも、陽は賛と事を構えたくもなかった
賛は体も弱いし、見捨てられた陽とは家での扱いも違う
陽が賛を傷つけたと知ったら両親は陽を許さないだろう
こんなふうに時間が、経過が色んなことを飲み込んでいくんだろうか
でも、陽は一条を忘れられないままだ
一度、両親に一条とのお見合いの件を聞いてみたことがある
確かに一条が言うように、あの日すぐに承諾されて破談ではなく陽が婚約者になっていたそうだ
あんな態度だったのに?と驚きを隠せなかったが、目の前のにこにこした両親も信じられない
陽に伝えなかった理由が、賛の病状が良くなってきたら婚約者を変えようと思っていたそうで
だから陽には何も知らせなかったそうだ
賛も大分、体が良くなってきたし、そろそろ…と笑い合う両親を見て、何も言わずに陽は自分の部屋に引き篭もった
自分もバカだなと、いじめすら気づかなかった両親に今更、何の期待をしていたのかとすら虚しくなる
。
。
。
放課後、帰り道で比嘉が待っていた
「なあ、陽、匂いを…その付けさせて欲しいんだ」
カフェでアイスコーヒーの氷を突いていたら、不意に比嘉にそう言われて、陽は戸惑った
匂い?匂いを付けさせてほしいなんて
かなり薄くはなってきているが、陽には一条のマーキングがされている
それを比嘉は上書きさせて欲しいと言ってきているのだ
どうしよう
匂いがなくなったら、一条との繋がりは本当に消えてしまう
しかし、もう両親に婚約者を交代しろとも言われたし
一条はたまに傷ついたような眼で、陽を見てくるが強引に近づいては来ないし
きっと賛に気を遣っているのだろう
ふと真顔になり浮かんできた考えに頭を振る
いつの間に自分はこんなに卑屈で、嫌な人間になっていたのだろう
そもそも一条は手の届かない存在だったのだ。自分には苦痛もあったが眩いくらいの幸せな時間を与えてくれた
もういいんじゃないだろうか
手放さないと、皆んなが不幸になる
自分が飲み込めばいいのだ
「その…一条の匂いも薄くなってるし…アルファのにおいがないのは危ないだろう?」
「………ちょっとだけなら」
陽の言葉にがばっと比嘉が顔を上げて、アイスコーヒーを啜る陽に抱きついてくる
匂いを染みつかせるように、幸せそうに笑う比嘉に胸がしくしく傷んだ
「ありがとう、嬉しい、ありがとう、ありがとう」
比嘉の言葉に目を瞑る
まだ抱き返す事は未だ出来ないけれど、いつか出来る日がくるのだろうか
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