堕ちて逝った塊

佐野絹子

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俺とアルは
秀一がいなくなってから
会話はなく
無言のままだ

借りてきた猫の様に
大人しいアルに
俺はこちらのアルの方が
気まずさを覚えた

「お待たせしました、持って来ましたよ」

秀一の右手には
トレイがあり 
トレイには5つの
ティーカップがあった

トレイごと
アルの前の
テーブルに置かれた

「どうぞ、好きなのを選んで
飲んで下さい」

秀一がアルに
飲み物を勧めると
アルは秀一を
ちらりと見た

「毒等は入っていませんので、ご安心を」

秀一はアルに微笑む

アルは5つの
ティーカップの内の
1つを手に取り
口につけて
1口飲んだ

それを見届けると
秀一は元いたソファーに戻った

秀一はアルを見詰めた

「アルくん、話しは戻りますが
何か話しでも
あるのではないのですか?
わざわざ太郎さんの部屋を
訪れるぐらいですから」

秀一はアルに問うと
アルは何かを
言うか言わないか
迷っている素振りを見せた

アルは深呼吸した後
心に決めたように
ゆっくり口を開いた

「僕、ここに前に
来た事があるんだ」

「「!?」」

アルの信じられない
驚愕の告白に
俺と秀一は驚いた
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