堕ちて逝った塊

佐野絹子

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俺の身体を誰かに
優しく抱きしめられた

「申し訳ありません……
太郎さんを、怖がらせてしまいました……」

声をかけてきたのは秀一

「秀一…」

小声で答えた後
恐る恐る秀一の顔を見ると
そこにはいつもの秀一がいた

「太郎さんは可愛いですね」

秀一は俺の頭を優しく撫でる

「僕は太郎さんの
思いやりがあり
正義感がある所を尊敬してますよ」

そう言うと秀一は
懐からペンダントを出した

「これを太郎さんに託します」

秀一は俺の手を取り
ペンダントを握らせた

「え?託すって?」

秀一は何かを指差した

秀一が指差した方に
目を向けると
そこには
巨大なモニターがあった
モニターには

【1人だけのみ生存可能】

と表示されている

「さよならです、太郎さん!!
弟と妹をお願いします」

秀一は
自身の首輪を
激しく動かした

秀一の首輪が
異様な音を立てた

首輪は爆発した

秀一の身体と首は
血飛沫を上げて
分離をした  

静かに倒れ込む
秀一の身体

俺は声を上げずに
ただ……ただ
大量の涙を流した
━━━━━━━━━━━━━━━
いつまでも
こんな所には
いられない

俺は重い身体を
立ち上がらせた

鉛のように
身体が重い

巨大な扉の前に俺は立つと
扉はゆっくりと開いた

扉の奥に
足を進めた
━━━━━━━━━━━━━━━

俺は今

コンクリートの
トンネルを進んでいる

方向感覚が狂うほど
長い長いトンネルだ

俺は死ぬまで
このトンネルを
歩き進むのだろうか……

このまま
死ぬのか……
音もなく  
コンクリートの
トンネルのここで
俺は独りで死ぬのか………



それでも……  



それでも俺は
足の歩みを止めなかった
止めれなかった

秀一に託された
この想いを果たすんだ


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