異世界からの送り者

-*017*-

文字の大きさ
10 / 31
1章-エルファッタの想いは伝わらない-

007

しおりを挟む
 書斎につき、入る前に執事を呼ぶ。
「おい、人を近づかせるな」
 皇帝が命じる。アルファスは暗い顔をして、冷や汗をかいていた。
 そして書斎に入って行った。
「……アルファス、もう一度聞く。何を言った」
 こうやって何回も聞くのは、本人から自白した内容を皇帝皇后両陛下が聞くためだ。
「……エルファッタが憎かったんです。だからっ…!」
 そこまで言ってはっとする。自分自身も驚いた。言おうと思っていた言葉と違っていた。
「ほう…?」
 レイナの蔑む視線が痛い。小さい頃も、いい年になっても、泣きそうになる程怖い。
「アルファス」
 レイナの言葉は重い。
 今は言うタイミングではないが、アオイが呟いた。
「皇帝皇后両陛下は早く、いなくなれば……」
 そこまで言ってはっと気がつく。
「転移者殿……何を言っておられるのだ」
 レイナとエルカードの厳しい目線がアオイにも向けられる。
 思わず呟いてしまった。だが、もう遅い。
「アルファスよ、このを教育しろと我は言ったはずだ」
 さらに厳しくなる。アオイは顔を青くしていた。
「教育しましたが、私の監視不足です」
 今よりももっと頭を深く下げる。レイナは何とも思わなかった。無様だなと、愚かだなとエルカードは思う。
 レイナはにこりと心のこもっていなさそうな笑顔を作り、扇を口を隠すように覆う。
「まぁ良い。そなたの継承権は第二皇子に受け継がれるのだからな。代わりはいくらでもいる」
 それが心に刺さり、じくじくと痛んで、血を出していた。

 もう、終わりだと最悪の場合まで想像してしまった。

------
「ぐすっ……お兄様、ありがとうございます」
 いつの間にか泣き止んでいた。鼻と目元を赤くしている。
「いや、俺は聞いただけだから」
 優しい目でエルファッタを見ていた。頭を撫でようとし、手を止める。その手を握りしめた。掌に爪が食い込むほどに。
 エリファは思った。エルファッタはもう赤ん坊、子供ではない。それに俺もエルファッタもいい大人だ。子供と同じに扱ってはいけないと。

 エルファッタの肩にイロハの手がちょんちょんと当たる。エルファッタがイロハの方を見ると、イロハの指は時計を指し、「時間です」と言った。もうすぐ時間だと言うことを教えてくれた。エルファッタはわかったと言うことを伝えるためにこくりと頷く。
 エルファッタはエリファの方を向く。
「お兄様、時間なのでこれでお暇させていただきますわ」
 エルファッタはにっこり笑った。さっきまでの自分を殺す。もう完璧な淑女になっていた。
「ああ」
 そのことに悲しみながら頷く。
 エルファッタは淑女の礼カーテシーをして去る。
「イロハ行くわよ」
「はい、かしこまりました」
 イロハと呼ばれるメイドはエリファをチラッと少し見てエルファッタに視線を戻す。そして、二人とも部屋から出て行った。失礼だが、エルファッタの友達だから許す。イロハは何が言いたかったのかわからない。もしかしたら軽蔑していたのかもしれない。
 エリファは名残惜しそうにいつまでもエルファッタが出て行ったドアを見つめていた。
 エルファッタ、と口の中で呟く。過去の記憶に思いを馳せながら。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...