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一
しおりを挟む「お前を断罪する」
その言葉に、衝撃が全身を駆けぬけた。
零れ落ちそうな程に瞳を見開き、そして俯く。
唐突に、思い出した。
ファウスティーナは震えそうになる身体を必死に抑え、深く、深く俯く。
それでも小さな震えは誤魔化せない。
だけどそれは構わない。
周囲は怯え、戸惑い、絶望に震えてると捉えるだろう。
だってここは断罪の場。
そして____断罪されているのは、私。
断罪の瞬間に記憶を取り戻すなど、えらく使いまわされた展開だ。
果たしてこれはよくある乙女ゲームや小説の悪役転生とかいうものだろうか?
俯いたままファウスティーナは考える。
だが乙女ゲームも転生者モノにも詳しくないファウスティーナにはわからなかった。
そしてもっというなら別に自分は攻略者っぽい相手の婚約者の悪役令嬢などでもない。
だってそもそも、婚約者いないし。
そもそもつらつら述べられてる断罪の内容、覚えのない罪状ばっかだしね。
「選ばせてやろう」
玉座に肩肘を突いて座った男がそう言う。
この国の皇帝で、
そしてファウスティーナの兄である男だ。
「一つ、レスティアの国へと嫁ぎ、皇族に生まれた義務を果たすか。
一つ、皇族の籍を抜け、この国から追放されるか」
レスティアの王は五十を目前としたデブでハゲの女好き、側室の数はとてものこと片手じゃきかない。
ただ国としては大きく資源も豊か。一方我が国は兄や正妃の浪費がたたり国庫は傾いている。
つまりは便利なサイフを手に入れるべく二回り以上離れた男の愛妾になれってことですね。
皇族・貴族、碌に世間を知らない小娘にいきなり家を出ろ、むしろ国を出ていけっていうのは世間一般的には事実上の死刑宣告だ。それも身分ある者として尊厳ある死ですらなく無様に朽ち果てろという意味。
出来るわけがないと、選べるわけがないと知っていてこの兄はそう言っている。
楽し気に紡がれた声が途切れ、もったいぶった間が落ちた。
「だが、お前も私の妹」
妹だって思ってたんだ?
私は今後一切あんたを兄と思う気はないけど。
「寛大にも慈悲をやろう。お前が今までの過ちを認め、罪を謝罪し、今後大人しく言うことを聞くというならお前を赦してやろうではないかファウスティーナ」
てめぇは一体何様だ?!
いや、身分は皇帝様だけど。と一人脳内突っ込みを果たしながらファウスティーナは在りもしない罪をでっち上げた元兄へ向かってにっこりと微笑んだ。
それはもう麗しく。
最上級の笑顔をもって。
選ばせてくれて有難う。
人生で初めて目の前の存在に向けて感謝を抱いて、ファウスティーナは告げた。
「今日この場を限りに私は皇族の籍を抜け、この国を出ますわ。
今この時より、私はただのファウスティーナにございます」
表情筋と腹筋にあらん限りの力を籠める。
だって無理。
奴らのあの表情。
目も口も真ん丸に開いた間抜け面に今にも爆笑しそうだもの。
ぷるぷる震えながらも笑みを造って、とびきり綺麗に微笑んで。
そうしてファウスティーナはその場を去った。
もう二度と、振り向きはしない。
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