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六
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ファウスティーナは急いでいた。
呆けたままの一同を残し、向かう先は自分の自室。
(奴らがポカンとしてる今の内に金目のモンだけもってとっととここからおさらばしなきゃ!!!)
今更引き留められたりいちゃもんつけられたりしたらたまったもんじゃない。
その一心で宝石箱や机を漁る。
そんな火事場泥棒みたいな所業をしている時に慌ただしく部屋の扉が開かれた。
釈明しておくが…換金性を顧みて厳選中のそれらの品はファウスティーナの持ち物だ。
母の形見だったり、誕生日などに贈られた物だったり。
なのでドロボーじゃないわ!
そんな言い訳を心の中でしつつ、思ったより早かったわねと扉の方を睨みかけると……そこに居たのは面倒な連中(兄他諸々)ではなくて可愛い異母弟だった。
慌てた様子で駆け寄ってくる幼い異母弟。
「…ファウスティーナ様っ!!」
名を呼んでファウスティーナを見上げてくる異母弟は涙目だ。
その瞳に光るモノを見て、初めてファウスティーナの心がつきりと痛んだ。
「セドリック。ごめんなさい。私はここを出て行くわ」
幼い彼に視線を合わせるべくしゃがみ込んでそう告げれば、大きな瞳が揺れた。
それでも………。
賢く、優しいセドリックは「行かないで」とは言わなかった。
「あなたを置いていく私をどうか許して。ううん、許さなくていい。
だけどどうか…いつかあなたも、倖せになって」
(本当は一緒に連れて行ってあげたいけど…でもセドリックはお母様も居るし、第一私と一緒に連れてく方が危ない目にもあうだろうしな…)
「そうだ、これを」
宝石箱の底をあげてその下から紐に繋がれた小さな鍵を取り出してセドリックの手に握らせる。
「これは?」
「幼い頃に私と私のお母様が捨て置かれていた離宮の鍵よ。お兄様の目につかない場所だから隠れ家につかうといいわ」
あの現皇帝は元踊り子である女性から生まれた異母弟を卑しい身の上と疎んでいる。
自分や私のことを「兄」や「姉」と呼ばせないのがいい例だ。
だが疎み遠ざけているぐらいで丁度いい。
もしセドリックが私たちの母のように高貴な血を引く貴族の子だったら、それこそ自分の立場を危ぶませる存在となりうる異母弟を排除していたかも知れない。
その身に流れる庶民の血と幼さこそが今のセドリックを守っているのだ。
それにねちっこい正妃は同性の私には嫉妬からか嫌がらせをしてくるけどセドリックに興味はないし。
……イケメンに成長後は別の意味で狙われそうではあるけど。
現皇帝たちは目の前5センチぐらいしか見えてない能無しだから離れていれば害は無い。
ちょっと不便だけど、害虫共がのさばる此処よりも離宮の方がずっと平穏に暮らせる筈だ。
そして名案を思い付いたとばかりに私付きの侍女や護衛へと向き直る。
「あなたたち、どうか私でなく今後はこの子についててあげて」
眉を下げて、うるっと見上げて。
秘儀、真摯なお願い!!
(お供します!!っていってくれる忠誠は嬉しいんだけどねー。
皆、家族もいるのにいきなり国外出るのも厳しいだろうし、何より私は一人でまったり生活を送りたいの!!
あ、でも皆もいずれはこんな国出た方がいーんじゃない?あの能無し共がトップじゃ未来なんてないし)
そんな本心を隠しつつこの国で数少ない信用のおける彼ら彼女らに可愛い異母弟を託し、ファウスティーナは金目のモノを手にとっととその場を後にした。
応援ありがとうございます!
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