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二十

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その頃、迷宮の外では…
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・


ぎらついた、怒りと憎悪を宿した瞳に「どうして」と思う。


向けられるのは、そんな瞳でなかった筈なのに…。
あの子さえ居なくなれば、彼が手に入ると思ったのに。

そう心の中で呟きながら、神子は虚ろな目を騎士団長へと向けた。

だらりと垂れた腕へ。
もう二度と、剣を握ることの適わない傷を負った利き腕へと。



「結界の修復はまだですか?」


厳しい色を孕んだ宰相の問い掛けに神子は唇を噛んで俯いたまま小さく首を横へ振る。

突き刺さる沢山の視線が痛い。
舌打ちが聞こえた。

「何をしてるの?役目を果したらどう?
貴女の所為で賊の侵入が後を絶たないし、結界が機能していたころは流行り病だって防げていた筈!!
民の暴動だって貴女の所為よ?!
騎士団長が愚かな民に怪我を負わされたのもそうっ!!」

責め立てる正妃の声に反射的に睨みつけるも、彼女の声に同意するようにこちらを睨みつける騎士団長の瞳に固まる。


「…っ」

「何か言ったらどうなの?」

嘲るような正妃の声に、苛立ちが胸を焼く。

「正妃様こそ…。
 我が国に支援を行っていた近隣国の大使をひどくご立腹させたと、伺いました。
 支援も…打ち切られるかもしれないそうですね?」

挑発的な笑みを湛えて告げれば、正妃の瞳が吊り上がった。

「あれは私の所為じゃないわっ!!」

「そうなのですか?宰相様?」

「………」

神子が宰相へ問いかければ、宰相は何も答えない。
だが、その瞳が正妃へ不満を湛えているのは一目瞭然だった。

宰相の冷めた眼に気づいた正妃はヒステリックに宰相へと指を突きつける。

「だいたいっ、元はといえば宰相が悪いのじゃない!!
あんな弱小国に足元を見られてばかりで、少しも我が国に有利な条件を引き出せない無能な貴方の責任よ。
だから私が少しでも有利な条件を引き出してあげようとしただけよ!!!」

「その結果が…あの色仕掛けですか……?」

「あら、正妃様の色仕掛けは通用致しませんでしたのね」

「…っこのっ!!」

無能と詰られた宰相が押し殺した声を零し、神子が楽し気にクスクスと笑い、それに正妃が顔を真っ赤に染めて言い返そうとしたとき。


「黙れっっ!!!」


皇帝の怒鳴り声が響いた。

「そのようなくだらない言い合いはどうでもいいっ!!」

玉座に腰かけた皇帝は、一回り小さく見えた。

激務と心労、肉体的な疲労で頬はこけ、顔色は悪く。
なにより何一つ思い通りにいかない現状にかつてあった無根拠な自信が薄れ、皇帝を小さく見せていた。

「神子は早く結界を復旧せよ!!
宰相は国をまわし、正妃は己の不始末の穴埋めをせよ!!
騎士団は誰が回すのだ?!即刻、愚民どもの対応を練るか新たな後続を立てるなどせよっ!!

早くっ、早く!!
一刻も早く全て元通りにするのだっ!!!!」


肘掛けに拳を叩きつけ、唾を飛ばす。



「ファウスティーナを連れ戻せっ!!!」



もはや、それしか 全てを元通りにする方法は見つからなかった。


誰もが待っていた。
ファウスティーナ彼女の帰還を。



壊したモノを元通りにする方法などありはしないのに。




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