ブラック・スワン  ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~ 

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お兄様の域にはまだまだ遠いですわ 3

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(ベアトリクス視点)



「確かにガーネスト様は素敵ですけど、カイザー様は『無能』でらっしゃるのでしょう?」

 掛けられた声に思わず瞳が尖るのがわかります。

 視線の先には数人のご令嬢。

「お姿は素敵ですけど」

「公爵家はガーネスト様がお継ぎになるとか」

 クスクスと嫌な笑いを漏らすご令嬢たちに周りの空気がピリピリと張りつめます。

「ちょっと、貴女たち」

 瞳を怒らせて彼女たちに向かって行こうとしたダイアナ様を慌てて押し止めました。
 固く握り締められたその拳を如何どうなさるおつもりだったのかは聞かずにいようと思います。
 気持ちだけなら私も同類なので。

「私のお兄様に何か文句が御座いますの?」

 小首を傾げて問いかけます。

 苛立ちは感じるものの、こんな時こそ落ち着いて対応しなければ。
 私はあのカイザーお兄様の妹なのですから。お兄様の優雅さを見習おうと思うものの、若干声が低くなるのは抑えきれませんでした。
 まだまだ修行が必要ですわね。

「別に、文句だなんて…」

 此方こちらが冷静に返したことに怯んだのか言葉を濁す令嬢たち。

 当たり前です。だって立場は此方こちらの方が圧倒的に高いのですから。
 公爵家の嫡男を侮辱するなど本来ならゆるされる行動ではありません。

「ただ私たちは事実を口にしただけですわ」

「そうですの。てっきり我が公爵家を侮辱する意図がおありかと勘違いしてしまいましたわ。失礼致しました。ですが、もし仰りたいことがおありでしたらその時はいつでもお伺いしますわ」

 にっこりと綺麗に笑います。
 自分が出来る最大限の笑顔で。

「そんな……私たちは…」

「それと」

 慌て出した令嬢たちを真っすぐに見据え言葉を紡ぎます。

「きっとカイザーお兄様には異能など必要ないのですわ。だって、そんなモノがなくともお兄様は完璧ですもの」

 それはただの真実。
 強がりでも何でもなく、私のお兄様は完璧ですもの。

 こそこそと逃げ去っていく令嬢たちを尻目に、勝気なダイアナ様たちと思わずしてやったりな笑みを浮かべてしまったのは仕方のないことですわ。

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