ブラック・スワン  ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~ 

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足を向けては寝られない 2

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 手を上げてくれた時点でちょっと渋りはしたんだよ?
 リフの妹さんの嫁ぎ先は知ってたし。
 きっとそこの従業員をあたってくれるんだろうなーって予想はついてたし、迷惑をかけるのは気が引けた。

 だけど同時にリフの人選なら確かという確信もあって…。
 俺が甘い誘惑に負けた結果。

 従業員どころか大商店の次男坊が店長へと決定してしまったっ!
 妹さんは店員さんとして今も表で接客して下さってます。他の店員さんも商店の伝手です。

 ああ……。
 本当は迷惑掛けたくないとかいいつつ滅茶苦茶お世話になってます。

 いや、ほらさ?俺、本来なら公爵家の跡取りじゃん?
 なのに俺の我儘で爵位を弟に譲る件でただでさえリフに貧乏くじ引かせた後ろめたさがあるわけですよ。

 リフは下級貴族ながらめっちゃ優秀で、しかもあの異能だからもっと出世の道があるし。

 跡継ぎのお兄さんも他の家族もすげぇいい人達だから俺に文句いうどころか良くしてくれるんだけどさ。この上、商会にお嫁入りした妹さんとその旦那様たちにまで仕事押し付けるとか……。

 でも、実際超頼もしいです。だって絶対優秀だし。

「マカロンもショコラもとても可愛らしく美しいので自分用にも贈答用にも人気が出ること間違いなしです。しかもあの包装。美しいだけでなく包装を解いた後もチャームとして使えたり、栞にもなるメッセージカードの発想は素晴らしいです」

 流石に商人。
 商品の話になった途端、穏やかな語り口が急に熱が入った。

「もっと華やかなアクセサリー的なものも考えたのだけどね。妹や友人の話を聞いて小振りの装飾品にすることに決めたんだ」

「ベアトリクス様のですか?」

「ああ、妹は学園に通っているだろう?普段や社交の場では華やかなアクセサリーを身に着けられるけど学園ではそうはいかない。身に着ける装飾品でなくとも、鞄やペンケースにつけれるチャームも喜ぶかなと思って」

「成程。素晴らしい眼の付け所ですね。盲点でした……」

 顎に手を当て、そのまま実家の商売にも活かすことが出来ないかと即座に検討を始める姿は流石に生粋の商家の生まれだ。商機は逃さない。

「学園で身に着ける者が出れば、一気に話題が広がるでしょう。販売数を検討した方がいいかも知れませんね。君、ちょっと仕入れ表を持ってきてくれ」

 切り替えの早さも流石。すぐに『リリアーナ』の話に戻ったアランは通りがかったお姉さん(店員)に声を掛ける。それに即座に応えてくれたお姉さんが持ってきてくれた一覧を覗きこみつつリフといっしょにああだ、こうだ。

 ごめん。俺、オーナーなのに一番話についていけてない。

 あ、違った。
 一番はアドバイザーという名誉職的なポジションのリリアだった。俺二番目。

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