ブラック・スワン  ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~ 

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誓いは変わらずこの胸に 2

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(リフ視点)


 妬み?僻み?羨む?絶望する?

 まだ自分の異能をカイザー様に告げていなかった私はそれでも尚、かつて思ったそれらがカイザー様の心に芽生えることがないのを知った。

 カイザー様は始めから他人と自分を比べてなんていない。
 あの方が見ているのはいつだって自分自身だ。

 思い知らされると共に、私は初めて自分を恥じた。
 愚かにも哀れみを抱いた自身を。
 傲慢な諦観ていかんに彩られた己を。


「暫くは絶対に安静になさって下さい。鍛錬は禁止です」

「でも……」

「カイザー様?」

 反論をしようとするカイザー様を強く名を呼ぶことで制止する。
 本人も分が悪いことはわかっておられるのだろう、名残惜しそうに視線を彷徨わせ「わかった」と小さく頷いた。
 だけどすぐに「いつまで?」と問いかけられる。期間を巡って攻防を繰り広げること暫し。

 私は包帯の残りを手早く救急箱へと戻した。
 微かに鼻につく薬の匂い。
 ベッドの上に腰かけたカイザー様の右手は真っ白な包帯に包まれていた。

 アインハード様との鍛錬の途中。
 激しい斬撃を捌いていたカイザー様が突如、剣を取り落とされた。

 たたらを踏む躰と迫る白刃。

 思うよりも早く躰が動き、カイザー様の前に飛び出した私の肩越しに白刃は止まった。慌てて歯止めをかけたものの間に合わないと思われた斬撃の急な停止に、向き合ったアインハード様も背に庇ったカイザー様も酷く驚いておられた。

 あの時、私の中には確かな誇らしさと自信があった____。

「仕方ない、暫くは勉学と仕事に力を入れるよ。でも早く治さなくては。闘技会はもうすぐなのだから」

 包帯が巻かれた自分の手を見下ろし憂い気に溜息を吐かれるカイザー様。

「今回は出場を見合わせるという手もあるのではないですか?まだ一年生でらっしゃるのですし」

「いや、自分で決めた目標だからね」

 闘技会は学園で行われるイベントだ。
 各学年ごとでなく、一年から三年全ての学年の出場希望者によってトーナメント制で行われる。そうはいっても、実際出場するのは将来騎士を目指す生徒ばかりで。それにもかかわらずカイザー様は出場を決意された。
 12歳から14歳というのは年齢によって体格差も大きく、ましては相手は本職で騎士になろうという生徒たち。カイザー様はここ最近常の鍛錬よりも一層の力を入れてらした。

 その結果が_____。

 手の怪我は、疲労骨折だった。
 強い一撃を受けたわけでもなく、度重なる無理が祟った怪我。

「何故そこまでなさるのですか?」

 それは、ずっと抱いていた疑問だった。
 勉学も、鍛錬も、仕事も…。

 まるで自分を追いつめるように無理をする主の姿。
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