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第22話 日輪

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 3階まで降りてきた。おかしいな。この階は普通のオフィスだったと思うんだけど、人気ひとけがなくて静まりかえっている。

「さぁ、坊っちゃん嬢ちゃん。大人しくワシらに投降してくれや。こんだけの兵隊相手、さすがに勝てる気ぃせんやろ?」

 と、思った矢先に何か現れたんだけど。ハゲでちょび髭という何だか癇に障る見た目だな。
 それに、後ろにゾロゾロとスーツ姿の兵隊を連れている。

「確かにそんだけいたら勝てないかもね」
「そうやろ、そんならそっちの嬢ちゃん、はよ寄越しや」

 おれはオリフィスさんをゆっくりと床に降ろした。

「リンちゃん、オリフィスさんのこと見ててくれる?」
「うん……」

 そして階段を強く蹴って、つるっパゲの目の前まで高速移動で距離を詰めた。

「んなわけあるか。どれだけ修行してきたと思ってんだ」

 おれはハゲの顔面を掴んで後頭部から地面に叩きつけた。ハゲ幹部はおれの動きに何一つ反応できていなかった。

「お、お前ら、ぶち殺せえぇ!」

 ハゲは倒れた状態で大声で号令をかけた。それを聞いた複数の部下たちがおれに襲いかかってくる。

「見てるか雷々らいらい、お前が貸してくれた力、ちゃんと人助けに使ってるからな」

 おれは雷を両拳に纏い、敵を迎え撃つ。四方八方から襲いかかってくる敵の攻撃をかわしながら、次々と敵を殴っていった。
 そしておれに殴られた敵は、その殴られた部位に雷が蓄積されていく。

「新技、時限雷弾じげんらいだん

 おれが念じたタイミングで、蓄積させていた雷が爆発するように放電し、くらった敵は倒れていった。

「な、ナニモンやお前……」
「自警団フィスト所属、エレナ・アリグナク12歳。以後、お見知り置きを」

 おれはニヤリと笑って、いつのまにか起き上がっていたさっきのハゲをフルパワーで殴り飛ばした。
 残りの兵隊たちも加護を混じえて難なく倒すことができた。

「リンちゃんありがとう。もう少しだから頑張って着いてきてね」

 再びオリフィスさんを担ごうとしていたら、リンちゃんが何か言っているのが聞こえた。

「う……うし……!」
「ん? 牛……?」

 背中に何かが飛んできた。見えてはなかったけど、それが何かはなんとなくわかった。
 ……ナイフだ。おもっきし刺さってる。

 タチの悪いことに、背中だから自分で見えないんだなこれが。
 それに、刃物が刺さったのなんて初めてだから、どうしていいのかわからない。

 っていうか痛みはないけど、背中が熱くて血が垂れてきて、何かよくわからないけど脚が震えてきた。

「ガキが……調子乗っとるから……こうなるんや……」

 あのハゲか……くそ、意外とタフだなあいつ。でもホント、調子に乗りすぎたかな……。

 倒れちゃいけないという義務感で意識は保っているけど、それ以上に体が言うことを聞いてくれない。

「動け……おれの体……。頼むから動いてくれ……!」

 ハゲが倒れている仲間からナイフを取り、またしてもおれに向かって投げてきた。
 顔面に飛んできたが、おれは咄嗟に両腕でガードしたため、刺さったのは左腕だった。

 刺さった瞬間は痛くないのに、刺さっているその光景を見ると急に痛みを感じてきた。
 おれはその場で悶え苦しんだ。

「痛いやろなぁ、可哀想に。さっさとその娘を渡せばこんなことにならんかったのになぁ」

 鉄パイプを拾って近づいてくるハゲ。

「リンちゃん……逃げるんだ」

 リンちゃんは横に首を振った。急にそんなこと言われたって難しいよな。

「くたばれガキがぁ!!」

 おれは何度も何度も鉄パイプで顔や体を殴られた。
 ただただ歯を食いしばって、気合いで意識を保っているが、もう限界が来そうだった。

「死ねぇぇ!!」

 ハゲは怒りに任せて大きく鉄パイプを振りかぶった。

 ────これでお終いか。

 目をつぶって死を覚悟した次の瞬間、軽快に階段を駆け上がる音が聞こえた。

「ぐわぁ!!」

 打撃音とハゲのやられる声が聞こえて目を開けると、まさかのなっちゃんがやってきて、ヤツの顔面に躍動感のある前蹴りを食らわせていた。

「間一髪───っ!!」

 ハゲは失神して倒れていった。

「エレナ大丈夫!?」

 慌てて駆け寄ってくれるなっちゃん。そんななっちゃんから見たおれたちの姿は……

 ボロボロになって倒れているオリフィスさん。同じくボロボロになって倒れそうなおれ。怯えて顔色が悪いリンちゃん。

 ……うん、気が重くなるわ。

 こんな3人を見て慌てふためくなっちゃん。

「どどどどうしよ、みんなこんな怪我してるなんて思いもしなかったよ! 落ち着け私、こういう時こそ冷静な判断を……! とりあえず私が3人とも担いで……」

 考えが全くもって冷静じゃない。
 いや、あまりにおバカすぎて本当に出来るんじゃないかと思ってしまいそうだった。

「とりあえずさ、おれがオリフィスさんを連れて行くから、なっちゃんはリンちゃんを連れて一刻も早くここを出てよ」
「わかった。でも、ホントに大丈夫なの? 出血酷くて顔色悪いよ?」
「大丈夫。まだ動けるからさ」

 強がってみた反面、なっちゃんが現れて元気が出てきた部分もある。
 その証拠に、さっきは動かなかった体が動くようになった。

 本人には恥ずかしくて言えないけど、相変わらず太陽みたいな存在で、いつも元気を貰える。

「じゃあ、先に行ってるね」

 なっちゃんはリンちゃんを連れて颯爽と階段を降りていった。これで任務完了だ……。

「ぐっ……!」

 強がってはみたものの、刺さっているナイフ、特に背中に激痛が走った。
 一歩一歩、歩くたびに激痛が走るけど、それでも根性で階段を降りていった。

 1階まで辿り着き、ビルの玄関が見えると同時に、なっちゃんが再び入ってくる姿が見えた。
 根性も途絶え、力が抜けて倒れ込みそうなおれとオリフィスさんを、正面から抱きしめて支えてくれた。

「やっぱり強がってたんじゃないの……。早く帰ろ?」

 意識を失う間際、なっちゃんに続いて軍の兵士たちが入ってくるのが見えた。
 安心感に包まれながら、おれは目を閉じていった。
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