33 / 52
第33話 思い出
しおりを挟む
───行きの電車の中。なっちゃんとおれは、向かい合わせに座っていた。
サンドイッチを食べながら外の景色を眺めるなっちゃん。寝起きだからなのか、考え事をしているのか、少し表情が暗かった。
「──ねぇエレナ」
沈黙している中、先に口を開いたのはなっちゃんの方だった。
「………お腹減った」
思わず壁に頭をぶつけてしまった。
「今食ったじゃんか!」
「いや~美味しかったけど、もうちょっと食べたいなぁなんて」
「どんだけ食うんだよ。……お昼の弁当、先に食べとく?」
「食べる!」
自分で言うのもなんだけど、おれたち若者はとにかく食べ盛りで、いつも大盛りやおかわりが当たり前になっていた。
朝から昼食を食べるなんておかしな光景だけど、美味しそうに食べてくれるのがおれは嬉しかった。自分の手作りだからね。
「エレナはさ、脚の調子はどうなの? もう痛くなくなった?」
「んー、痛みはなくなったかな。普通に生活する分には問題ないけど、無理したらまた悪くなりそう」
とは言いつつも、本当は無理して修行したいんだなこれが。
「完治したら修行とか手伝うよ。体、鈍ってるでしょ」
「ありがと。絶対動けないと思うから、そんときはお願いするよ」
窓から見える景色が、気がつくと山ばかりに変わっていた。こんなに速い速度でマルセイドに行けるなんて、便利な世の中になったもんだ。
◇
『マルセイド、マルセイドに到着です』
駅員さんのアナウンスを確認し、おれたちは電車を降りた。凝り固まった体を伸ばしてから駅の中を歩き、既に浮かれ気分で改札を出た。
「おおー! すげぇ!」
駅は街の外にあった。改札を出た正面に、ちょうど街の門が見えた。
「これ、何門だっけ?」
「こっちは西門……のはず。門まで新しくなってて全然わかんないね」
今までは工事現場特有の足場とか囲いみたいなので中がまったく見えなくて、お墓までの仮設通路しか通れなかった。それが今、全て解放されて、生まれ変わったマルセイドの街を目の当たりにした。
「めっちゃ変わってる……」
「ほんと、別の街みたい……」
門の中に入ると、建物やアスファルト、木々や匂い、全てが新しく生まれ変わっていた。
「あれ、でもさ、よく見たら建物の配置とかは昔のまんまだったりする?」
楽しそうに歩くなっちゃんに言われて、改めて辺りを見ると、確かにそんな気がしてきた。完全再現とまではいかないけど、ある程度の道や建物の建っている位置は、きっと昔を再現されて設計してあるんだろう。
────そしてこの西門を挟んで外と内側は、両親が死んだところだから、新しくなったこの風景からでも、当時の情景を思い出してしまう。
「どうしたの? 急にボーッとして」
思わず立ち尽くしてしまっていた。
「あ、ごめんごめん。実はさ───」
なっちゃんに当時、この場所で起きた出来事を話した。少し涙目になりながら、おれの話を優しく聞いてくれた。
「そうだったんだ……」
するとなっちゃんは、手を合わせて目を瞑り、しばらく沈黙していた。
「なにしてんの?」
「エレナのお父さんとお母さんに、『ゆっくり休んでね』って。それから、『エレナのことは私が面倒見てますから安心してね』ってお祈りをしたの」
「なんだよそれ、どっちかというとおれの方がなっちゃんの面倒見てるっての」
「まぁいいじゃないか少年、次は私の思い出の地に行くよ!」
笑いながら首に手を回しておれのことを引っ張るなっちゃん。こんな時に思うことじゃないけど、ちょっと発育した胸が柔らかくて、いい匂いがして胸の鼓動が早まってしまった。
◇
「ここは?」
「私がお父さんとお別れしたところ」
やってきた場所は、さっきの西門からは遠く離れたところで、今は空き店舗が建てられていた。
「前にさ、私のおうちのこと話したことあったよね?」
孤児院に入りたての頃、まだおれたちの心の傷が何も癒えていないあの頃に、なっちゃんと泣きながらお互いの経緯を話したのを覚えている。
なっちゃんのところは物心つく前に親が離婚をしていて、お父さん1人でなっちゃんのことを育ててくれたらしい。
その実家は八百屋さんをやっていて、なっちゃんは学校に行きながらお店の手伝いもしてたとか。
「昔はお父さんのお店を継ぐなんて考えてたけど、今となってはもう叶わないな……」
そのお父さんも、赤い空の日になっちゃんを庇って亡くなったそう。一緒になって戦ってくれたご近所さんも守ってくれたんだとか……。
「はい! しんみりした空気終わり! あとはさ、街の中いろいろ回ってからお墓参り行こうよ!」
急に手を叩いてなっちゃんはそう言った。無理してるのか本当に強いのか、心の中まではわからないけど、相変わらずムードメーカーだと思った。
そこからは楽しみながら街を散策し、他にも訪れてきた人や、既に引っ越しをしに来ている人たちなど、偶然出会った人たちとの交流もできた。
学校の同級生にも再会出来て、皆んなが皆んな居なくなってるわけじゃないと実感したら、今までの孤独も少しだけ払うことができた気がした。
「あぁ~疲れたぁ」
「ほら、お墓参り行くよ」
「ちょっと休ませて~」
「あんまり遅くなると電車の時間がなくなるんだよ」
今度はおれがなっちゃんを引きずりながら、墓地を目指して歩き始めた。
サンドイッチを食べながら外の景色を眺めるなっちゃん。寝起きだからなのか、考え事をしているのか、少し表情が暗かった。
「──ねぇエレナ」
沈黙している中、先に口を開いたのはなっちゃんの方だった。
「………お腹減った」
思わず壁に頭をぶつけてしまった。
「今食ったじゃんか!」
「いや~美味しかったけど、もうちょっと食べたいなぁなんて」
「どんだけ食うんだよ。……お昼の弁当、先に食べとく?」
「食べる!」
自分で言うのもなんだけど、おれたち若者はとにかく食べ盛りで、いつも大盛りやおかわりが当たり前になっていた。
朝から昼食を食べるなんておかしな光景だけど、美味しそうに食べてくれるのがおれは嬉しかった。自分の手作りだからね。
「エレナはさ、脚の調子はどうなの? もう痛くなくなった?」
「んー、痛みはなくなったかな。普通に生活する分には問題ないけど、無理したらまた悪くなりそう」
とは言いつつも、本当は無理して修行したいんだなこれが。
「完治したら修行とか手伝うよ。体、鈍ってるでしょ」
「ありがと。絶対動けないと思うから、そんときはお願いするよ」
窓から見える景色が、気がつくと山ばかりに変わっていた。こんなに速い速度でマルセイドに行けるなんて、便利な世の中になったもんだ。
◇
『マルセイド、マルセイドに到着です』
駅員さんのアナウンスを確認し、おれたちは電車を降りた。凝り固まった体を伸ばしてから駅の中を歩き、既に浮かれ気分で改札を出た。
「おおー! すげぇ!」
駅は街の外にあった。改札を出た正面に、ちょうど街の門が見えた。
「これ、何門だっけ?」
「こっちは西門……のはず。門まで新しくなってて全然わかんないね」
今までは工事現場特有の足場とか囲いみたいなので中がまったく見えなくて、お墓までの仮設通路しか通れなかった。それが今、全て解放されて、生まれ変わったマルセイドの街を目の当たりにした。
「めっちゃ変わってる……」
「ほんと、別の街みたい……」
門の中に入ると、建物やアスファルト、木々や匂い、全てが新しく生まれ変わっていた。
「あれ、でもさ、よく見たら建物の配置とかは昔のまんまだったりする?」
楽しそうに歩くなっちゃんに言われて、改めて辺りを見ると、確かにそんな気がしてきた。完全再現とまではいかないけど、ある程度の道や建物の建っている位置は、きっと昔を再現されて設計してあるんだろう。
────そしてこの西門を挟んで外と内側は、両親が死んだところだから、新しくなったこの風景からでも、当時の情景を思い出してしまう。
「どうしたの? 急にボーッとして」
思わず立ち尽くしてしまっていた。
「あ、ごめんごめん。実はさ───」
なっちゃんに当時、この場所で起きた出来事を話した。少し涙目になりながら、おれの話を優しく聞いてくれた。
「そうだったんだ……」
するとなっちゃんは、手を合わせて目を瞑り、しばらく沈黙していた。
「なにしてんの?」
「エレナのお父さんとお母さんに、『ゆっくり休んでね』って。それから、『エレナのことは私が面倒見てますから安心してね』ってお祈りをしたの」
「なんだよそれ、どっちかというとおれの方がなっちゃんの面倒見てるっての」
「まぁいいじゃないか少年、次は私の思い出の地に行くよ!」
笑いながら首に手を回しておれのことを引っ張るなっちゃん。こんな時に思うことじゃないけど、ちょっと発育した胸が柔らかくて、いい匂いがして胸の鼓動が早まってしまった。
◇
「ここは?」
「私がお父さんとお別れしたところ」
やってきた場所は、さっきの西門からは遠く離れたところで、今は空き店舗が建てられていた。
「前にさ、私のおうちのこと話したことあったよね?」
孤児院に入りたての頃、まだおれたちの心の傷が何も癒えていないあの頃に、なっちゃんと泣きながらお互いの経緯を話したのを覚えている。
なっちゃんのところは物心つく前に親が離婚をしていて、お父さん1人でなっちゃんのことを育ててくれたらしい。
その実家は八百屋さんをやっていて、なっちゃんは学校に行きながらお店の手伝いもしてたとか。
「昔はお父さんのお店を継ぐなんて考えてたけど、今となってはもう叶わないな……」
そのお父さんも、赤い空の日になっちゃんを庇って亡くなったそう。一緒になって戦ってくれたご近所さんも守ってくれたんだとか……。
「はい! しんみりした空気終わり! あとはさ、街の中いろいろ回ってからお墓参り行こうよ!」
急に手を叩いてなっちゃんはそう言った。無理してるのか本当に強いのか、心の中まではわからないけど、相変わらずムードメーカーだと思った。
そこからは楽しみながら街を散策し、他にも訪れてきた人や、既に引っ越しをしに来ている人たちなど、偶然出会った人たちとの交流もできた。
学校の同級生にも再会出来て、皆んなが皆んな居なくなってるわけじゃないと実感したら、今までの孤独も少しだけ払うことができた気がした。
「あぁ~疲れたぁ」
「ほら、お墓参り行くよ」
「ちょっと休ませて~」
「あんまり遅くなると電車の時間がなくなるんだよ」
今度はおれがなっちゃんを引きずりながら、墓地を目指して歩き始めた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
10
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる