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第39話 凶

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 急いで店まで戻ってくると、丁度店から出てきたあいつらの姿が見えた。正直顔はよく見てなかったけど、絶対あいつらだ。おれは建物の陰に隠れながら、尾行を始めた。

 30代か40代くらいの男2人。やつらが渡したのが本当に武器だったら、アールズ商会の人間ってことになる。とりあえずこのまま着いていけば答えが見つかるはずだ。

 通行人に怪しまれないように、標的を見失わないように、そして見つからないように。尾行って神経使うなほんと。

 夢中で追い続けてやってきたのは、港からはかけ離れた場所で、空き家や廃墟が多いエリアだった。そして標的は何件も並ぶ、古びた家のひとつに入っていった。

 ここがやつらのアジトか? さすがにあれは追えないな。とりあえず戻って2人に報告しよう。そう判断して振り返ると、おれは急に誰かに首を掴まれて身動きが取れなくなった。

「お前、何者だ」

 首を締められて苦しい。身体でけぇし力が半端ねぇ。苦しみながら見えたのは、筋肉の塊みたいな大男だった。
 おれはそのまま投げるように身体を押され、強く壁にぶつかった。

「はぁ、はぁ……すげぇ力だ。アンタ、やつらの仲間か?」
「今どきのガキは会話もろくに出来ないようだな。先に聞いたのはこっちのほうだろ?」

 ─────来る!!

 大男はそのガタイのくせに、地面を一蹴りでおれとの間合いを詰めてきた。おれは咄嗟に加護を使い、高速移動でヤツの背後をとった。
 掴まれたらられる。そう感じてしまったからだ。

 避けて安心していたおれだったが、次の瞬間、頭に強い衝撃を受けて意識を失った────。



 ◇



 ────身体中が熱い。その感覚で、おれは目を覚ました。

 椅子に座らされていて、手足が縛られている。捕まったんだな、おれ。同時に、誰かに殴られているのが顔や体の痛みから理解出来た。

「それくらいにしなさい。口を聞ける程度にはしておかないと」

 顔を上げると、頭の悪そうなチンピラ男と落ち着いた見た目の男が同じ部屋にいた。

「おらあぁ!!」

 チンピラの方は、夢中でおれを殴り続けた。しまいには蹴り飛ばされ、椅子ごと転がされた。

「おやおや、いけませんね」
 
 男はチンピラの肩を2回、指先で叩くと、振り向いたその顔を鋭いパンチで殴り飛ばした。

「興奮して脳が溶けているのですか? 人の命令が聞けないならあなたに存在価値はありません」
「す、すみませんボスぅあああ!!!」

 チンピラは右腕をあらぬ方向にへし折られた。惨すぎる……信じらんねえ。
 泣きながらうずくまるチンピラを他所に、ボスと呼ばれる男が歩み寄ってきた。

「君の素性を教えてくれ」

 床に転がるおれを蹴るでもなく起こすでもなく、ただ穏やかな顔をしたままそう言った。

「ただの配達員だよ。この格好見たらわかるだろ」
「そうですか? 君は若さのわりに肝が据わっている。それに、その絞られた体は普通に生きていてなるもんじゃない」

 おれの腕や腹を服の上から触ってくる。気持ち悪いな。

「なんでもいいからここから出してくれよ。拉致して暴力、軍に言いつけたら一発で逮捕だぞ」
「元気のいいことです。それなら質問を変えましょう。君はさっき、なぜあの場所にいたんですか? 部下の報告じゃ、コソコソと覗き見していたそうじゃないですか」

 おれはなんの言い訳もできず、黙り込んでいた。

「黙秘ですか。それとも図星ですか。まぁいいです。また来ますので喋る気になったらそこのガラクタに言ってください。そうすれば解放してあげますので」

 ガラクタって……人間をなんだと思ってるんだ。腕をおられた男は、自力で腕を戻そうとしていた。惨すぎて思わず目を逸らしてしまった。

 さぁ、これからどうしよう。さっきのボス呼ばわりされてたやつはどっか行って、今はチンピラと2人きり。窓がひとつもない、洞窟みたいな部屋……地下室なのかな。

「おいガキ。さっさと洗いざらい話しとけ。ボスに逆らったらタダじゃすまねえぞ」

 さっきの野蛮な様子とは打って変わって、落ち着いて話しかけてきた。

「あんたのボスは、素直に話したら帰してくれると思う?」
「……どうだろうな。ボスの考えはおれなんかにはわかんねぇ」
「そっか。とりあえずこの縄ほどいてくんない? ずっとこの体制できついんだけど」

 チンピラは無視して煙草を吸い始めた。おれ、煙草嫌いなんだよなぁ。それよりこの状況、どうしたものか。とりあえずじっとしてても埒が明かないから、この縄ぶち切って脱出するか。

 おれは両手から雷を発生させ、縄を燃やした。

「て、てめぇ! なにしやがった!」

 チンピラは表情を一変させ、立ち上がった。

「そろそろ帰らないといけないからさ、そこどいてもらえる?」

 相手はすぐさま、折れていないほうの腕で殴りかかってきたが、おれは寸前でかわして腹に一撃くらわせた。綺麗に入ったから相当痛いんじゃない? これ。

「さっきのおかえしだよ!」

 膝を着いて苦しんでいるところに、追い討ちで顔面を蹴り飛ばすと、チンピラは意識を失った。さっさとここから出よう。

 洞窟みたいな部屋を出るも、この景色は変わらない。どこまでいっても地下なんだな。とりあえず通路には誰もいない。出口を探そう。

 突き当たりが分かれ道になっている……。どうせわかんないから右に行ってみよう。そう思って角を曲がると、2人組で歩いている男たちと鉢合わせてしまった。

「あ? さっき捕らえたやつだな、お前」
「脱走したってか。あの野郎、何してやがんだ」

 相手の1人は上着を脱いで、戦う気満々みたいだ。

「お前はボスに報告してきてくれ。こんなガキに負ける気はないが、念の為だ」
「チッ、わかったよ」

 1人は振り返って小走りで行ってしまった。残った方は待った無しで突っ込んできた。

 細い通路を利用して、ダッシュジャンプしてからの壁を蹴って飛び蹴り。おれは避けられなかったので腕でガードするも、蹴りの衝撃で反対側の壁に激突した。身体能力化け物かよ。

 続けて右の拳が迫ってきたが、おれは歯を食いしばって気合いの頭突きで受けてたった。

「全然効かないね、そんなパンチ」

 ……めっちゃ痛い。けど笑ってこらえてやる。殴ってきた敵の右腕を掴み、お返しに顔面を3発殴って、腹を蹴り飛ばした。
 敵もやわじゃない。すぐさま体制を整えて、一旦距離をとってきた。

「今のパンチ……ただのガキじゃねえなお前。何者なにもんだ」
「あんたらにしてやる自己紹介はないよ。ただ、強いて言うなら悪党をやっつける正義のヒーローってとこかな」

 おれは重心を低くし、全力で地面を蹴って前へ跳んだ。奥義で片付ける!

「閃光突き!!」

 雷々の力は使わずに繰り出した閃光突きは、相手の顔面に見事に的中した。長い廊下に沿って、奥までぶっ飛んで行ってしまった。
 仲間を呼ばれる前にさっさとここを出ないとまずい。そう思っておれは再び走り出した。
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