退屈な魔王様は冒険者ギルドに登録して、気軽に俺TUEEEE!!を楽しむつもりだった

有角 弾正

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85話 勇者王サーガ

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 聖都ワイラー北区。

 この名店街の中でも一際異彩(いさい)を放つ、ここトラットリア"白鳩亭"は春夏秋冬を問わず、年中いつでも大繁盛しており、この聖都で年に数度開催される、七大女神所縁(ゆかり)の祭りのあるときなどは特別ごったがえしている。

 だが、本日はそれに特別に輪をかけ、来客の数は、それこそ開店以来の最高記録を余裕でクリアし、店の外まで幾重にも列が出来、従業員はおろか、その家族までもが総動員で働き、目も回りそう、いや、忙死しそうなほどの込み合い具合であった。

 品良くまとめられた広い店内には、魔王ドラクロワの高らかな哄笑(こうしょう)が響き渡り、この聖都の害悪の根であった悪逆非道のコーサを難なく打ち倒し、このワイラーを見事に清浄化した、伝説の光の勇者団を一目見ようと、巡礼者と街の住人とで押すな押すなの超絶的大盛況となっていた。

 特にユリアの神聖魔法で体内の劇薬のごとき悪辣な魔界のアルコールを除去・浄化されたアランなどは、正しくキッチンで忙殺されそうであった。

 だが、これぞ正しく料理人冥利(みょうり)に尽きるといった感じで、これがワタシの戦場!とばかりに嬉々としており、滝のような汗にまみれ、コックコートの背などには鳥肌さえ立て、莞爾(かんじ)とした輝くような快活な笑顔で、魔女の大壺みたいな鳥鍋相手に少しも手を休めず、最前線の猛将のごとく従業員達に的確な指示を出していた。


 さて、店の中央テーブルでは、魔王が食傷必至(しょくしょうひっし)の超山盛りの賛辞と称賛を全身で浴びつつ喰らい上げ、正しく有頂天であった。

 「うんうん、いやいや、そーかそーか!コーサとかいうヤツはそんなに酷いヤツであったか!?
 しかし民共よ、今ここに暗黒の時代は終わりを告げたのである!
 今日はその祝いとして存分に唄い、飲み、踊り、そして喰らうがよい!
 俺も今宵は甚(はなは)だ機嫌がよい、ここでのはした勘定などは丸ごと全てもってやるから、今ぞ幸甚(こうじん)を噛み締め、心ゆくまで楽しめ!
 オッホン!では、今一度訊くがー。あー、このオイラーだかワイラーだかに平穏と安寧をもたらしたのは何処の誰であったかな?
 はて?お前達がこぞって崇(あが)める七大女神達であったか?
 フハハハハー!いやいやすまぬすまぬ、あのように朧気(おぼろげ)な者達ではなく、このドラクロワ率いる、その一団であったな!
 いやいやなんのなんの!ほんの当然である!
 何せ俺こそは伝説に語り継がれし光の大英雄、勇者ドラクロワ様であるからなー!
 どこの冴えない田舎者が付けたか、コーサ=クイーンという野暮ったい名前の者などどうということもないわ!
 ウム、そこの若者達、そして年端もゆかぬ幼子達よ!これからは俺という尊き勇者王を目指して生き、励みなさい!
 そうして血の滲(にじ)むような努力と精進の果てに、いつの日にか、あぁこれは無理だ!と俺の超越的強大さに気付き、心底胸を打たれ、そしてガックリと絶望し、蚤(のみ)の跳ねる毛布などをひっ被り、朝までガタガタとうち震えなさい!
 ウム。悲しかろうが仕方なし、それこそが現実というものである!
 フハハハハー!フハハハハー!」
 と終始この調子であり、ご満悦な魔王であった。

 その隣には、絶品鳥鍋料理と並び、この店一番の名物である、肥沃な大地と陽当たり良好な畑が産んだ、魔王直々に"人間には勿体無い"と言わしめた、白鳩亭自慢の極上の葡萄酒瓶を抱え、魔王の横顔を幸せそうな熱い眼差しで見上げるカミラーがいた。
 
 「流石は勇者王ドラクロワ様にございます!
 このように完璧見事な大活劇の英雄譚(えいゆうたん)は、今だかつて、いえ、未来永劫この世にはなかろうと存じます!
 是非とも吟遊詩人には詩を書かせ、物書き共には芝居の脚本として、大長編なる物語として著させたいほどのご活躍にござりまする!!」
 と、賑やかに口舌の花を添えては、その小さな手を打っていた。


 常ならば他人(ひと)との無駄な馴れ合いを好まず、地中深くの穴蔵住まいの隠者であるロマノ=ゲンズブールも、流石に今宵だけは特別なのか、この人混みの只中にて淡い麝香を香らせながら、魔王の勝利の宴に参席し、共にグラスを傾けていた。

 「ユリア。今夜は記念すべき、とても素晴らしい夜会となりましたね。
 しかし、間違えても、たとえどんなに勧められても、あなただけは酒の類(たぐ)いを口にしてはなりませ……はぁ、少し遅かったようですね……」
 低音の美声を漏らして、黒髪の流れる額を押さえた。

 隣のサフラン色のミニスカートローブの弟子は、殆(ほとん)ど白目の恐ろしい目付きで、凄絶なる妖艶の師を睨み返し、小さな顎をしゃくり
 「何(ぬわん)ですってぇ!?お師匠様ぁ!あっ!?俺は酒飲むなってか!?
 フン!どーせ!俺はこれといった見せ場もなく、あの生っ白(なまっちろ)カッコつけヤローにおんぶにだっこだったよ!!
 だ、が、な!その内直ぐに、この勇者団の唯一の頭脳にして、先見の名軍師、偉大なる司令塔ユリア様が居なきゃ、この先どーにもなんねぇっつーのを思い知るときがくるからよ!!
 今に見てろよ!?この奇人変人ばかりのチキショー共め!
 それよりお師匠様よー!!テメなんでそんなに色っぽいんだよ!!?
 男のクセしやがって、メチャクチャいんやらしいんだよー!!
 あっ?そりゃ俺に対しての当てつけか!?
でも言っとくけどなぁ!俺様だってこの旅であちこちいって、都会の風に吹かれてチョイと垢抜けりゃー、ブリブリボイーンのセクシーっ娘に大変身だかんな!?
 頼むからその辺忘れてくれんなよなー!!ウヘヘ……。でも、この街に平和が帰ってきて良かったなぁー!やったぜ!バンザーイ!とくらぁっ!」
 と、相変わらずの見事な酒乱ぶりである。
 
 しかし敬愛する師の前か、この間のような攻撃魔法の乱射は抑えているようだった。

 その代わりに、正しく憤懣(ふんまん)やる方ないとばかりに
 「全く!何でオッサンのクセに、ちぃっとも腹出てねーんだよ!?このチキショーめ!!」
 と、小さな拳で、白く露出したロマノの正真正銘の59㎝を、ペチャペチャペチペチと怨めしそうに乱打していた。


 女戦士マリーナは、それを愉しそうな笑顔で横目にしながら、10人掛けテーブルの眼前、そこの自分のエリアを空のエールジョッキで、グルリと二段バリケードのごとく積んで囲み、健康的で艶やかな紅い唇の周りを油で照り輝かせ、口一杯に頬張った極厚ステーキを、モリモリと咀嚼(そしゃく)していた。

 その向かいでは狼犬のライカンである美しい双子姉妹のアンとビスが、それに負けじと焼き加減ブルー、つまり殆ど生肉のステーキと大格闘中であった。

 褐色の姉は、向かいの底無しの食欲を見せ付ける、誰しもが100メートル先からでも、「あっ美人!!」と認識出来る、至極分かりやすい金髪碧眼の美人女戦士を見ながら
 「マリーナ様!素晴らしきご健啖(けんたん)振りです!
 あのように見事な剛剣を振るうには、やはり肉ですね!?肉しかありませんよね!?」
 そこには、上品ながらも信じられないスピードで、丁寧にカットしたステーキを平らげる褐色の獣女(ビースト)がいた。

 マリーナは、その声にブラウンの片眉を上げ
 「うんうん、そのとーり!強くなるにはヤッパリ肉、それとよく冷えたエールだねぇ。
 アタシの経験上、筋肉をスッゴく使った後の肉こそが、一番身に成ってるぅー!って感じがすんだよねー。
 しっかし!ここの料理はサイコーだねぇ!!何かな?肉の鮮度ってヤツの違い?それともこのニンニクの効いたソースが美味さの秘訣ってヤツ!?
 もうコレ、ホント止まんないわー!
 あっ、それよりさー。結局、あのコーサってのは何だったんだい?
 ドラクロワが、アイツは"ぎじせーめーたい"だとか、寄生してたんだとか、なんかそんな感じのこと言ってたけど、しょーじき難しくってよく分かんなかったんだよねー。
 えーと。つまりー、コーサってのはー、あの緑の服の女の子の事じゃあなくてー、あの不気味な金ぴか仮面が本体だったって事かい?」
 
 隣の席の殆ど黒に迫る紫のレザーアーマーの女アサシンは、大きな水晶玉の上部をカットしたような丸いグラス、その碧(あお)いカクテルを揺らしながら
 「そうだ、それで間違ってない。ドラクロワの言う通り、今お前の革鞄に入っている、その黄金の仮面が人間に寄生して、意のままに操り、聖女を騙(かた)り、この街を支配していたようだ。
 しかしそれも終わった。ドラクロワに恐れをなした黄金仮面は観念し、それに寄生されていたリウゴウの身体は解放され、無事本人へと返却された。
 これからは、ワイラーの腐敗を憂(うれ)いていた、心正しき女神官リウゴウが、この街を在るべき信仰の拠り所、真の聖都として復興させ、導いてゆくことだろう」

 白い肌とプラチナブロンドのアンは、しばし食事の手を止め、少し前に伸びた顔を神妙な面持ちにして、その言葉に痺れ、正しく心を打たれたように聞き入っていた。

 「聖都の清浄化……本当に良かったですね。
 リウゴウ様。あの方は信仰に篤(あつ)く、汚された聖都に心を痛ませておられましたから、この新しく生まれ変わるワイラーの指導者には最適でいらっしゃいますね。
 私、またいつの日にか、この聖都に巡礼に来たいです。
 あの……誠につかぬ事をうかがいますが、シャン様。
 あの闘いで、魔界の恐ろしい病毒に少しも侵されなかったのはどうしてですか?」
 興味津々でありながも、未だ恐る恐るといった感じで、純粋な血統種である銀狼のシャンに訊(たず)ねた。

 シャンは、グラスを回すダブルストラップの袖口、その黄色人種的な自らの細い手首辺りをボンヤリと見ながら
 「あぁ、アンは神聖治療師でもあったな。病毒の事、やはり気になるか?
 うん、あの時にも言ったが、私は自己の意思で自在に宇宙と一体となり、無となり空となることが出来る。
 今はその繋がりを一時的に絶(た)って、自らをシャンという、主たるものから分裂した個としての存在として取り分けているので、ほらこの通り、ブルーカクテルで佳い気分にもなれる訳だ。
 よければそのうちアンとビスにもこの真理の奥義を授けてやろう。
 全てはその始まりも、今も、この先未来永劫に一つでしかあり得ないことをな。
 ウフフフ……今日は折角の宴だからな、これくらいにしておくか。
 また今度、大宇宙の究極的不動の真理というモノを解き明かしてやろう。
 ウフフフ……」

 この女アサシンの極(キマ)り具合は、酔いが回っているのかいないのか、それさえもサッパリ分からなかった。

 だが、アンとビスはナイフとフォークを下ろして皿の脇に置き、両手を灰銀のスカートの膝上に乗せ、バカ丁寧に犬耳頭を垂れて
 「はいっ!ご指導とご鞭撻(べんたつ)の程、何卒宜しくお願い致します!」
 と、恭しくも同じ台詞を述べた。


 ドラクロワはそれらのやり取りを白けたような顔で、実につまらなさそうに見ていたが
 「ウム、宴もたけなわであるな。お前達もそろそろ酔いも回り、そこそこに腹も満ちて来たであろう。
 こうして皆で揃っての夕げは久し振りだな。
 ここは一つ、何かこう……座興と申すか。俺も楽しめるような、ちょっと愉快な話題はないものか?」

 それに何度も首肯した眼帯の女戦士は
 「いーねいーね!そーだよねー!ホント全員集合は久し振りだよねー!
 あっ、だったらさ、こう暑い夜は何かコワーイ話でもしないかい?
 みんなさ、一つか二つはそんなの持ってんでしょ?」

 ドラクロワは左手で頬杖し、右手で緑色の瓶を揺らしながら、いつもの鉄仮面の無表情のまま
 「マリーナよ。なんだ?その"こわーい話"というのは?」

 そこへ、しゃっくりを飲み込むユリアが割り込んで
 「なーに言ってんだドラクロワ?
 だからよー、このオッパイ戦士がいってんのはよー、要するに怪談てヤツだよ怪談。
 暑いときゃー怖い話でもして、気分だけでも涼しくなろうぜ!ってこった。
 オメェそんなことも知らねぇのか?」

 魔王はやはり白く美しい無表情で
 「フーム。その"怖い"という感覚はよく分からんが、何やら面白そうだ。
 ウム、では思い当たるものがある者から語るがよい」

 
 さて、こうして突如として、今ここに光の勇者団達による、夜の怪談話大会が開演されたのである。 
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