退屈な魔王様は冒険者ギルドに登録して、気軽に俺TUEEEE!!を楽しむつもりだった

有角 弾正

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235話 地元のツレ?

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 冒険当初とは、まるで人が違ったように手練れとなったシャンとマリーナは、正直、漁師町のうらぶれた郊外などに巣食う、ダニのごとき愚連隊なぞ物の数ではないと、そう高を括(くく)ていた。

 だが然(しか)るに、実際は、それら十人相手に相当に手こずることとなった──

 なにせ、この武装集団ときたら、纏(まと)った防具こそ、ありふれた鎖帷子(バンデットメイル)を幾らか補強したばかりの比較的軽装にして、手にした得物と云えば、どれもこれも碌(ろく)な銘の入った刀でもないくせをして、また恐ろしいほどに精強なのだ。

 その、勇者団の予想を遥かに越えゆく、謎めいた強さの要因だが、それは主に、彼等の発揮する格別なる"集団戦闘術"が目覚ましく研ぎ澄まされているがためだった。

 まず彼等はマリーナ、シャンを相手に5人組の二手に分かれるや、各々の組が数珠繋ぎがごとく等間隔を置いて列をなし、其々(それぞれ)の標的に向かって雪崩れ込んでは、上中下段とあらゆる角度から連撃を浴びせるのだった。

 その奇妙に整った隊列の様とは、まるで巨大な百足(ムカデ)を思わせるようであり、通過馬車のごとく猛疾走して、対象に激しい五刀を浴びせたかと思うと、決して一所に止(とど)まることなく即座に離脱──

 そこでマリーナ等からの反撃の一刀があれば紙一重で避け、間髪入れずまた容赦ない五刀の波を浴びせるというモノだった。

 無論、マリーナ、シャンの方でも巧みに避け、或いは剣で凌(しの)ぐのだが、敵もさるもの、まるで疲れを知らぬように無間(むけん)に波状攻撃が続くため、直ぐに防戦一方となる。

「わわわっ! オット! ちょっ! うあ痛っ!!」

 と、マリーナも大剣を逆手に握り締め、稲穂のように振るっては、器用にも、縦横無尽に襲い来る刃を捌(さば)いてはいるのだが、それを掻(か)い潜(くぐ)って迫る斬撃が、いよいよ身体を掠(かす)めるようになり、決して深傷ではないにしても確かに斬られ、遂に幾ばくかの流血にさえ及んでいた。

「クッ! ハッ! なにを!」

 と、また他方でも、迫り来る斬撃を手にした小刀で弾き、受け流し、また屈み、跳ね、或いはトンボ返り等で身を交わすシャンだが、やはり総身に浅い裂傷を刻まれてゆく。

「これ無駄乳ッ! そこじゃ! 今そこでこそ反撃の一刀を返さぬか!!
 あー根暗娘も! そう避けてばかりでは何ともならぬえ!
 あー違うと違う! ホレ! そう今じゃ! だーから! それでは遅いというに!!」

 遠巻きにて仁王立ちで構え、まるで剣術指南役のごとく檄(げき)を飛ばすカミラーだった。

 が、一見確かに、有象無象のならず者の集団にしか見えぬ彼等「餓狼伝説」なのだが、その猖獗(しょうけつ)を極める苛烈さというものは、直に刃を交える者にしか分からない。

 故に、どう外野から捲(まく)し立てられようとも、そう簡単には対応しきれず、まして戦局を引っくり返すことなどかなわないのが現状であった。

 さて、そうしている間も、文字通りの火花を散らす烈しい集団攻撃は止まず、いやむしろ、油をさした道具のように、いやましに円滑、精確無比の領域にまで昇華されてゆく有り様である。

「ウーン。コリャアたまげた」

 ドラクロワ達とは反対側の遠巻きにて堂々と構え、黒鉄の煙管(きせる)で一服つけていた「餓狼伝説」のリーダー各男だったが、今その視線の先の戦況を睨むように観察しては、信じられないとばかりに舌を巻いていた。

 先ず、常から戦術の指導役でもある彼がどうみても、手下の10人は少しも手を抜いておらず、まさしく獅子欺かざるの力で働いているのは、是(これ)間違いない。

 いや、そもそも、この勇猛なる集団戦闘術とは、高々人間族五人が発揮できる武力の範疇を大きく凌駕させる効果があり、実際、その恐るべき戦闘力により、永く近隣の森の脅威であり続け、多くの冒険者達を屠ってきたジャイアントスパイダー、トロール、赤巨人族といった、それら人外の化物さえも楽々と仕留めてきた。

 だが、その彼等が誇る一式の無敵戦闘術というモノを、この単なる小娘にしか見えぬ女2人が、見事と云ってもよいほどに、特段の致命傷もなく受けきっているのだ。

「ウーン。オレァ起きたまま夢でも見てんのか? 
 何モンだぁコイツら? 若い女のクセして、なんてぇしぶとさだ……」
 と、シャン達の慮外の頑健さに、今や畏怖さえ覚え始めたリーダー各の男が、思わず眼を擦った。

 その刹那──

「ちょっ! ユ、ユリア!!」

 もう堪(たま)らぬ、とばかりに、戦渦のマリーナが一声上げた。

「あえ? な、なんですかマリーナさん!?」
 唐突に名指しで声を掛けられたユリアだったが、それでも大方を察したような表情である。

「ここ、コリャさ、もー手加減とかムリ! だよッ!」

「う、ん、私もまったく同感だ! 以後、もしもやり過ぎたら、お前の治療魔法でなんとか、してやって、くれ!」

 マリーナもシャンも、共に正義の化身にして総本山である伝説の光の勇者としての自覚があり、如何(いか)に相手が残虐無道の悪党集団とはいえ、流石に致命傷を負わせてはならんと、一応の手心を加えてはいた。
 が、そろそろ流石にそんな余裕もなくなってきていた。

 つまり、生真面目で頑固な目付役ユリアに向け、未だ温存している己が武力、その限定解除を請(こ)うた訳である。

「あ、はい! 確かにその人達、スッゴい強さですよねー。
 ウンウン、ここまでくると仕方がないです、お二人共、そろそろ思い切りやっちゃってくださーいっ!!
 ハイ、では、アンさん! ビスさん! いざというときは、私達の神聖治療魔法の出番ですよ、ね、てー、アレ?」
 ユリアは仲間の必死の要請に承認を下し、背後のメイド服の女神官位二人に呼び掛けた。

 だが、なんとそこのライカン姉妹等は、弱々しく雪の地面にへたり込み、俯(うつむ)いたまま、ガチガチと歯を鳴らしているではないか。

「あえ? アンさん!? ビスさん!?
 い、一体どうしちゃったんですか!?」

 ユリアは、雷鳴に怯えきった羊のようなライカン姉妹等に駆け寄り、しゃがんで下から二人の顏(かんばせ)を覗うのだが、両人とも苦悶の表情で犬耳を垂れ、ブルブルと震えているばかりである。

 だが、この不可思議極まる、唐突なる戦意喪失状態の彼女達だったが、それらのブルーグレイの四つの瞳だけは、その恐慌にまったく似つかわしくなく、何故か墓場の陰火のごとく爛々と輝き、さながら猛犬、いやさ狂犬を想わせるような光と恐ろしさとを放っていた。

「こ、これは……一体なにが……」

 ユリアは、眼前のアンとビスの俯(うつむ)き陰った兇相の下部──
 そこで、ギリギリと食いしばられた歯列の犬歯が、みるみる伸長してゆくのを認め、ただただ当惑する外なかった。


「ンー。にしてもよ、こりゃチョイと参ったぜ。そろそろこの俺様も混じってやんなきゃ、まったく埒(らち)ってぇヤツが明かねぇようだァ。
 はぁー、面倒(メンド)。
 第一、まずまず、こぉんな不細工な仕事具合を、あの姐(あね)さんに見つかった日にゃ、どんな雷が落ちるか分かりゃしねえかんなぁ。
 よぉし! 面倒だがここは仕方ねえ、ひとつ、このオレも、もう一服つけてから──
 ア痛(いだ)ッ!」

 マリーナ達のみせる異様な粘り腰に違和感を覚え、思案顔で唸っていたリーダー各の男だったが、手にした煙管を捻って雪の地面に灰を捨てた辺りで、突然、何者かにより背後から襲われたらしく、その激痛に目玉が飛び出そうになった。

「あん? この阿呆。何がもう一服だよ」

 リーダー各の男が、弾かれたように振り返ると、そこには、銀色の毛皮コートを纏った、小柄にしておそろしく華奢な、艶かな黒髪を風変わりに結い上げた、まさしく薄幸美少女然とした人物が立っていた。

「いがっ! う、あっいってぇっ!!」

 リーダー各の男は、己の腰辺りに突き立った鋼鉄の棒針を掴むや、ズッと即座に抜いてから、その余りの激痛に再度仰け反った。

「はぁっ!? あああ、姐(あね)さん!? いいいい、いつからそこにぃッ!?」
 
「間抜けな声上げんてんじゃないよ。
 あん? いつからって、ソリャついさっきからさ。
 にしてもロボ、あの酷いザマはなんだい?」

 この姐(あね)さんとよばれた、歳の頃は、17、18にしか見えぬ、前髪を眉上辺りで斜めに切り揃えた、雪よけに、バッと広げた傘と同じ、紅のアイカラーを点(さ)した女は、まったくの無表情で、頭上の傘の受骨(はり)に手を伸ばし、ピンッとばかりに、そこからまた新たな棒針を引き抜いた。

「ヤヤヤ! ももも、もう折檻(せっかん)は勘弁してくださいよぉ!!」
 ロボとよばれたリーダー各が、また目玉をひん剥いた辺りで、戦場の中心から悲鳴が上がった。

 見れば、右目を覆う黒革の眼帯に据えられたルビーから十字光を輝かすマリーナが、今日初めての諸手(もろて)に握った大剣を振り抜いており、その怪力無双の剛打により、マリーナを襲っていた筈のならず者五人が一塊となって派手に弾き飛ばされていた。

「ッシャアァ!!」

 ドサドサッ、ザンッ! とばかりに雪の大地に落下する男達に向け、見たか、とばかりにマリーナが吼える。

「あん? 一体なんだってんだい? あの、呆れるほど野暮で、臭(クッサ)そうな、バッカみたいな女戦士は?」
 本身となったマリーナの会心の一閃を見て、柳眉をよせて不機嫌に漏らす女頭目だった。

「あらま……って、そそそ、そうなんでぇ! シュリ姐さん、よぉく見てくだせぇよ! 
 あんの余所者(よそもん)女達ときたら、ここらじゃぁ、ちょいと見ねえくれぇの強さなんでぇ!
 あー! ったく、野良の冒険者のクセして、こんちきしょうめ!」

「あん? 女、た、ちィ…………? 
 ド阿呆!! あっちのありゃ、あたしの愛しあの子じゃあないか!」

 刹那、シュリとよばれた、幅広腰帯が特徴的な民族衣裳の女は、忽然とロボの前から消失した。

 これに、ロボはハッとして、何とかその気配の残留を頼りに、シュリの行先を眼で追いかけた。
 すると、その先はマリーナの立つ隣の地点であり、まさしくシャン側の戦場であった。
 
 そこでは丁度、雨の前の飛燕のごとく、地面すれすれに滑空しながら、ならず者達五人とすれ違い様に、それらの足首を薙(な)いで斬り裂くシャンがいた。

 そう、先のマリーナ同様、漸(ようや)く本領発揮を見せたシャンである。
 だが、その鼻先に、いきなり何かが、正面衝突するようにして迫り来た。
 
 云わずもがな、それとは、先の妖しい女頭目、シュリその人である。

 シュリは、その柳腰に提げていた奇妙な曲刀の柄に手をかけながら、紅き迅雷と化してシャンに突撃するや、目の覚めるような凄絶なる抜き打ちを振るってきた。

 直後、激しい鋼の打ち合う音が鳴り渡り、シャンとシュリとが、まさしく鍔迫り合いの形となった。

「あん? ギリ皆伝(ギリギリ免許皆伝の略)のシャン。アンタってば、いつからそんなにやるようになったんだい?」

「うん。シュリ、か──お前の狂気は相変わらずだな」

 と、互いに額をぶつけ合うようにして対峙する可憐極まりない女達だったが、共に、濡羽色のような漆黒の頭髪、また、餓えた狼のごとき殺気に満ちた、極上のトパーズを想わせる瞳といい、その風貌は、姉妹と見えるほどに酷似していたという。
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