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7話 吸血鬼ハンタードラクロワ

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 一夜明け、勇者達は早朝にもかかわらず、多くの王都の者達に見送られ、魔戦将軍カミラーの城に程近い、トランの村へ旅立つことにした。

 トランは小さな村で、村民は2,000人ほど。
 度重なるカミラーの不死軍団の襲撃を受けて疲弊し切っていた。

 ドラクロワ達は、そこで少しの買い物と休憩を済ませると、早速カミラーの城に向かった。

 ひび割れた大地の荒野にそびえ立つ灰色の尖塔は、鉛色の空によく映え、正しくノスタルジックの極みであった。

 マリーナはバンパイアのねぐらを見上げ
 「吸血鬼のクセにいい城に住んでるねー。それにしても、ここまでは特に不死軍団の出迎えはなかったね」

 シャンも、時おり暴れる風に目を細め
 「不死軍団の眠る日中を選んで正解だったな」

 ユリアは地面から露出した、どう見ても人骨の左手にしか見えないものを見つけ、ギョッとし
 「カ、カミラーは対光属性としても、その配下の不死軍団には、私達勇者の家系の血と光属性は絶対的に有効なはずです。
 やはり、ただ向こう見ずに攻めても無駄だと分かっているのかも知れませんね」

 ドラクロワはつまらなさそうに城を取り囲む、錆びた鉄の檻のよう柵を眺めていたが
 「そうだな。確かにお前達勇者ならば、不死軍団など触れるだけで粉微塵であろうな。
 ただ、弩などのワナには気を付けておけ」
 
 女勇者達は「お前達?」

 魔王は手を上げて、ハイハイ
 「あぁ、俺もか……」


 城門は大きく開け放たれており、荒野の渇いた風と砂塵が一階のロビーに吹き込んで、壁や鉄格子の蜘蛛の巣を揺らしていた。

 荒れた城内を少し進むと、直ぐに日の届かぬ闇になったので、ユリアが魔法の光をルビーの杖の先へ灯した。
 
 更に奥へと進むと、尖塔へと続く大きな螺旋階段に辿り着いた。

 マリーナは両手剣を抜刀し、城内の蝋燭の光にそれを輝かせていたが
 「いくら不死のモンスターの苦手な昼にしたって、随分すんなりお邪魔を許してくれるね。
 もしかしてここの奴等、どっかを攻めにでも出てんのかね?」

 ドラクロワは傾いた肖像画を眺めながら 「不死軍団は昼ならこんなものだ。こんな昼日中に活動できるのは、」

 カツカツ、コツ……。

 その時、螺旋階段の上から軽快な足音が聞こえた。

 コツ、コツ、コツコツ……。

 ドラクロワ以外が皆螺旋階段の上を見上げ、身構える。

 見れば、ピンクの髪をゴージャスに盛った、貴族の娘らしき装いの、息を飲むような美しい幼女がウサギのような真っ赤な瞳でこちらを見下ろしている。

 その肌は青い血管が透けて見えるほどの色白で、真っ白な睫毛をしばたかせ
 「何者じゃ?」
 勇者達へ問いかけた。

 ユリアは手を振って
 「こんにちはー!あれー?どうしたのー?トランの村の子が迷い混んだのかしら?」

 シャンが小刀を持つ手をユリアを前に出し
 「ユリア、気を付けろ。こんな死臭漂う魔戦将軍の城で遊ぶ子供はいない。
 こいつはモンスターに違いない」

 マリーナもうなずき、同意を表すと、油断なくルーン文字の刻まれた剣を構えた。

 
 幼女は小さなピンクのフリルブラウスの手の五指を広げてかざし
 「そこな魔法使いよ、その光を消せ。眩くて敵わぬ」
 言って、真紅の瞳を細くした。

 ユリアは
 「はっ!?あっこれ?」
 自らの杖の魔法の光を指差した。

 「そうじゃ。他人の住家に忍び込み、カンテラならまだしも、魔法で煌々と照らすとは、全く無神経なおなごじゃな。
 ふぅむ。なるほど、実に品性の欠けた顔をしておるわ」

 ユリアは今度は自分の顔を指差し
 「ひ、品性の欠けた顔?えっ私の事!?」

 マリーナは鈴の音のような幼女の声を聞いていたが
 「おい!お前モンスターだろ!?アタシ達は騙されないよ!」
 謎の幼女を指差すと巨大なバストが揺れた。

 幼女はピンクのカールヘアーを指で丸め
 「騙す?ホホホ……バカを申せ。自惚れるでないわ。
 お前達など騙すつもりも必要もない。
 わらわは魔戦将軍カミラー。魔王様により拝領されたこの地を統べる者じゃ。
 そなたらは何者じゃ?またぞろ王都よりの神官戦士じゃな?
 いや……神官ではないか。神官ならもう少し賢そうな顔をしておるはずじゃ」
 
 ユリアが目を丸め
 「カ、カミラー!?えっ!?この子が不死軍団の魔戦将軍!?」

 マリーナも唐突の魔戦将軍の自己紹介に驚き
 「ん?カミラーって、五千歳のバァさんじゃなかったのかい!?
 こんないいとこのガキみたいなのが魔戦将軍なのかい!?正か!?」
 そう言った直後、何か違和感を感じた。

 女戦士は驚愕した。

 何と、7メートルほど先の螺旋階段上にいたはずの、ピンクの髪の幼女がいつの間にか目の前に立っており、その右手で自分のバストを鷲掴みにしているではないか。

 マリーナは
 「うあぁっ!!」

 幼女はニヤリと笑い
 「生意気に、よいものをぶら下げておるな」
 
 掴まれた胸から感じたこともない強烈な激痛が背中まで抜け、仰け反った。

 「うがぁーーー!!」

 均整のとれた長い体が棒のように伸び、ブロンドが全て後ろへ逆立つ。

 カミラーが、さようならとばかりに手を放すと、女戦士は糸の切れた操り人形のように両膝をついて床に崩れた。

 ガラシャーン!!
 
 大剣が無造作に床に転がされる。


 「キャアッ!!」

 「マリーナ!!」


 カミラーは小さな右手の親指を舐め
 「これほどの反応……ただの生娘の神官戦士というだけではないな?
 もしや!勇者の血筋の者か!?」

 その恐るべきスピードと不可解な技に女勇者二人に戦慄が走る。

 シャンがトパーズの目を見開き、小刀を胸元に掲げ
 「こいつ!今なにをやった!?」

 ユリアは直ぐにも女戦士へ駆け寄りたかったが、幼女が手前にいる。

 「マリーナさん!!しっかりして下さい!!
 ドラクロワさん!この子やっぱり!?」
 
 魔王は魔法使いの杖の輝きを渋面で睨みながら
 「そうだ。こいつが対光属性を持つ魔戦将軍、カミラーだ。
 勇者の血筋の者にとっては正しく天敵。
 神聖魔法を使える坊主、またはその属性付与魔法を施された装備を身に付けた者は、触れられれば最後、全身を雷撃のごとき苦痛が襲うという。
 勇者で光属性のお前達はその比ではなかろう。
 気を付けろ。いや、俺もか」


 カミラーは魔法の光へ手をかざし
 「ん?ドラクロワじゃと!?ホホホ……そこの美男、偶然じゃろうが、なんとも畏れ多い名を親から授かったものじゃな。
 フン、やはり勇者の血筋の者じゃったか。どうりで感じやすい訳か。
 しかし、ドラクロワとやら、お前はなぜわらわの特異な体質を知っておる?何者じゃ!?」

 魔王は面倒臭そうに
 「そんなことはどうでもよい。素直に他の将軍の城へいけ。
 そしてこの辺りには二度と戻ってくるな」

 「この若造が!勝手なことを!」
 カミラーは、カッと犬歯にしては大きな歯を見せ、そして消えた。

 またもや恐るべきスピードで移動し、左手でユリアの左手首、右手でシャンの左手首を同時に掴む。

 「きゃあっ!!」

 「ぐぐぅっ!!」

 直後、ユリアとシャンは大電流に触れたように髪を逆立て、マリーナと同じくその場に崩折れた。


 カミラーは小さな手を、埃を払うように叩き
 「ホホホ……なんとも他愛ない。
 さて、そこな美男。お前一人残ったぞえ?
 本来ならこれほどの美形、ゆっくりと刻んで、血など抜きながら遊んでやってもよいが、あいにくと魔王様が失踪し、その隙に乗じて邪神が魔王城を乗っ取った今、わわら達も忙しくしておってな。
 時が惜しい。ではな……」

 カミラーはドラクロワの体に触れようと、またもや超スピードの世界へ消えようとした刹那、ドラクロワがそれを更に凌駕する神速でカミラーのフリルの手を左手で握り、右手でその白い喉を掴んだ。
 
 カミラーが真紅の瞳を剥いた
 「ひっ!!こ、この動き!?お、お前は何者じゃ!?
 ゆ、勇者ではないのか!?」

 ドラクロワは血も凍るような美しい顔でカミラーを見下ろして
 「カミラーよ。魔王城がどうしただと?詳しく聞かせろ」
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