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1話 不死身は不死身だが
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そのいきなり首をはねられたとこから、少しさかのぼって話すと、毘沙門天様からありがたく不死身の体にしてもらった俺は、どこの戦場でも怖いものなしだった。
確かに刀で斬られたり、槍や矢が刺さったりすりゃ、パッと真っ赤な血が飛び出して、頭が変になっちまうくらいに痛い。
だが、それも二つ呼吸ほどの我慢でスーッとすっかり消えて、どんなに深い傷口も白い湯気のような、煙のようなもんがフーッと出て、あとはミチミチッとかいう音がしてたちどころに治っちまうんだからな。
いつだったか、とんでもねぇ剣の腕の侍に、左腕のここの付け根から斬り飛ばされたことがあったが、直ぐにみっともなく転がって腕拾って、やられた切り口に持ってってくっ付けたらやっぱり治ったよ。
あと、これでもかってくらいに顔にも体にも矢を浴びたこともあったが、それでも死ぬことはなかったな。
ただ矢はキライだ。大体が矢じりに反しがあって、引っこ抜くときには肉をビリビリって破りながら無理やり抜くから痛いのなんのって。
とまぁそういう感じで、まだ首をはねられたことまではなかったから、この体がどこまで不死身なのか限界は分かんねぇが、とにかく目玉だろうが心の臓だろうが、どこをどうやられても何ともないってことが段々分かってきた。
ま、しつこいよーだが【治療の狼煙(のろし)みたいな白い湯気】が立つまで、痛いのは痛いけど、さすがは毘沙門天様のお墨付きの不死身の体だ、俺は天下一の果報者だって思って有頂天になってたな。
――だが、この不死身の体にも一つだけ泣き所があって、俺が毘沙門天様に捧げた、楽しみ事。美味い飯、色恋、贅沢なんかのどれかをうっかり味わっちまうと、一番最近の傷がパックリ開いて、それが四半刻(約30分)は塞がらず、血も痛みも全然退かないんだ。
そうだな……確か、初陣?いやその次か?なんか割りと名のある侍の首を獲ったときの報償金で、つい嬉しくなっちまって、弟達が喜ぶと思って高い干し柿買って、その帰る途中でついひとつつまんじまったときだったが、違う意味で頬っぺたが落ちちまってメチャクチャ苦しんだな。うん。
まぁハナからそーいう約束だから当然仕方ねぇよな。だから、俺にとっちゃあ、ちょっとの贅沢も許されねぇし、手痛い天罰を食らうってこった。
あー罰ってことなら、この体はうけた傷が深傷であればあるほど、それが治ったときに体に不思議な法力みたいなのが貯まるみたいだ。
で、なんてゆーかそれが山登るみたいに一合目、二合目と貯まってくると、いつもより速く動けるようになったり、怪力無双になったり、敵の殺気が読めたりと、俺はドンドン化け物みたいに強くなるんだけど、せっかく貯め込んだそれも、さっきの罰をうけるとすっかり台無し、元に戻っちまうんだ。
まぁそーいう不便なとこもあるが、とにかくありがたいってことで毘沙門天様に感謝しつつ戦に出まくって、ようやくおっ母の病の馬鹿高い薬だとかも買えるようになって、弟達にもいい暮らしをさせてやれるようになった頃だ――。
まぁなんだ?毘沙門天様に授かったこの不死身の体の凄さにあぐらかいて、いわゆる調子に乗ってたっていうやつかな?
ある大きな戦で、片桐なんとかいう侍大将の首級を上げて何日かして、ある殿様に呼び出されて城の座敷に上げられたんだ。
そこでは蛇かトカゲみたな薄気味悪い目付きの殿様が待ってて、俺が今まで見たこともないような贅沢な鯛の膳が出されて、そんでもってキレーな芸者さんも沢山いてさ。
「よく来た。その方が【首斬り猫左】か、まぁ座れ」
って言われて、はいって答えて座ったんだ。
そしたら俺の左右から芸者さん達二人が迫ってきて
「あらいい男。ささっ、お一つどうぞ」
てな具合で腕にしなだれかかってきてさ、トクトクと酒を注いでくれるんだ。
もちろん俺はギョッとして
「いや、俺は酒は飲めません。勘弁してください」
って断ったんだが、芸者さんは盃を俺の口にくっ付けるようにして、飲め飲めって無理に勧めてくるんだよ。
で、もう一人は俺の腹をキュッとつねって
「あら、あんたゲコかい?かっわいいねぇ」
て湿ったような声で耳元で囁いて、耳たぶを優しく噛んできたんだ。
あぁ――この芸者さん俺とおんなじくらいの歳かな?綺麗だなぁ。それになんでこんなに良い匂いがするんだ?
とか、まぁ俺も若い男だ、はっきり言えばスッカリのぼせちまったんだよね。
「猫左よ。ただの農奴の分際でワシの酒を断ると、そう申すか?」
って感じで、高座の殿様が凄い目付きで睨んでくるんだよ。
で具合の悪いことに、ちょうどその翌日に、おっ母の為に熊の胆(い)を買った、そのでっかい支払いがあって、こりゃ殿様の機嫌を損ねたら報償金貰えなくなるかもな?とか思って、本当にお猪口(ちょこ)に一杯だけ貰ってサッと飲んだんだ。
そしたら驚いたね。殿様が飲むような酒ってこんなに美味くて、スーッと五臓六腑に沁みわたるもんなんだなって。
で、あぁコイツはいいもんだなぁ……ってつい思ったら、着流しの中で腹の傷がバクッと開いてハラワタが飛び出したんだ。
それでその罰の痛みにもがいてたら、不意に目の前が陰って。見上げたら目を血ばしらせた殿様が直ぐそこに立ってて。
「さしもの不死身の猫左も、酒に混ぜた痺れ毒には敵わんと見えるな」
とか、まったく見当違いのこと言って気味悪く笑ってた。
いやいや、こっちは芸者さんと酒を楽しんじまって、直近の傷が開いてるだけなんだけど、て思ってたら、カツンッ!て閉じた扇子で頭を叩かれて。
「この野良犬めが!貴様が狩った片桐伝次郎とは、このワシの義理の弟よ!敵対局勢、情勢も読まず、只只、金目当てに見境なく暴れおって!よし!皆の者!であえであえっ!!」
って殿様が喚いたら、座敷の四方の襖がタタンタンッ!て一斉に開いて、抜刀した侍達が雪崩れ込んできたんだ。
で、酒と女を楽しんだ罰で不死身が解けた俺は、なます切りにされて、トドメに首の後ろをバッサリやられて、生首になってその場にゴロゴロと転がったって訳だ。
んで、首の付け根からドバーッて活力が抜ける感覚と、もの凄い眠気が来て、うん、そこで一回死んだんだと思う。
で、次に目が覚めたら見たこともない森に倒れてたんだ。
確かに刀で斬られたり、槍や矢が刺さったりすりゃ、パッと真っ赤な血が飛び出して、頭が変になっちまうくらいに痛い。
だが、それも二つ呼吸ほどの我慢でスーッとすっかり消えて、どんなに深い傷口も白い湯気のような、煙のようなもんがフーッと出て、あとはミチミチッとかいう音がしてたちどころに治っちまうんだからな。
いつだったか、とんでもねぇ剣の腕の侍に、左腕のここの付け根から斬り飛ばされたことがあったが、直ぐにみっともなく転がって腕拾って、やられた切り口に持ってってくっ付けたらやっぱり治ったよ。
あと、これでもかってくらいに顔にも体にも矢を浴びたこともあったが、それでも死ぬことはなかったな。
ただ矢はキライだ。大体が矢じりに反しがあって、引っこ抜くときには肉をビリビリって破りながら無理やり抜くから痛いのなんのって。
とまぁそういう感じで、まだ首をはねられたことまではなかったから、この体がどこまで不死身なのか限界は分かんねぇが、とにかく目玉だろうが心の臓だろうが、どこをどうやられても何ともないってことが段々分かってきた。
ま、しつこいよーだが【治療の狼煙(のろし)みたいな白い湯気】が立つまで、痛いのは痛いけど、さすがは毘沙門天様のお墨付きの不死身の体だ、俺は天下一の果報者だって思って有頂天になってたな。
――だが、この不死身の体にも一つだけ泣き所があって、俺が毘沙門天様に捧げた、楽しみ事。美味い飯、色恋、贅沢なんかのどれかをうっかり味わっちまうと、一番最近の傷がパックリ開いて、それが四半刻(約30分)は塞がらず、血も痛みも全然退かないんだ。
そうだな……確か、初陣?いやその次か?なんか割りと名のある侍の首を獲ったときの報償金で、つい嬉しくなっちまって、弟達が喜ぶと思って高い干し柿買って、その帰る途中でついひとつつまんじまったときだったが、違う意味で頬っぺたが落ちちまってメチャクチャ苦しんだな。うん。
まぁハナからそーいう約束だから当然仕方ねぇよな。だから、俺にとっちゃあ、ちょっとの贅沢も許されねぇし、手痛い天罰を食らうってこった。
あー罰ってことなら、この体はうけた傷が深傷であればあるほど、それが治ったときに体に不思議な法力みたいなのが貯まるみたいだ。
で、なんてゆーかそれが山登るみたいに一合目、二合目と貯まってくると、いつもより速く動けるようになったり、怪力無双になったり、敵の殺気が読めたりと、俺はドンドン化け物みたいに強くなるんだけど、せっかく貯め込んだそれも、さっきの罰をうけるとすっかり台無し、元に戻っちまうんだ。
まぁそーいう不便なとこもあるが、とにかくありがたいってことで毘沙門天様に感謝しつつ戦に出まくって、ようやくおっ母の病の馬鹿高い薬だとかも買えるようになって、弟達にもいい暮らしをさせてやれるようになった頃だ――。
まぁなんだ?毘沙門天様に授かったこの不死身の体の凄さにあぐらかいて、いわゆる調子に乗ってたっていうやつかな?
ある大きな戦で、片桐なんとかいう侍大将の首級を上げて何日かして、ある殿様に呼び出されて城の座敷に上げられたんだ。
そこでは蛇かトカゲみたな薄気味悪い目付きの殿様が待ってて、俺が今まで見たこともないような贅沢な鯛の膳が出されて、そんでもってキレーな芸者さんも沢山いてさ。
「よく来た。その方が【首斬り猫左】か、まぁ座れ」
って言われて、はいって答えて座ったんだ。
そしたら俺の左右から芸者さん達二人が迫ってきて
「あらいい男。ささっ、お一つどうぞ」
てな具合で腕にしなだれかかってきてさ、トクトクと酒を注いでくれるんだ。
もちろん俺はギョッとして
「いや、俺は酒は飲めません。勘弁してください」
って断ったんだが、芸者さんは盃を俺の口にくっ付けるようにして、飲め飲めって無理に勧めてくるんだよ。
で、もう一人は俺の腹をキュッとつねって
「あら、あんたゲコかい?かっわいいねぇ」
て湿ったような声で耳元で囁いて、耳たぶを優しく噛んできたんだ。
あぁ――この芸者さん俺とおんなじくらいの歳かな?綺麗だなぁ。それになんでこんなに良い匂いがするんだ?
とか、まぁ俺も若い男だ、はっきり言えばスッカリのぼせちまったんだよね。
「猫左よ。ただの農奴の分際でワシの酒を断ると、そう申すか?」
って感じで、高座の殿様が凄い目付きで睨んでくるんだよ。
で具合の悪いことに、ちょうどその翌日に、おっ母の為に熊の胆(い)を買った、そのでっかい支払いがあって、こりゃ殿様の機嫌を損ねたら報償金貰えなくなるかもな?とか思って、本当にお猪口(ちょこ)に一杯だけ貰ってサッと飲んだんだ。
そしたら驚いたね。殿様が飲むような酒ってこんなに美味くて、スーッと五臓六腑に沁みわたるもんなんだなって。
で、あぁコイツはいいもんだなぁ……ってつい思ったら、着流しの中で腹の傷がバクッと開いてハラワタが飛び出したんだ。
それでその罰の痛みにもがいてたら、不意に目の前が陰って。見上げたら目を血ばしらせた殿様が直ぐそこに立ってて。
「さしもの不死身の猫左も、酒に混ぜた痺れ毒には敵わんと見えるな」
とか、まったく見当違いのこと言って気味悪く笑ってた。
いやいや、こっちは芸者さんと酒を楽しんじまって、直近の傷が開いてるだけなんだけど、て思ってたら、カツンッ!て閉じた扇子で頭を叩かれて。
「この野良犬めが!貴様が狩った片桐伝次郎とは、このワシの義理の弟よ!敵対局勢、情勢も読まず、只只、金目当てに見境なく暴れおって!よし!皆の者!であえであえっ!!」
って殿様が喚いたら、座敷の四方の襖がタタンタンッ!て一斉に開いて、抜刀した侍達が雪崩れ込んできたんだ。
で、酒と女を楽しんだ罰で不死身が解けた俺は、なます切りにされて、トドメに首の後ろをバッサリやられて、生首になってその場にゴロゴロと転がったって訳だ。
んで、首の付け根からドバーッて活力が抜ける感覚と、もの凄い眠気が来て、うん、そこで一回死んだんだと思う。
で、次に目が覚めたら見たこともない森に倒れてたんだ。
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