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7話 戦いのオーバーチュア《序曲》
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◆◇◆
「んおっとぉ!」
俺はどしゃぶりの雨でぬかるんだ泥の地面に頭から倒れ込みそうになっていたが、すんでのとこでとっさに右の足を前に出して、そこでグッと踏ん張って体を起こした。
おっ?胸も背中もちっとも痛かねぇぞ!それに、まだどこの家も焼かれてねぇみてぇだな。
確か、つい今、毘沙門天様と真暗っなとこで、ちょいとあれこれ話してたよーな気がするが、ちっとも時間が経ってねぇってのは奇妙だな……。
「うーん。おかしいな。この人間族の若造、火矢で胸を貫かれたのに倒れんぞ?特別丈夫な奴なのか、それとも矢がうまく急所をそれただけか?」
さっきのちびっこ黒甲冑のゼロゼロと嗄(か)れたイヤな声がした。
「へっ!俺はな、元々この程度じゃくたばりゃしねぇんだよ」
俺は掃き捨てるよう言って、手の甲で口元をぬぐって両の手の鎌を握りしめた。
不死身が戻りゃこっちのもんよ!いっちょ派手に暴れてやっか!
「ふん。ネコザか……変わった奴だ。よし!虫けらみたいに弱い人間族を一方的に【蹂躙(じゅうりん)】するばかりじゃつまらないと思ってたとこだ。チューア!オゥバ!」
「はっ!」
「ここにっ!」
「相手をしてやれっ!」
あん?背丈は【六尺(ろくしゃく)】《約180センチ》にちょいと足りねぇ俺とドッコイだが、なんだか妙にゴッツイ黒甲冑が二人出てきたぞ。
「いいか、ネコザとやら?俺はこの黒龍騎士団の小隊長だが、常に心がけていることがある。それがなんだか分かるか?」
ちびっこが山犬頭の大男の背から偉そうに言った。
「なんでぇ、今日の大将首はお前か。どうした?俺に説教でもしようってのか?」
「ゲヒャヒャ……。まぁ聞けよ。それはな、【敵、小なりとも決して侮(あなど)らざるべし】だ。つまり、どんな虫けら相手でも油断はするな、ということだ」
「へぇー。そりゃいい心がけだな。てこたぁそこのお二人さんはかなりお強いってこった?」
俺は鎌の先で、ひどく酔っ払ったみてぇに黒兜の首をかしげたゴッツイ二人を指した。
「当然。このチューアとオゥバは中々の剣の使い手でな、正直、お前みたいな人間族の若造の相手をさせるにはもったいないくらいだ」
「へぇ、そーりゃありがてぇこった。嬉しくて涙が出るぜ。ま、この雨で分かんねぇだろうが」
「まったく口の減らんヤツだ。だが何となくだが、ろくな装備も持たぬお前からは【嫌な雰囲気】というか、何か【得体の知れん不吉な気配】のようなモノを感じる。単なる俺の気のせいかも知れんが、さっきも言ったように一応は万全を期しておきたいのだ」
へぇ。黒龍騎士団てぇのは、大方ただの【やくざ】な【ならず者】が徒党を組んだだけの【愚連隊(ぐれんたい)】かと思ってたが、あながち無頼の馬鹿ぞろいって訳でもなさそうだな……。
「おいおい!前口上はいい加減それくれぇにしてくんねぇか?雨で体が冷えちまわぁ!なんでもいいからさっさとかかってこいっ!」
「だ、そうだ。チューア!オゥバ!かかれっ!だが油断はするなよ!?」
二人の剣士は斜めにコックリうなずいて、ちび大将の言いつけ通り、油断なく反りのねぇ太刀を振りかぶって構え、俺ににじり寄ってきた。
よし。さっきの肺臓への一撃で、腹ん中にかなりの法力が貯まってて、いい具合にカッカときてるな。
うん、こりゃ確実に【一合目と半分】くれぇは貯まってるぞ。
あとは眉の間にちょいと気合いを入れて、こいつを【超力解放】させれば、いつも通り何かしらの戦向きの【能(ちから)】が発動して身に宿るはずだが……さぁて、コイツら木偶(でく)の坊みてぇな二人相手に、果たしてそこまで要るか、だな。
「なぁ【手練(てだ)れ】の剣士さんたちよぉ!?こっからは戦だから手加減はなしだぜ!?」
二人のぶっとい黒甲冑たちは相変わらずダラリと脱力したままで立ちンボだ。
「へっ!おしゃべりは嫌いか?そりゃいい。んじゃ、とっとと始めっかっ!!」
俺は何気なく【草鞋(わらじ)】のかかとで泥をかいて、足場として踏みやすくしといた大地を蹴って、向かって右の牛みたいな大角兜へと飛び込んだ。
なぁに、甲冑相手のやりようは分かってる。
まずは鎧の継ぎ目。たとえば膝の裏、脇の下なんかに刃を刺してそこの腱(けん)をぶった切りゃ、まぁどんなヤツでもたまらず上向いて喉元がガラ空きになる。
で、その首筋の右左真横から二丁の鎌を振って、なるだけ刃を深く食い込ませ、あとは一気に締め上げるようにして一思いに首を刈り取る、って寸法だ。
俺は地面スレスレに思いっきり体を低くして、肥(ふと)った牛角兜とすれ違うようにして、その背後に回り込もうとした。
騙(だま)しの一刀も、目眩(めくら)ましもなしで、こんなに無闇に飛び込んだところで、上から斬り下げられねぇのかって?
なぁに、【目方(めかた)】《体重のこと》のあるヤツは大抵が【剛力自慢】でノロマと相場が決まってらぁ。
それに、こちとら年中鎧嫌いのすばしっこい痩せで、速さにゃちょいと自信があんだよ!
よしっ!こいつも見たまんま牛みてぇにトロくせぇヤツだ!
ほうら抜けたぜっ!と思ったら……大粒の雨の跳ねる、ほんの目の前に、真横に尾を引く青白い光が二つ流れてきた。
うえっ!?こりゃ牛角兜ヤロウの目じゃねぇか!?な、なんでこんなに低いとこに――!?って思ったとこに、目もくらむようなスゲェ頭突きが来た!
俺は目からキラキラ星を飛ばしながら、かち割られた頭から後ろにすっ飛んで、ぬかるんだ地面にベチャッ!バチャッ!と二度、三度と跳ねて転がった。
クッソ!やられたっ!!
ジーンと温けぇ血と冷てぇ雨が混じって、ツーンとする鼻筋に落ちて来やがったぜ!!
油断大敵か……確かにな――
「んおっとぉ!」
俺はどしゃぶりの雨でぬかるんだ泥の地面に頭から倒れ込みそうになっていたが、すんでのとこでとっさに右の足を前に出して、そこでグッと踏ん張って体を起こした。
おっ?胸も背中もちっとも痛かねぇぞ!それに、まだどこの家も焼かれてねぇみてぇだな。
確か、つい今、毘沙門天様と真暗っなとこで、ちょいとあれこれ話してたよーな気がするが、ちっとも時間が経ってねぇってのは奇妙だな……。
「うーん。おかしいな。この人間族の若造、火矢で胸を貫かれたのに倒れんぞ?特別丈夫な奴なのか、それとも矢がうまく急所をそれただけか?」
さっきのちびっこ黒甲冑のゼロゼロと嗄(か)れたイヤな声がした。
「へっ!俺はな、元々この程度じゃくたばりゃしねぇんだよ」
俺は掃き捨てるよう言って、手の甲で口元をぬぐって両の手の鎌を握りしめた。
不死身が戻りゃこっちのもんよ!いっちょ派手に暴れてやっか!
「ふん。ネコザか……変わった奴だ。よし!虫けらみたいに弱い人間族を一方的に【蹂躙(じゅうりん)】するばかりじゃつまらないと思ってたとこだ。チューア!オゥバ!」
「はっ!」
「ここにっ!」
「相手をしてやれっ!」
あん?背丈は【六尺(ろくしゃく)】《約180センチ》にちょいと足りねぇ俺とドッコイだが、なんだか妙にゴッツイ黒甲冑が二人出てきたぞ。
「いいか、ネコザとやら?俺はこの黒龍騎士団の小隊長だが、常に心がけていることがある。それがなんだか分かるか?」
ちびっこが山犬頭の大男の背から偉そうに言った。
「なんでぇ、今日の大将首はお前か。どうした?俺に説教でもしようってのか?」
「ゲヒャヒャ……。まぁ聞けよ。それはな、【敵、小なりとも決して侮(あなど)らざるべし】だ。つまり、どんな虫けら相手でも油断はするな、ということだ」
「へぇー。そりゃいい心がけだな。てこたぁそこのお二人さんはかなりお強いってこった?」
俺は鎌の先で、ひどく酔っ払ったみてぇに黒兜の首をかしげたゴッツイ二人を指した。
「当然。このチューアとオゥバは中々の剣の使い手でな、正直、お前みたいな人間族の若造の相手をさせるにはもったいないくらいだ」
「へぇ、そーりゃありがてぇこった。嬉しくて涙が出るぜ。ま、この雨で分かんねぇだろうが」
「まったく口の減らんヤツだ。だが何となくだが、ろくな装備も持たぬお前からは【嫌な雰囲気】というか、何か【得体の知れん不吉な気配】のようなモノを感じる。単なる俺の気のせいかも知れんが、さっきも言ったように一応は万全を期しておきたいのだ」
へぇ。黒龍騎士団てぇのは、大方ただの【やくざ】な【ならず者】が徒党を組んだだけの【愚連隊(ぐれんたい)】かと思ってたが、あながち無頼の馬鹿ぞろいって訳でもなさそうだな……。
「おいおい!前口上はいい加減それくれぇにしてくんねぇか?雨で体が冷えちまわぁ!なんでもいいからさっさとかかってこいっ!」
「だ、そうだ。チューア!オゥバ!かかれっ!だが油断はするなよ!?」
二人の剣士は斜めにコックリうなずいて、ちび大将の言いつけ通り、油断なく反りのねぇ太刀を振りかぶって構え、俺ににじり寄ってきた。
よし。さっきの肺臓への一撃で、腹ん中にかなりの法力が貯まってて、いい具合にカッカときてるな。
うん、こりゃ確実に【一合目と半分】くれぇは貯まってるぞ。
あとは眉の間にちょいと気合いを入れて、こいつを【超力解放】させれば、いつも通り何かしらの戦向きの【能(ちから)】が発動して身に宿るはずだが……さぁて、コイツら木偶(でく)の坊みてぇな二人相手に、果たしてそこまで要るか、だな。
「なぁ【手練(てだ)れ】の剣士さんたちよぉ!?こっからは戦だから手加減はなしだぜ!?」
二人のぶっとい黒甲冑たちは相変わらずダラリと脱力したままで立ちンボだ。
「へっ!おしゃべりは嫌いか?そりゃいい。んじゃ、とっとと始めっかっ!!」
俺は何気なく【草鞋(わらじ)】のかかとで泥をかいて、足場として踏みやすくしといた大地を蹴って、向かって右の牛みたいな大角兜へと飛び込んだ。
なぁに、甲冑相手のやりようは分かってる。
まずは鎧の継ぎ目。たとえば膝の裏、脇の下なんかに刃を刺してそこの腱(けん)をぶった切りゃ、まぁどんなヤツでもたまらず上向いて喉元がガラ空きになる。
で、その首筋の右左真横から二丁の鎌を振って、なるだけ刃を深く食い込ませ、あとは一気に締め上げるようにして一思いに首を刈り取る、って寸法だ。
俺は地面スレスレに思いっきり体を低くして、肥(ふと)った牛角兜とすれ違うようにして、その背後に回り込もうとした。
騙(だま)しの一刀も、目眩(めくら)ましもなしで、こんなに無闇に飛び込んだところで、上から斬り下げられねぇのかって?
なぁに、【目方(めかた)】《体重のこと》のあるヤツは大抵が【剛力自慢】でノロマと相場が決まってらぁ。
それに、こちとら年中鎧嫌いのすばしっこい痩せで、速さにゃちょいと自信があんだよ!
よしっ!こいつも見たまんま牛みてぇにトロくせぇヤツだ!
ほうら抜けたぜっ!と思ったら……大粒の雨の跳ねる、ほんの目の前に、真横に尾を引く青白い光が二つ流れてきた。
うえっ!?こりゃ牛角兜ヤロウの目じゃねぇか!?な、なんでこんなに低いとこに――!?って思ったとこに、目もくらむようなスゲェ頭突きが来た!
俺は目からキラキラ星を飛ばしながら、かち割られた頭から後ろにすっ飛んで、ぬかるんだ地面にベチャッ!バチャッ!と二度、三度と跳ねて転がった。
クッソ!やられたっ!!
ジーンと温けぇ血と冷てぇ雨が混じって、ツーンとする鼻筋に落ちて来やがったぜ!!
油断大敵か……確かにな――
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