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8話 絶望的戦闘力差
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アミトがワニの顔を歪ませ、人指し指を立て、前方のリザードマン二匹の逞(たくま)しい背中を代わる代わる指し
「この者等は我等の中でも最弱。
ようやく狩りを覚えたばかりの若者だが、中々見所があってな。
お前達少し使える人間相手なら丁度よいと思う。
人間の戦士等よ、さぁどう戦う?」
戦士ダイナスは兜の中で真上を見てタメ息。
あきれ果て、鉄の手をパタパタ振る。
「分かった分かった。ごたくはいいから、二匹でなく全員で来い。
リザードマンなどモンスターランク8、どう逆立ちしても俺達には敵わん。」
モンスターランクとは、ギルドと冒険者との努力と労力の結晶である。
ギルドは大いなる年月をかけ、実際にモンスターと戦った冒険者等に聞き取り調査を行い、それを基に専門家による比較検討を徹底的に重ねた結果、モンスターの強さの指針が算出された。
それがモンスターランクである。
確かにモンスターにも個体差はあるが、同種であるならば、ほぼこの数値は固定である。
なぜなら、モンスターは訓練や修行をしないからだ。
ここからが重要だが、モンスターランクは同じランクの冒険者とほぼ対等の戦闘力を持っているとされている。
つまり、リザードマンは一般的に、このランクが8。
軒並みランク50越えのダイナス達であれば、彼等が二日酔いでも、たとえ目隠ししていてもまず負けないと言える。
そこには絶対的、絶望的な戦闘力差があるのだ。
それだけに、アミトの自信に満ち溢(あふ)れた態度は、冒険者ギルドの者からすれば、正しく滑稽(こっけい)の極みであった。
不意にダイナスから向かって右のリザードマンの姿がぶれた。
ガギン!!
そのリザードマンの蛮刀がダイナスの頭部を捕らえた。
いや、聖剣ジャハールが兜に到達するのを阻(はば)んだ。
女盗賊ハミルが口笛を吹く
「へぇー早いね。ま、早くったって重さがないんじゃ意味がないんだけ」
ハミルが橙(だいだい)色の紅をさした唇をO(おー)の字にした。
なんと、即座に跳ね退(の)けられるべきリザードマンの蛮刀が、ギリギリと音をたて下がってゆくではないか。
女盗賊ハミルは
「ちょっとダイナス!何やってんのよ!ふざけてないで、さっさと押し返して!」
バスケットボールのチェストパスのような身振りで戦士に喚(わめ)く。
鍔迫(つばぜ)り合いがダイナスの額に下りて来た。
「バ、バカな!こいつなんだ?!
お、押し返せん!」
ギリ!
遂に圧(お)された聖剣ジャハールの峰(みね)が兜と擦れ出した。
戦士は震えながら仰け反り、必死で両足を踏ん張り、耐えている。
上からのし掛かるリザードマンは舌なめずりし、次いでに自分の目玉も舐めた。
そのワニ顔が蔑(さげす)みに歪む。
ギャリン!!
「ぐわ!!」
交わっていた二つの刃が兜を擦り、火花を散らして斜め下へ流れた。
ダイナスは剣のみならず、体ごとその方向に転がされる。
何とか受け身を取ったダイナス、即座に膝立ちで聖剣をリザードマンに向け、追撃に牽制をする。
そのジャハールの切っ先は小刻みに震えていた。
「な、なんだこいつは?!本当にリザードマンなのか?!」
見ればその兜の額は凹み、僅(わず)かにひび割れており、フェイスガードの隙間からは鮮血が溢(あふ)れていた。
「ダイナス!!」
冒険者達が叫ぶ。
アミトが口に手の甲をやり、仰け反り嘲笑する
「逆立ちがなんだって?どうした?こんなはずじゃなかったか?
ダイト!」
その声に応じて、もう一匹のリザードマンがハミルに信じられないスピードで迫り、横殴りに蛮刀を振る。
ハミルは「甘いよ!」余裕でバックステップで刃をかわした。
だが、リザードマンはそれを読んでいたように前方へ更なる加速を終わらせていた。
そのまま甲羅のような額で女盗賊のターバンへ頭突き。
「きゃあっ!!」
仰け反るハミルの腹を鉤爪の足で蹴り抜いた。
それは回し蹴りではなく、強烈なサッカーボールキックであった。
吐瀉物(としゃぶつ)を撒(ま)きながら吹き飛ぶ女盗賊。
一直線に館の前の商店の店内へ消えた。
直後、店内から猛烈な破壊音と男の悲鳴。
「えっ?!」
一瞬の出来事に魔法使いシェケムは
「そ、そんな」
と、それを目で追うことしか出来なかった。
「バカな!か?」
いやらしく口を歪め、ゾロリとナイフのような牙列を見せる赤いアミト。
魔法使いシェケムはアミトを一瞬睨み
「エルダー!ハミルに治癒魔法を!」
老僧侶エルダーは既に商店へ駆けていた。
「何が起きとる?!ハミルよ!リザードマンなど幾らも倒して来たであろうが!」
商店の内部は滅茶苦茶に破壊されており、その奥に壁にめり込む女盗賊。
完全に脱力したハミルは、白眼を剥き、口と鼻からワインのボトルを逆さまにしたように血液を落としていた。
傍(かたわ)らに倒れ伏している男は、飛んできたハミルの巻き添えを食ったのであろう、ピクリともしていない。
エルダーは、ターバンが取れ、黒髪の乱れた女盗賊に駆け寄り
「いかん!内臓をやったか?!」
即座に回復呪文の詠唱に入る。
そこへ……
ダンッ!!
「はあっぐ!!」
老僧侶が仰け反る。
その狭い背中の中央には、蛮刀が半ばまで突き刺さっていた。
エルダーはそのまま前方、女盗賊のだらしなく伸びた足下へ倒れた。
「ギャハハハ!」
店の外から蛮刀の持ち主、リザードマンが笑う声がした。
ガ!キンッ!
「うおっ!」
ダイナスは聖剣ジャハールを弾き飛ばされた。
既にリザードマンの斬撃を受け止める握力がなかったのだ。
リザードマンは蛮刀を捨て、血の滴(したた)るダイナスの頭を噛み砕こうと、両腕でその肩と兜に掴みかかった。
ダイナスの眼前に、グパッと死のあぎとが開き、ナイフを並べたような牙が迫る。
戦士は咄嗟(とっさ)に喰われてなるかと、その上顎と下顎の先端を両手で掴んで抵抗する。
リザードマンはその手を振りほどこうと狂ったように馬の様な頭を振る。
その後ろで呪文詠唱に入るシェケムがいた。
強力な攻撃魔法で、リザードマンの背を消し炭にするつもりであった。
(ダイナス!お待たせしまし)
ビターンッ!
大火炎弾が発現寸前、魔法使いは凄まじい力で横っ面を殴られ、地面に吸い込まれるように叩きつけられ、土塊(つちくれ)を飛ばしその茜色の頭が地を跳ねた。
呪文は強力であればあるほど、その詠唱は長く、発動までに時間がかかる。
リザードマンの尻尾はそれを悠長に待ってくれなかったのだ。
リザードマンは後ろに向けた眼球を前方に戻すと、噛み付くのを諦め、鱗の左膝で戦士ダイナスの腹を蹴り上げる。
「ぐおっ!」
鎧が変型する程の衝撃(インパクト)が背中まで抜けた。
戦士のプレートメイルは鉄門扉程の厚さはなかったのだ。
リザードマンは、食いしばった歯列の隙間から鮮血を吹くダイナスを、今度は右脚で蹴り飛ばした。
ブンッと空を裂き、レンガの壁にめり込むプレートメイル。
ガラガラとそれに瓦礫が降り、直ぐに金属のブーツしか見えなくなった。
正に圧倒的実力差。
四人のギルドの手練れ達は、侮(あなど)り切っていたランク8のリザードマン、それもそのたった二匹によって瞬く間に潰滅(かいめつ)させられたのである。
観戦していたリザードマン達は、割れんばかりの拍手を勝利者等へ送り、二匹の若者は手を上げてそれに応えた。
アミトも手を叩き
「アロン!ダイトよ!よくやった。それだ!それこそが蹂躙だ。その味を覚えろ。」
名を呼ばれた二匹はアミトに寄り、膝を折り、恭(うやうや)しくワニ頭を垂れた。
アミトは満足そうにうなずき、両手を伸ばしそれぞれの頭を撫でてやる。
「うむ。では褒美に領主をくれてやる。存分に喰らえ!」
館を振り向くアロンとダイト、その牙の隙間からユルユルと唾液が溢(あふ)れ出た。
「いやーーー!!」
「お嬢様!!」
頭を両手で挟(はさ)み卒倒するリムをカルマが支えた。
「この者等は我等の中でも最弱。
ようやく狩りを覚えたばかりの若者だが、中々見所があってな。
お前達少し使える人間相手なら丁度よいと思う。
人間の戦士等よ、さぁどう戦う?」
戦士ダイナスは兜の中で真上を見てタメ息。
あきれ果て、鉄の手をパタパタ振る。
「分かった分かった。ごたくはいいから、二匹でなく全員で来い。
リザードマンなどモンスターランク8、どう逆立ちしても俺達には敵わん。」
モンスターランクとは、ギルドと冒険者との努力と労力の結晶である。
ギルドは大いなる年月をかけ、実際にモンスターと戦った冒険者等に聞き取り調査を行い、それを基に専門家による比較検討を徹底的に重ねた結果、モンスターの強さの指針が算出された。
それがモンスターランクである。
確かにモンスターにも個体差はあるが、同種であるならば、ほぼこの数値は固定である。
なぜなら、モンスターは訓練や修行をしないからだ。
ここからが重要だが、モンスターランクは同じランクの冒険者とほぼ対等の戦闘力を持っているとされている。
つまり、リザードマンは一般的に、このランクが8。
軒並みランク50越えのダイナス達であれば、彼等が二日酔いでも、たとえ目隠ししていてもまず負けないと言える。
そこには絶対的、絶望的な戦闘力差があるのだ。
それだけに、アミトの自信に満ち溢(あふ)れた態度は、冒険者ギルドの者からすれば、正しく滑稽(こっけい)の極みであった。
不意にダイナスから向かって右のリザードマンの姿がぶれた。
ガギン!!
そのリザードマンの蛮刀がダイナスの頭部を捕らえた。
いや、聖剣ジャハールが兜に到達するのを阻(はば)んだ。
女盗賊ハミルが口笛を吹く
「へぇー早いね。ま、早くったって重さがないんじゃ意味がないんだけ」
ハミルが橙(だいだい)色の紅をさした唇をO(おー)の字にした。
なんと、即座に跳ね退(の)けられるべきリザードマンの蛮刀が、ギリギリと音をたて下がってゆくではないか。
女盗賊ハミルは
「ちょっとダイナス!何やってんのよ!ふざけてないで、さっさと押し返して!」
バスケットボールのチェストパスのような身振りで戦士に喚(わめ)く。
鍔迫(つばぜ)り合いがダイナスの額に下りて来た。
「バ、バカな!こいつなんだ?!
お、押し返せん!」
ギリ!
遂に圧(お)された聖剣ジャハールの峰(みね)が兜と擦れ出した。
戦士は震えながら仰け反り、必死で両足を踏ん張り、耐えている。
上からのし掛かるリザードマンは舌なめずりし、次いでに自分の目玉も舐めた。
そのワニ顔が蔑(さげす)みに歪む。
ギャリン!!
「ぐわ!!」
交わっていた二つの刃が兜を擦り、火花を散らして斜め下へ流れた。
ダイナスは剣のみならず、体ごとその方向に転がされる。
何とか受け身を取ったダイナス、即座に膝立ちで聖剣をリザードマンに向け、追撃に牽制をする。
そのジャハールの切っ先は小刻みに震えていた。
「な、なんだこいつは?!本当にリザードマンなのか?!」
見ればその兜の額は凹み、僅(わず)かにひび割れており、フェイスガードの隙間からは鮮血が溢(あふ)れていた。
「ダイナス!!」
冒険者達が叫ぶ。
アミトが口に手の甲をやり、仰け反り嘲笑する
「逆立ちがなんだって?どうした?こんなはずじゃなかったか?
ダイト!」
その声に応じて、もう一匹のリザードマンがハミルに信じられないスピードで迫り、横殴りに蛮刀を振る。
ハミルは「甘いよ!」余裕でバックステップで刃をかわした。
だが、リザードマンはそれを読んでいたように前方へ更なる加速を終わらせていた。
そのまま甲羅のような額で女盗賊のターバンへ頭突き。
「きゃあっ!!」
仰け反るハミルの腹を鉤爪の足で蹴り抜いた。
それは回し蹴りではなく、強烈なサッカーボールキックであった。
吐瀉物(としゃぶつ)を撒(ま)きながら吹き飛ぶ女盗賊。
一直線に館の前の商店の店内へ消えた。
直後、店内から猛烈な破壊音と男の悲鳴。
「えっ?!」
一瞬の出来事に魔法使いシェケムは
「そ、そんな」
と、それを目で追うことしか出来なかった。
「バカな!か?」
いやらしく口を歪め、ゾロリとナイフのような牙列を見せる赤いアミト。
魔法使いシェケムはアミトを一瞬睨み
「エルダー!ハミルに治癒魔法を!」
老僧侶エルダーは既に商店へ駆けていた。
「何が起きとる?!ハミルよ!リザードマンなど幾らも倒して来たであろうが!」
商店の内部は滅茶苦茶に破壊されており、その奥に壁にめり込む女盗賊。
完全に脱力したハミルは、白眼を剥き、口と鼻からワインのボトルを逆さまにしたように血液を落としていた。
傍(かたわ)らに倒れ伏している男は、飛んできたハミルの巻き添えを食ったのであろう、ピクリともしていない。
エルダーは、ターバンが取れ、黒髪の乱れた女盗賊に駆け寄り
「いかん!内臓をやったか?!」
即座に回復呪文の詠唱に入る。
そこへ……
ダンッ!!
「はあっぐ!!」
老僧侶が仰け反る。
その狭い背中の中央には、蛮刀が半ばまで突き刺さっていた。
エルダーはそのまま前方、女盗賊のだらしなく伸びた足下へ倒れた。
「ギャハハハ!」
店の外から蛮刀の持ち主、リザードマンが笑う声がした。
ガ!キンッ!
「うおっ!」
ダイナスは聖剣ジャハールを弾き飛ばされた。
既にリザードマンの斬撃を受け止める握力がなかったのだ。
リザードマンは蛮刀を捨て、血の滴(したた)るダイナスの頭を噛み砕こうと、両腕でその肩と兜に掴みかかった。
ダイナスの眼前に、グパッと死のあぎとが開き、ナイフを並べたような牙が迫る。
戦士は咄嗟(とっさ)に喰われてなるかと、その上顎と下顎の先端を両手で掴んで抵抗する。
リザードマンはその手を振りほどこうと狂ったように馬の様な頭を振る。
その後ろで呪文詠唱に入るシェケムがいた。
強力な攻撃魔法で、リザードマンの背を消し炭にするつもりであった。
(ダイナス!お待たせしまし)
ビターンッ!
大火炎弾が発現寸前、魔法使いは凄まじい力で横っ面を殴られ、地面に吸い込まれるように叩きつけられ、土塊(つちくれ)を飛ばしその茜色の頭が地を跳ねた。
呪文は強力であればあるほど、その詠唱は長く、発動までに時間がかかる。
リザードマンの尻尾はそれを悠長に待ってくれなかったのだ。
リザードマンは後ろに向けた眼球を前方に戻すと、噛み付くのを諦め、鱗の左膝で戦士ダイナスの腹を蹴り上げる。
「ぐおっ!」
鎧が変型する程の衝撃(インパクト)が背中まで抜けた。
戦士のプレートメイルは鉄門扉程の厚さはなかったのだ。
リザードマンは、食いしばった歯列の隙間から鮮血を吹くダイナスを、今度は右脚で蹴り飛ばした。
ブンッと空を裂き、レンガの壁にめり込むプレートメイル。
ガラガラとそれに瓦礫が降り、直ぐに金属のブーツしか見えなくなった。
正に圧倒的実力差。
四人のギルドの手練れ達は、侮(あなど)り切っていたランク8のリザードマン、それもそのたった二匹によって瞬く間に潰滅(かいめつ)させられたのである。
観戦していたリザードマン達は、割れんばかりの拍手を勝利者等へ送り、二匹の若者は手を上げてそれに応えた。
アミトも手を叩き
「アロン!ダイトよ!よくやった。それだ!それこそが蹂躙だ。その味を覚えろ。」
名を呼ばれた二匹はアミトに寄り、膝を折り、恭(うやうや)しくワニ頭を垂れた。
アミトは満足そうにうなずき、両手を伸ばしそれぞれの頭を撫でてやる。
「うむ。では褒美に領主をくれてやる。存分に喰らえ!」
館を振り向くアロンとダイト、その牙の隙間からユルユルと唾液が溢(あふ)れ出た。
「いやーーー!!」
「お嬢様!!」
頭を両手で挟(はさ)み卒倒するリムをカルマが支えた。
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