異世界で幼稚園の先生をすることになりました

めんだCoda

文字の大きさ
3 / 32

第3話 幼稚園をつくりたいんです

しおりを挟む
 着いた先は、周りには木々ばかりで、ポツンと小さな三角屋根の家があるだけだった。

「ここですか?」

「そうだ。今日からここに住むといい」

「ありがとうございます。本当に助かります」

 揺莉ゆりは親切にしてもらったのと、住む場所を提供してもらった安心感から、笑顔でエルサリオンにお礼を言う。

 そんな笑顔の揺莉の隣には、揺莉の服の裾を掴んだまま、不安そうな顔をしながら、青い瞳でじっと家を見つめるアノーリオンがいた。

 揺莉は去ろうと、体を反転させるエルサリオンを見て、焦って呼び止める。

「あ、あの、あともう1つお願いしたいことがあるのですが……」

「なんだ、言ってみろ」

 揺莉は家の隣の辺りに歩いて行き、手で四角い形をかたどる。

「この辺りに、もう1つ大きめの四角い家を用意していただけないでしょうか…」

「この小さい家だけでは不満か?」

「いえ、そうではないんです。これからエルフ族のお子さんをみるにあたって、それ専用の家と、それから庭があるといいなと思いまして。そこでお子さん達と過ごしたいんです」

「ほう……。それは、君の元いた世界にあったものかな?」

「そうです。私のいた世界には幼稚園というものがありまして、小さいお子さんが通う所でして。せっかくなので、そういうものを目指そうかな、と。同じようにしたいんです」

 揺莉の言葉に、エルサリオンの青い目がキラッと鋭く光るのを見た揺莉は、怖くなり一瞬たじろぐが、このエルフ族の中で唯一話を聞いてくれたエルサリオンに、ここで引いてしまっては、今後自分が生活するうえで不利になると思い、怖い気持ちをもちながらも、真っ直ぐにエルサリオンを見つめた。

 エルサリオンはしばらく考え込んでおり、揺莉は握る手に汗が滲む。

「ふむ…まぁいいだろう。そのヨウチエンとやらを、つくるのもいいだろう。なんだ、とりあえず家と庭があればいいんだな」

「あっ、そうです、えっとイメージとしては…」

「良い。話さなくても分かる」

 そう言うと、エルサリオンがすっと揺莉に近付き、揺莉の頭の上に手をかざす。

 揺莉は視線だけ上げ、エルサリオンを見つめる。エルサリオンは、揺莉の頭の上と手をじっと見つめているだけで、揺莉自身も何も変化を感じなかったが、エルサリオンは程なくして手をどけた。
 そして、何かを呟きながら空き地に手のひらをむける。

 すると、青色の魔法陣のようなものが現れ、カッとあたり一瞬が眩しく光った。揺莉はあまりの眩しさに、顔を腕でガードし思わず目を瞑る。

 少しして、顔の前からおそるおそる腕を下げると、揺莉の小さな家の隣に、白い3階建ての建物がそびえ立っていた。1階から2階までは、3部屋ずつあり、3階には広い一室も。
 そして、建物の前には砂でできた、いわゆる園庭も。

「わ…あぁああ!すごい!!私がイメージしていたものの通りに!!」

「これで満足したか」

「はいっ…!もちろんです!本当にありがとうございます。無理を言って、申し訳ありませんでした…!魔法まで使わせてしまって、すみません!ありがとうございます!」

「また必要なことがあれば私に言うといい。さぁ、アノーリオン。もう暗くなる、帰るぞ」

 ずっと揺莉にくっついていたアノーリオンは、エルサリオンに声をかけられると、揺莉の服の裾を掴んだまま、心配そうに揺莉の顔を見上げた。

「ほら、パパが呼んでるよ。行っておいで。また明日遊ぼう」

 揺莉が笑顔でそう伝えると、アノーリオンは少し躊躇う様子を見せたが、コクンと頷くと待っているエルサリオンの側へ駆け寄っていった。

 エルサリオンはアノーリオンが近くに来ると、アノーリオンの肩に手を置き、自分のそばへ引き寄せた。

「明日、明るくなったらアノーリオンをここに寄こそう。ただし、暗くなる前には帰してほしい」

「分かりました。暗くなる前にアノーリオンくんを送って行きますね」

「いや、ついてくる必要はない。アノーリオンを1人帰してくれればいい」

「えっ…1人で帰るってことですか…?お家がどこか分かりませんが、まだ幼いのに、1人で出歩くのは危なくないですか…?」

「この里には結界をはっている。基本、エルフ族以外は立ち入ることはない。それに、里内での危険なこと程度なら、ある程度アノーリオンも自分で対象できる」

「そう…ですか…わかりました…。あっ、あと、すみません、食べ物や飲み物などは…」

「この里の食材や飲料は、家の中に適宜入っている。自由に使うといい」

「あっ、わかりました、ありがとうございます!それでは、明日からどうぞよろしくお願いいたします。アノーリオンくん、またね、明日待ってるね」

 揺莉は、アノーリオンに笑顔で手を振る。

 アノーリオンはニコニコと笑いながら手を振り、先に歩いているエルサリオンの後を追いかけて行った。

「ふぅ~……。さて、まずは何か食べようかな」

 1人になった揺莉は、小さな三角屋根の家の扉を開け中に入る。

 中は、揺莉の世界とは違っており、テーブルと椅子があるだけだった。そして、そのテーブルの上には、未加工のよく分からない肉。そして、銀色のウォーターピッチャーらしきもの。
 上の蓋を開けると、中には何か液体が入っていて匂いはせず、そばにあったカップに注ぎ出てきた透明の液体を飲むと、無味無臭だった。

「水…かな…?でも、この肉はほんとに、何の肉なの…?それに、ガスとか火もないのに、どうやってこれを食べろと…??」

 揺莉は生肉を見つめながら、ため息をつく。
 幸いなことに、お腹が劇的に減っているわけではなかったので、食べるのはやめて奥にあるベッドへと向かう。
 エルフ族サイズなのか、揺莉が寝ると縦横随分とあまる、大きなベッドだった。

 揺莉は片腕をおでこにあて、天井をじっと見ながら1人呟く。

「疲れた……。でも、良かった、なんとかここにいることができて…。何かやらなきゃって思って、思わず幼稚園やるって言っちゃったけど、私、幼稚園の先生なんて、やったことないんだよね…。あははっ、私ってば突拍子もないこと突然言っちゃったな…」

 役に立つことができると思わせたくて、つい幼稚園を開くことにしてしまった揺莉は、明日からのことを考えて不安になる。

「幼稚園の建物を魔法でつくってもらっちゃったけど…よく考えたら、アノーリオンくんしか来ないじゃん。あんな広い建物で私と子ども1人どうするのよ…」

 揺莉は、フフッと自重気味に笑ったあと、ふと思い出す。
 自分の子どもが3人、楽しそうに幼稚園に通っていたことを。

「みんな元気かな……」

 子ども3人を思い出して、揺莉は目がうるっとしてしまう。

「会いたいなぁ…子どもたちに……」

 揺莉はベッドで静かに1人、涙を流した。

 ◇◇◇◇

 ハッと目を開けると、目の先には天井が。小鳥の囀りが聞こえ、小さな窓からは、日の光が入ってきているのに気付く揺莉。

「あれっ、もう朝…!?」

 揺莉は、慌ててベッドから起き上がる。
 昨日、泣きながらいつの間にか眠ってしまっていたらしい。

「えっ、どうしよう、今何時??そもそも何時とか、あるのかな?あっ…アノーリオンくんは…!もう来ちゃってるかな!?」

 揺莉は慌てて家の扉を開けて外を見ると、アノーリオンが家の前に積もっている木の葉の上にしゃがみ、持っている木の枝で葉っぱをツンツンとつついていた。

「アノーリオンくん!!ごめんなさい!待たせちゃってたよね、ごめんね、私今起きて…」

 揺莉が声を上げると、アノーリオンは笑顔になり走ってこちらに近づいてきた。

「揺莉、おはよう」

 ニコニコ笑って太もも辺りにギュッとくっついてくるアノーリオンに、人懐っこくて可愛いなぁと、気持ちがくすぐったくなる。

「おはよう、アノーリオンくん」

「揺莉、なんか食べた?」

「あっ、まだ食べてない。アノーリオンくんは?」

「食べたよ。揺莉、食べちゃいなよ。待ってるから」

「うん、そうだね」

 揺莉はアノーリオンと会話しながら、ふとなんともいえない違和感を覚えた。

(…ん?なんだろ、なんか昨日と違うような……)

 揺莉は、揺莉より先に家の中に入っていくアノーリオンをじっと見つめる。
 青い瞳に、金色で少しカールした髪の毛。

(見た目は一緒だよね…なんだろう、喋ってるとなにか……)

「あっ、なんか、昨日より会話が上手くなってる気がする…??」

 昨日会ったときよりも、今朝は随分と会話がスムーズに行えたように思えたのだ。

「なんだろう、あれ…同じ人物だよね…?」

 思わずそう考えるほどに、変化が著しく感じた。

「ねーぇー、揺莉ー、早くご飯食べちゃいなよー」

 アノーリオンが家の中から顔をヒョコっと出して、揺莉を呼ぶ。

「あ、ごめん」

 揺莉は慌てて家の中に入ると、テーブルの上の肉について尋ねる。

「ねぇねぇ、これって、どうやって調理して食べるか知ってる?」

「うん、知ってるよ。焼くんだよ。ほら、こうやって」

 アノーリオンは人差し指を出すと、青色の炎を出し肉を炙っていく。

「すごい!アノーリオンくん、もう魔法使えるんだねぇ!」

「みんな使えるよ。俺らくらいの歳の子は、みんなやってるよ。はい、できたよ」

 アノーリオンに焼けた肉を手渡され、揺莉はゆっくりとかぶりつく。
 中からジューシーな汁があふれ、とても美味しかった。

「う~ん!美味しい!」

 味わって食べると共に、揺莉はふと疑問に思い始める。

「…アノーリオンくん、今日のお昼ご飯とか、何か持ってきてる…?」

「ううん、持ってきてないよ」

「だよね…」

 揺莉は肉を持ったまま、途方に暮れる。
 ここでの調理の仕方もさることながら、食料の調達方法も知らない。

(幼稚園やるって言いながら、何も考えてなかった…お昼ご飯どうしよう…)

 揺莉が困っていると、家の外から声がした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

過労死して転生したので絶対に働かないと決めたのに、何をしても才能がバレる件

やんやんつけバー
ファンタジー
過労死して異世界転生。今度こそ絶対に働かないと決めたのに、何をやっても才能がバレてしまう——。農村で静かに暮らすはずが、魔力、農業、医療……気づけば誰も放っておかない。チートで穏やか系の異世界スローライフ。

キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~

サメのおでこ
ファンタジー
手違いだったのだ。もしくは事故。 ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。 木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。 そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。 もう一度言う。 手違いだったのだ。もしくは事故。 出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた! そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて―― ※本作は他サイトでも掲載しています

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました

黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。 彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。 戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。 現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと! 「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」 ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。 絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。 伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進! 迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る! これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー! 美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。 人生、逆転できないことなんて何もない!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします

ランド犬
ファンタジー
 異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは ――〈ホームセンター〉 壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。 気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。 拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?

処理中です...