異世界で幼稚園の先生をすることになりました

めんだCoda

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第12話 変化

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 思っていたのと真逆の言葉をかけられ、揺莉は動揺と困惑で頭が一瞬フリーズする。

 エルサリオンは揺莉を下ろした後、紐でぐるぐる巻きにされている白い怪物の前まで歩いていき、近くまでいくと、真っ直ぐに白い怪物を見据え、何か呟き白い怪物に手をかざした。

 すると、白い怪物はどんどんと姿が縮んでいき、そこには揺莉が虫取り網で捕まえたときの、白いモサモサとしたあの生き物がいた。

「この生き物はサークといい、普段はこのような小さい姿だが、狭い中に閉じ込めたりすると、ストレスで先ほど見たような怪物のような大きい姿になってしまうんだ。小さい姿であれば、他の生き物に害を及ぼすようなことはしないが、怪物に変化すると途端に暴力的になる」

 エルサリオンはしゃがみ、横たわったサークをサッと手で撫でると、動かなかったサークは目をパチッと開け、ピクっと体を動かし始める。

「サークは、通常エルフの里の外で生息している。それから、結界をはっている里の中に、自ら入ってくることはできない」

「えっ…それって…じゃあ…まさか…」

 冷静で整った顔をあまり崩さないエルサリオンが、眉をひそめ僅かに苦々しい顔をするのを、揺莉は不安な気持ちで見つめていた。

「何者かが、意図的に連れ込んだのだろうな。それも、君がサークと接触するように」

 エルサリオンの言葉に、揺莉は再び胸の奥が鈍く、重くなる。
 エルフ族から好意的に思われていないのは分かっていたので、だからこそ行動範囲も小さな三角屋根の家と幼稚園の2箇所に留めていたのに。

(こうまでして、私を里から追い出したいのね……)

 揺莉は、悔しい気持ちと悲しい気持ちの半々で、思わず涙が込み上げた。エルサリオンにじっと見られているのは分かっていたが、俯いたりするなどして必死に涙を隠した。

 揺莉は視線を下に落としたとき、サークが元気そうに動き回っており、エルサリオンの足元に体を擦り付けていた。

 エルサリオンはサークを両手で抱きあげると、頭を撫でたあとに揺莉の前へと差し出した。
 揺莉は驚き、顔を上げてエルサリオンの顔を見る。

「狭い中で飼うのは危険だが、それさえしなければ飼いやすい生き物だ。ここの庭は広い、サークもここなら、のびのび過ごせるだろう」

「えっ……それって、ここでサークを飼っていいってことですか……?…でも、息子さん達はあんな危険な目にあいましたし、嫌がるかもしれないですし…」

 揺莉はすぐに答えが出せずにいると、アノーリオンが揺莉の脚に飛びついてきた。

「飼おうよ、ゆり!今日、俺らに見せたかったものって、このサークだったんでしょ?」

「でも……」

「私も飼いたかったんだ~、ペット!ここでみんなと一緒におせわしたいな!」

「…サーク…僕のこと嫌いになったりしないかな…さっき攻撃しちゃったから…」

 ララノアとクルゴンはしゃがみ、動き回ったりボールのように跳ねたりするサークに触れようと、追いかけ回し始めた。

「子どもたちも、あぁ言っているんだ。受け入れてあげたらいいのではないか?」

 エルサリオンに後押しされ、揺莉は迷うのをやめ、決断する。

「…はい!では、あっ、3人とも聞いてくださーい!はいっ、幼稚園でのねらいとして、生き物を大切にする気持ちを育むために、みんなでサークを飼うことにします!サークをみんなで、たくさん可愛がってあげましょう!」

「わーーい!!!」

 アノーリオン、ララノア、クルゴンは、その場でジャンプをして喜び、その姿を見た揺莉も思わず笑みが溢れる。

「その腕はどうした」

 エルサリオンに言われ、揺莉は両腕が地面にすれたときに、怪我をしたのを思い出す。皮膚がむけ、皮膚の下の赤い肉が剥き出しになっていた。

「かしてみろ」

 突然エルサリオンに両腕をつかまれ、揺莉はまたも緊張で体が硬直する。
 すると、エルサリオンは魔法で一瞬にして、腕の傷を治してしまった。

「ありがとうございます…あのっ、アノーリオンくん達も、同じように擦りむいたり怪我をしていると思うんです。同じように治してあげてくれませんか…?」

「彼らなら自分で治せる。エルフ族は、そのくらいのことは自分でできるように、幼い頃から訓練している」

「そうなのですか…」

 揺莉はサークと戯れているアノーリオン達を見つめながら、心に浮かんだ疑問を投げかけてみる。

「あの…なぜ、今日、ここに来たんですか…?」

「それは、サークを持ち込んだのは私ではないかと、疑っているということかな」

「違います!疑っているとかではなくて……」

 慌てた揺莉は、エルサリオンの顔を見上げると、意外にも言葉とは裏腹に優しそうに揺莉に向けて笑いかけており、揺莉は拍子抜けする。

「私はアノーリオンを自由にさせているが、身に危険が迫った場合、私に知らせがくるよう魔法をかけてある。…まぁ…今までの態度を思えば、君に疑われても仕方がないがな…」

「えっ?」

「いや、なんでもない」

 エルサリオンの最後の方の言葉が小さく聞き取れず、思わず聞き返した揺莉だったが、エルサリオンは顔をそむけてしまった。

「さて、私はそろそろ外の戦闘に戻る。アノーリオンを頼む」

「はいっ…!気をつけて行ってきてください!」

 揺莉が声をかけると、エルサリオンは驚いた顔で振り向き、揺莉の顔をじっと見つめる。

 揺莉はキョトンとした顔でエルサリオンを見ると、エルサリオンはハッとして、サッと顔をまたそむける。

「…アノーリオンは…君のところに行くようになってから、笑顔が増えた。…感謝する」

 そう言うと、エルサリオンは颯爽と園庭から出て行った。

「……へ?」

(あの…プライドの高そうなエルサリオンさんから…お礼を…言われた…??)

 揺莉は突然のエルサリオンの変化に、気持ちが混乱しその場で立ちすくんでいた。

「揺莉さん!!」

 突然背後から大きな声で名前を呼ばれ、驚いて振り返ると、ルーミルが血相を変えて走ってきていた。

「何があった!?食材を取りに行っていたら、いつもより来るのが遅くなった」

 はぁ、はぁ、と肩で息をするルーミルは、荒れている園庭を眉間に皺を寄せて見回しており、揺莉はそんなルーミルに笑顔で答える。

「色々あって…私が知識も無いのに、この世界の動物を勝手に幼稚園で飼おうとして、それで大変な騒ぎを起こしてしまいました。すみません。でも、エルサリオンさんが来て解決してくださったので、もう大丈夫です」

「そうか…それなら良かったが……。君は怪我はないのか?子どもたちは…?」

「なんとか、大丈夫そうです。子ども達も、今 はあそこで、サークと遊んでいます。あのサークを今度、幼稚園でペットとして飼おうと思っていまして」

「…サークか…。子どもたちも楽しそうだし、いいかもしれないな」

 アノーリオン達を見つめて、微笑むルーミル。

(似てるんだよなぁ…考えが…)

 揺莉は、ルーミルを見つめながら考える。

(エルサリオンさんは、怪我をした子ども達のことはあまり気にしないけど、ルーミルさんは私と同じように真っ先に心配するんだよね…エルサリオンさんは、エルフ族は幼い頃から訓練しているから大丈夫って言ってたけれど、同じエルフ族でも捉え方が違うのかな…?)

 揺莉は、そろそろ幼稚園に入ろうか、とアノーリオン、ララノア、クルゴンに向かって声をかけると、3人は揺莉に向かって勢いよく走ってきて、その後をピョンピョン跳びながらサークが追いかけてきた。
 皆が揺莉の所に集まったあと、ルーミルを含めた全員で、幼稚園に向かって歩き出した。
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