異世界で幼稚園の先生をすることになりました

めんだCoda

文字の大きさ
21 / 32

第21話 体と精神がバラける

しおりを挟む
 急に表情が固まったエルサリオンとルーミルに、揺莉は内心焦った。

(あれ、私なんか変なこと言ったかな…?)

 急に皆無言になり、揺莉はびくびくしながら2人を見つめ返す。

「ねえ、父上、まだ帰らないの?」

 エルサリオンの近くに寄ったアノーリオンが、エルサリオンの手に触れ顔を見上げる。

「あっ、そうだよね、帰るところ引き止めてごめんね。クルゴンくんもごめんね、帰りにくかったよね」

 揺莉が謝っていると、エルサリオンがアノーリオンの前にしゃがみこむ。

「もう少し話をしたいんだが、ここで待っていられるか」

「うん、いいよ」

 意外だった。幼稚園に最初の頃に来たときは、エルサリオンはアノーリオンに冷たく、そして厳しく接しているように見えたのだが、今の2人の様子を見る限りでは、エルサリオンは随分とアノーリオンに寄り添っているように見える。

 揺莉はじっとエルサリオンを見つめていたが、エルサリオンが揺莉の視線に気付き振り返った。急にエルサリオンと目が合った揺莉は、ドキッとし気まずくなる。

「あっ…クルゴンくんはどうする?もう帰るかな?」

 慌てて視線を逸らし、クルゴンに話しかける揺莉。

「…アノーリオンが…まだ…ここにいる…なら…僕も…いる…いい…?」

 クルゴンはエルサリオンが怖いようで、エルサリオンの顔をチラチラ見ながら、おすおずと話す。

「うん、もちろん。そうしたら、2人ともお部屋の中のおもちゃでも絵本でも、自由に遊んでいていいよ。ただし、園庭には出ないでね、2人を見ていてあげられないからね」

「わかったー!」
「…はい…」

 アノーリオンとクルゴンは、2人で何をしようかと、笑顔で楽しそうに話し始め、揺莉はそんな2人の様子が仲睦まじい友達同士で微笑ましくなる。

「ゆりさん、さっきの話の続きをしたいのだが」

「あっ、はい!」

 ルーミルに声をかけられ、慌てて振り返る揺莉の視界に、ムッとした顔のエルサリオンがうつる。

「なんだ、ルーミル。彼女のことを名前で呼んでいるのか」

「そうだが。他にどう呼べと?」

「…いや…急に名前で呼ばれたら、彼女も驚くだろうと思っただけだ。私ですらまだ名前を呼んだことがゴニョゴニョ…」

 語尾の方が小さくブツブツ言っており、何を話しているのか聞こえなくなる。

 急に変なことを言われ困惑しているルーミルを見た揺莉は、エルサリオンにハッキリと伝える。

「ルーミルさんには、前にも名前で呼ばれたことがありますし、別に急なことではないですよ」

「なんだ——と!?ルーミルから既に、呼ばれたことがあるのか?」

「はい、まぁそんなことはいいとして、先ほどの話の続きをしましょう。アノーリオンとクルゴンくんも待たせていますし」

「そんなこと…」

 揺莉に軽くあしらわれて、ショックを受けた様子のエルサリオンは、ガクッと肩を落としその場で固まっていた。

「あぁ、さっきの話だが、君が言った通り、転送魔法そのものを使い、ラエルノア達をここに連れてくることは可能だ。だが…問題がな…」

 ルーミルはゆっくりとそう話した後、腕を組み難しい顔をし黙ってしまう。

「問題…?」

 黙り込み床を見つめるルーミルに、揺莉は嫌な予感がする。
 エルサリオンが鼻から息をフンと小さく出すと、不安な顔をする揺莉を見つめる。

「問題は、転送した際に、体かあるいは精神がバラける可能性があるってことだ」

「体か精神が…バラける……!?」

「そうだ」

「えっ……!!じゃあ、私も元の世界に転送されたら、そうなる可能性があるってことですか…!?なんで…なんで、そんな大切なことを言ってくれなかったんですか!帰れる日を、心待ちにしているのに…!そんなんだったら…帰っても、意味ないじゃないですか……」

 揺莉は涙目になり、肩を落として愕然とする。

 涙目で怒る揺莉に驚いたのか、エルサリオンは柄にもなくオロオロとしていた。

「いや、違うんだ。私の説明が足りていなかったな。本人の同意があるかどうかで変わるんだ。つまりは、本人がその場所に行きたいと強く願えば、転送魔法を使っても何も問題なく移動できる。ただし、本人の同意なく転送魔法を使った場合、先ほど言った通り、体や精神がバラける可能性がある。ただし、これも可能性であって、必ずというわけではない」

 話をしている間のエルサリオンは、揺莉の目線と同じところまで腰を落とし、そっと肩に手を置き、優しい口調だった。

「…じゃあ、…私はそうなるわけではないってことですね…?」

「そうだ。だから、安心していい」

「…分かりました。グスッ」

 涙を手の甲でぬぐった揺莉は、気を取り直すと、ルーミルとエルサリオンを見つめる。

「つまり、ラエルノアさん達の同意を得て転送魔法を使わなければ、危険だということですね」

「そうだ。それを考えると、私は転送魔法を使うのは、やめておくべきかとは思うのだが」

 揺莉が落ち着きを取り戻したのを見て、エルサリオンは安心したのか、体を真っ直ぐに伸ばして立ち、いつもの冷静沈着なエルサリオンに戻っていた。

「そうですよね…」

「そうとなると、やはりラエルノアの家に向かうしかないのだが、ルーミル、やはり私も共に行くぞ」

「うむ…」

 ルーミルは、エルサリオンが同行することをまだ望んでいないようだった。

「ならば、エルサリオン、すぐに出よう。日が暮れると厄介だろう」

「そうだな。だが、少し待ってくれるか。——アノーリオン!すまないが、今日は1人で帰ってくれ。私は用事を終えてから帰宅する!」

 エルサリオンが声を上げ、絵本をクルゴンと読んでいるアノーリオンにそう伝えると、アノーリオンは頷きクルゴンとまた絵本に視線を落とし、笑い合っていた。

「えっ、あの、日が暮れると厄介って、エルフ族の皆さんもそうなんですか?なんか、すごいここ辺り一面も、夜になると真っ暗になっちゃって、私も怖いなぁとは思っていたんですけど」

 揺莉は自分の二の腕をさすり肩をすくませると、エルサリオンが一歩こちらに近付いた。

「怖いのならば、早くそう私に伝えればいいものを。怖いときは、私がそばにいて君を安心させ…」

「あっ、大丈夫です。夜は外出しないので。はい」

 揺莉は両手を前に突っ張り、近付くエルサリオンを制する。
 2人の様子を見ていたルーミルは、教室から園庭に視線をやり、ほんのり赤く染まりつつある空を見上げる。

「夜は、エルフ族も警戒している」

「それは、…なぜですか?」

「夜になると、結界の隙をぬい、闇夜に紛れて里の外から侵略を試みるモノも出る。外には光を灯さず暗くしているのは、侵略者に里内を知られないためだ。各家には結界が張ってある。家から出ないというのは、正解だ」

「不思議ですね…」

「何がだ?」

 ルーミルとエルサリオンが、同時に揺莉を見つめる。

「この幼稚園にいると、すごく平和で…まぁ、サークのことはありましたけど。それでも毎日平穏で、私はのんびり過ごしていました。でも、それは皆さんが防衛してくださっているからで…私、皆さんに嫌われつつも、なんだかんだ守ってもらっていたんだなって…」

「——私なら、いつでも君のそばに、そして君を守って…」

「エルサリオン、ラエルノアの家はここから遠いんだ。行くぞ」

 揺莉への会話を遮られ、不服そうなエルサリオンだったが、揺莉の側に来ると揺莉の髪の毛を優しく撫でた。

「何か不安なことがあったら、遠慮なく言ってくれ。すぐに私が駆けつける」

「あ…はい…」

(えぇー…なんか、スイッチ入っちゃった感じ?)

 揺莉は内心冷や汗ものだったが、適当にニッコリと笑顔を返すと、エルサリオンはパッと表情を明るくした。

(あっ、この笑顔、アノーリオンくんに似てる。やっぱり親子だな~)

 揺莉は、園庭から空へと飛び立つエルサリオンとルーミルを、アノーリオンとクルゴンと共に見送る。

「いってらっしゃーい!」

 空高く飛んでいる2人に、手を振る揺莉。
 まさか、この後、夜になってから小さな三角屋根の家に穴が開くとも知らずに。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

過労死して転生したので絶対に働かないと決めたのに、何をしても才能がバレる件

やんやんつけバー
ファンタジー
過労死して異世界転生。今度こそ絶対に働かないと決めたのに、何をやっても才能がバレてしまう——。農村で静かに暮らすはずが、魔力、農業、医療……気づけば誰も放っておかない。チートで穏やか系の異世界スローライフ。

キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~

サメのおでこ
ファンタジー
手違いだったのだ。もしくは事故。 ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。 木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。 そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。 もう一度言う。 手違いだったのだ。もしくは事故。 出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた! そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて―― ※本作は他サイトでも掲載しています

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました

黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。 彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。 戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。 現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと! 「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」 ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。 絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。 伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進! 迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る! これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー! 美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。 人生、逆転できないことなんて何もない!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします

ランド犬
ファンタジー
 異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは ――〈ホームセンター〉 壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。 気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。 拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?

処理中です...