ゴースト令嬢の願いを叶えるピアノ〜プライベートで能力を使ったら王子にかかっちゃいました〜

めんだCoda

文字の大きさ
25 / 30

第25話 国王の息子

しおりを挟む
「そんな…黙って効果をかけるなど、反逆行為です…!私はできません…!」

「いいや、やるのだ、フリージア。もしお前がやらないというのであれば、お前を未来永劫、部屋に閉じ込める。二度と外になど出してやらぬ」

 じりじりと歩み迫ってくる父シード公爵の威圧にフリージアは押され、後ろの壁にドン、とぶつかる。

「いいな、お前は私たちに従う他ないのだ。やるんだ」

 シード公爵に詰め寄られ、フリージアは無言で見つめ返すしかできなかった。

「さあ、そうと決まれば、早くダリアの衣装を決めましょう。どんなドレスがいいかしら。セレス王子がとても豪華な外見でいらっしゃるから、隣にいても謙遜ない華やかなドレスにしましょう」

 満面の笑みの母イザベラは、ダリアの肩を抱き、2人でこの場から離れていく。

「フリージア、曲を決めておきなさい。王族の前でも恥ずかしくない曲にするんだ。それから、ダリアが明日にでもすぐ弾ける曲を選ぶんだぞ、いいな」

 父シード公爵はそう言い捨てると、イザベラとダリアの後を追って行った。

 フリージアは壁に背中をつけたまま、深く息を吐き、暗い表情でその場で1人立ち尽くす。

(嫌だわ…弾きたくない…行きたくない…)

 フリージアは、今回の演奏依頼で自分をいいように使おうとする、父のシード公爵と母のイザベラに心底嫌気がさした。
 眉間に皺を寄せたフリージアは、両手をギュッと握りしめ、足元の床を見続けていた。

 ◇◇◇

「シード公爵家のご到着です。どうぞ、こちらへ」

 馬車で王城へ着くなり、数十人に盛大に出迎えられたシード家。

 フリージアは初めて王城へ来たが、その城の豪華さや、そびえ立つ高さ、広さなどが目にうつっても、それに心動かされる気持ちには全くならなかった。

(嫌だわ…本当に…今日これから、どうしたら弾かなくて済むのかしら…)

 父のシード公爵、母のイザベラ、ダリア、そしてフリージアの順番で歩きながら、この後の演奏をどうすれば回避できるのかを、フリージアは暗い表情でずっと考えていた。

 考えながら前を歩くダリア、そして母のイザベラを見る。2人は、今まで見たことがない、豪華で綺麗なドレスを着用していた。
 フリージアはというと、過去の演奏依頼時に着たことのある水色のドレスだ。

(ドレスが破けて私だけ帰ることになるとかに、ならないかしら…あるいは、私は国王様にもセレス王子にあったことがないのだから、私をシード家のメイドだと勘違いして追い返したりしてくれないかしら…)

 フリージアは、何がなんでもこの場で弾きたくなくて、理由さえできれば、今すぐ逃げ出したかった。

「こちらのお部屋で国王様、並びにセレス王子、他本日ご興味がありご来場された、王族の皆様がおいででございます」

 馬車を降りてからずっと案内をしていた制服の男性が、静かな声で丁寧にフリージア達に向かって伝える。
 父シード公爵、母イザベラ、ダリア、フリージアの順に扉の前で待機していると、男は深々とお辞儀をし扉に静かに触れる。

 すると、扉が中から開かれ、ぱああぁっ!と明るい光がフリージア達を包み込み、思わずシード家全員が目が眩み、前に進めず扉の前で立ち尽くし動けなかった。

 光に目が慣れてきて目を瞬しばたかせると、そこはとても大きなホールで、壁には大きな窓がいくつも取り付けられ、至る所に煌びやかな装飾が施されていた。大きな窓からは、多くの日の光が取り込まれていた。

 そして、そのホールには数十人が椅子から立ち上がり、フリージア達の方を見てパチパチ!と盛大な拍手をしていた。

(えっ…!?こんなに、たくさんの王族の方が…!?)

 昨日のシード公爵の口ぶりからは、国王に王子にあとは数人だろうと思っていたフリージアは、思っていた以上の聴衆の数に、圧倒され不安が一段と大きくなる。

(こんなに多くの王族の方々の前で、お父様は、本当に私に願いの効果をかけろというの…?)

 フリージアは扉の前で固まっている、父シード公爵に不安げな視線を送る。

「いい?予定通りにね」

 すると、ダリアが周囲に聞こえないくらいの小声で、フリージアにコソッと話す。

 唾を飲み込み、口を閉じたまま深呼吸した父のシード公爵が、一歩部屋の中へ足を踏み入れ、ゆっくりと歩き始めた。母イザベラ、ダリアもその後に続き、フリージアも俯うつむきながら最後についていく。

 大勢の王族の視線を感じるフリージアは、これから自分がすることの重大さに、手が震えるのを誤魔化すため、両手をギュッと前で握り合わせながら歩いて行く。

 ホールの中央辺りに国王が座っており、国王の近くへ進むと、シード公爵が片膝をつき礼を始めたので、フリージア達3人も両手でドレスをつまみ、膝を曲げ腰を落とし国王にお辞儀をする。

「本日は演奏会にお呼びいただきまして、真にありがとうございます」

 父シード公爵が緊張した声で、国王に挨拶をすると、国王はゆっくりと大きな声で言葉を返す。

「急に呼び立ててしまったため、準備等大変であっただろう。感謝する。さあ、皆頭をあげるといい」

 フリージアは、父、母、ダリアと共に、ゆっくりと姿勢を戻し国王を見る。

 初めて見る国王は、鋭い眼光ながらも澄んだグレーの瞳に、座っているので分かりにくいが体格もがっしりとしており、立つと背が高そうだった。

(なんだか、どこかで見たような雰囲気の人だわ)

 フリージアは、ふんわりとそんなことを思いつつ、国王がまた話し出したため、国王の言葉に聞き入る。

「それでは早速演奏を、と言いたいところだが、まずは、演奏の前に簡単にこちらの紹介でもしようか。——そちらの水色のドレスのお嬢さんは、先日行った息子の初披露会には、来ていなかったようだからな」

 フリージアは、突然自分のことを言われ、驚きのあまりビクッとしてしまう。

「ははっ。驚かせてしまったかな。まあそんなに怖がらずに聞いて欲しい。まず私の隣に座っているのは、私の妻で名前は…」

 国王が自ら紹介をし始めたことにフリージアは驚き恐縮したが、そのまま静かに話を聞いていく。

「—そして、次に私の隣にいるのは…」

 国王が視線を向けた方をフリージアは、緊張しながらも、なんとなく見つめる。
 緊張しすぎてボヤボヤとしか最初見えていなかったその人は、
 背が高く黒髪にグレーの瞳、体は鍛えてありつつも腰あたりにかけてはくびれており、端正な顔つきの——

「息子のセレスだ」

 ずっとフリージアが会いたかった相手、ファビウスが立っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

二十年以上無視してきた夫が、今さら文通を申し込んできました

小豆缶
恋愛
「お願いです。文通から始めてもらえませんか?」 二十年以上会話もなかった夫――この国の王が、ある日突然そう言ってきた。 第一王妃マリアは、公爵家出身の正妃。だが夫はかつて、寵愛する第三王妃の話のみを信じ、彼女を殴ったことがある。その事件が原因で、マリアは男性恐怖症が悪化して、夫と二人きりでは会話すらできなくなっていた。 それから二十年。 第三王妃はとある事故で亡くなり、夫は反省したらしい。だからといって――今さら夫婦関係をやり直したいと言われても遅すぎる。 なのに王は諦めない。毎日の手紙。花を一輪。夜食の差し入れ。 不器用すぎる求愛に振り回されるうち、マリアの中で止まっていた感情が少しずつ動き始める。 これは、冷えきった政略夫婦が「文通」からやり直す恋の話。 ※本作は「存在されていないことにされていた管理ギフトの少女王宮で真の家族に出会う」のスピンオフですが、単体で読めます。

冷遇妃ライフを満喫するはずが、皇帝陛下の溺愛ルートに捕まりました!?

由香
恋愛
冷遇妃として後宮の片隅で静かに暮らすはずだった翠鈴。 皇帝に呼ばれない日々は、むしろ自由で快適——そう思っていたのに。 ある夜、突然現れた皇帝に顎を掴まれ、深く口づけられる。 「誰が、お前を愛していないと言った」 守るための“冷遇”だったと明かされ、逃げ道を塞がれ、甘く囲われ、何度も唇を奪われて——。 これは冷遇妃のはずだった少女が、気づけば皇帝の唯一へと捕獲されてしまう甘く濃密な溺愛物語。

婚約破棄すると言われたので、これ幸いとダッシュで逃げました。殿下、すみませんが追いかけてこないでください。

桜乃
恋愛
ハイネシック王国王太子、セルビオ・エドイン・ハイネシックが舞踏会で高らかに言い放つ。 「ミュリア・メリッジ、お前とは婚約を破棄する!」 「はい、喜んで!」  ……えっ? 喜んじゃうの? ※約8000文字程度の短編です。6/17に完結いたします。 ※1ページの文字数は少な目です。 ☆番外編「出会って10秒でひっぱたかれた王太子のお話」  セルビオとミュリアの出会いの物語。 ※10/1から連載し、10/7に完結します。 ※1日おきの更新です。 ※1ページの文字数は少な目です。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年12月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、番外編を追加投稿する際に、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎ 王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。 ……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。 追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。 無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」 騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!

悪役令嬢ですが、兄たちが過保護すぎて恋ができません

由香
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢・セレフィーナに転生した私。 破滅回避のため、目立たず静かに生きる――はずだった。 しかし現実は、三人の兄による全力溺愛&完全監視生活。 外出には護衛、交友関係は管理制、笑顔すら規制対象!? さらに兄の親友である最強騎士・カインが護衛として加わり、 静かで誠実な優しさに、次第に心が揺れていく。 「恋をすると破滅する」 そう信じて避けてきた想いの先で待っていたのは、 断罪も修羅場もない、安心で騒がしい未来だった――。

なりゆきで妻になった割に大事にされている……と思ったら溺愛されてた

たぬきち25番
恋愛
男爵家の三女イリスに転生した七海は、貴族の夜会で相手を見つけることができずに女官になった。 女官として認められ、夜会を仕切る部署に配属された。 そして今回、既婚者しか入れない夜会の責任者を任せられた。 夜会当日、伯爵家のリカルドがどうしても公爵に会う必要があるので夜会会場に入れてほしいと懇願された。 だが、会場に入るためには結婚をしている必要があり……? ※本当に申し訳ないです、感想の返信できないかもしれません…… ※他サイト様にも掲載始めました!

【完結】自分の都合で婚約破棄したら穴の中で暮らす羽目になった。

ジャン・幸田
恋愛
 俺は元は王子の伯爵だ。でも治めているのは穴の中だけだ。なぜそうなったのか? ざまあされた結果だ。まあ、聞いてくれ!

妹の身代わりだった私に「本命は君だ」――王宮前で王子に抱き潰され、溺愛がバレました。~私が虐げられるきっかけになった少年が、私と王子を結び付

唯崎りいち
恋愛
妹の身代わりとして王子とデートすることになった私。でも王子の本命は最初から私で――。長年虐げられ、地味でみすぼらしい私が、王子の愛と溺愛に包まれ、ついに幸せを掴む甘々ラブファンタジー。妹や家族との誤解、影武者の存在も絡み、ハラハラと胸キュンが止まらない物語。

処理中です...